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神隠し  作者: 四苦八苦
9/14

言い伝え


「すみません、柳さん」


 そう言って弧影さんが、俺の胸から顔を離す。


「いや、弧影さんは大丈夫」


「はい、私は大丈夫です」


 儚げな笑顔を浮かべて答える。

 その笑顔を見てドキリとする。

 中学生くらいに見えるけど、妙に色っぽい。


「それにしても柳さん、お強いんですね」


「え!? ああ、まあね」


 ちょっと変なこと考えていたので、うまく答えられなかった。


「最後の方なんか私、ドキドキしちゃいました。左腕を斬ると見せかけて、殴ってきた右腕を斬るなんて」


 ……うーむ。


「あの動きの速いヒヒに、負けないくらいのスピードでしたね」


 弧影さんが興奮気味に言う。


「いやまあ、異形を倒した時に吸収した霊力のおかげなんだけどね」


「それでもやっぱり、凄いです」


 なおも弧影さんは褒めてくれる。

 そこまで褒められると照れる。



「そう言えばあの異形は、ヒヒって言うんだ」


 あんまり褒められ過ぎて照れくさいので、ちょっと話題を変えてみる。


「はい、岩見重太郎が退治した有名な妖怪です」



 有名な妖怪なのか。

 知らなかった。



「ヒヒは神のふりをして、村人に生け贄を要求していたんです」


「生け贄?」


「はい、若い娘が選ばれて、犠牲になったそうです」


 酷い話だな、若い娘を犠牲にするなんて。


「かわいそうだね」


「ええ、その話を聞いた岩見重太郎も同じことを思い、生け贄の代わりに自分が箱の中に入ることにしたんです。そして生け贄を食べようと現れたヒヒに、箱の中から飛び出て、胸に刀を突き刺して退治したんです」


 ほう、やるじゃないか岩見重太郎。


「じゃあヒヒが退治されて、村が平和になったんだね。良かった」


「そうですね。でも……」


 そう言って弧影さんは悲しげ眼をする。


「でも、それまでに犠牲になった人達は可哀想ですよね」


 弧影さんの言葉を聞いてはっ、とする。

 そうだ、退治してめでたし、めでたしではない。

 それまでに犠牲になった人達を忘れるな。


「人って、自分が助かるためなら、他人を犠牲にすることもいとわないんですね」


 吸い込まれそうな黒い瞳で見つめながら言う。


 俺はなんて言えばいいのだろう。

 言うべき言葉が見つからない。


「そう言えば、こんな言い伝えを聞いたことがあります」


 俺が答えに窮しているのを察してくれたのか、弧影さんが話題を変えてくれた。


「ある村も、請われるままに生け贄を出していたそうです。そして問題が解決した後、今まで犠牲にした娘達の祟りを恐れて、神として祀りました」


 弧影さんは淡々と語る。


「だけどそれからその村に住む者が、一人、また一人と消えていった。そして気がつけば、村人は誰もいなくなったそうです」


「それって……」


「それはそうですよね。自分達で生け贄にしておいて、後になって祟りが怖いからって神として祀られたところで、赦せるわけないですよね」


 弧影さんは表情を消して語る。


「それ以来、その土地で人が暮らしても、いつの間にか人が消えてしまうんです」


 弧影さんの話に思わず息を飲む。

 それにしてもこの話って、この村のことじゃないか。

 だとしたら、この世界を造った者は……。


「きゃっ!」


「うわっ!」


 突然地面が揺れる。


「弧影さん、下がって」


 地震かと思ったが、そうではない。


 ――異形だ。






次回は9/13の予定です。

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