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神隠し  作者: 四苦八苦
10/14

隠(おぬ)

 牛のような角を生やした大男がいた。

 三メートルを超える巨体が、うっすらとした霧の中から現れる。


「でかい……」


 高さだけでなく、筋骨隆々の体つきで横にもでかい。

 そして丸太のような腕には、金棒が握られていた。

 相対するだけで、もの凄いプレッシャーを感じる。


「あ、あれ?」


 異形の姿が霞んで見える。

 集中して見ないと、姿を見失ってしまう。

 どういうことだ。


「柳さん! 鬼……その異形は姿を隠すことが出来ます。気をつけて下さい」


 後ろにいる弧影さんが教えてくれた。


 マジかよ、厄介だな。

 集中して異形の姿を追う。

 すると奴は、地面を揺らしながらこちらに近づいてくる。

 破敵を構え臨戦体勢をとる。


 お互いの射程距離に入り、異形が金棒を振り上げる。


「チッ!」


 俺は破敵を振るう。


 異形の振りかざした金棒と破敵がぶつかり合う。


「なっ!?」


 破敵は金棒を斬り裂けず、つばぜり合いをする形になった。

 そして、力に勝る異形に押しきられ、吹き飛ばされる。


「クソッ」


 痛みに耐え、すぐさま立ち上がり異形に対して構えをとる。

 だが内心はかなり動揺していた。

 ここまで力が劣る俺が生き残れたのは、破敵がどんなものでも斬ってくれたからだ。

 たが、異形の金棒は斬り裂けなかった。

 今までどんな敵も斬り裂いてきた破敵が。


「やばいな」


 正直、破敵に斬れないものはないと思っていた。

 だが今度の異形は、同じレベルの武器を持ち、力は相手が上。


「どうする……」


 正面からいっては分が悪い。

 なにか搦め手を考えなければ。

 だが異形は、考える時間を与えてくれない。

 金棒を振り回し、攻撃してくる。


「ちくしょう」


 異形の攻撃を避けるのに精一杯で、反撃の手だてを考える隙がない。

 そしてなおも、異形の姿は霞んで見える。

 集中して見ないと、姿を見失ってしまう。


「クッ」


 なんとかギリギリで避けているものの、金棒の風圧でバランスを崩しそうになる。


「ちきしょう、とんでもないパワーだ」


 当たったら即死してしまう。

 かすっただけでも、手足がちぎられそうだ。


 ……いけない、考えてはいけない。

 そんなことを考えていては、動きが鈍る。


 なんとか異形の攻撃を避けるものの、除々に林の方に追い込まれていた。


「クッ、林か」


 いつの間にか、木を背にしていた。


「林の中に入るか」


 障害物があれば、隙ができるかもしれない。

 そう思い、林の中に入る。


「甘かった……」


 異形は木を金棒で薙ぎ倒しつつ、こちらに向かってくる。


 木などなんの障害でもないかのように。

 こちらは逆に、木が邪魔で動き辛い。


「やばい、どうする……あれは!」


 少し離れた所にある大木を見つけた。

 あれなら異形の攻撃に耐えられるかもしれない。

 異形の攻撃の隙をみて、大木を目指してダッシュする。


「はあっ、はあっ、なんとか辿り着けた」


 大木に寄りかかる。

 しかし異形は、一息つく時間を与えてくれない。

 地面を揺らしながら近づいてくる。

 大木の影から異形の姿を見ると、異形はまっすぐこちらに向かって来ていた。

 破敵を握る手に力が入る。

 この大木を盾にしながら攻撃しよう。

 そう思って構えていたら、反対側から衝撃がくる。


「大木ごと俺を薙ぎ払うつもりか」


 俺は大木から離れ、異形に突っ込む。


「うらあああ!」


 破敵を振るい、異形の両手首を斬り落とす。


「うわあっ」


 大木が倒れ、衝撃で吹き飛ぶ。


「痛え、でもこれで金棒は使えないはず」


 立ち上がり異形を見る。


 異形は両手首から血を流していた。

 その姿を見て、もう異形に攻撃手段がないと思っていたが甘かった。

 異形は頭の角をこちらに向け、突っ込んでくる。


「チッ!」


 俺は異形の攻撃を横に避け、すれ違いざまに下から首を斬りあげる。

 異形の首と胴体が地面に転がる。

 そして、しばらくすると光の粒子になり俺に吸収された。


「終わった」


 俺は駆け寄る弧影さんを見ながらそう呟いた。

≪妖怪解説≫


【鬼】おに


 頭に角があり巻き毛の頭髪である。

 口からは牙が生えていて、鋭い爪を持つ。

 虎の毛皮の褌を腰に巻いていて、表面に突起のある金棒を持った大男。

 【おに】の語源はおぬ(隠)が転じたもので、姿の見えないもの、この世ならざるものであることを意味した。



次話は9/20の予定です。


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