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裏切りのアクバル

 アクバルが驚きの表情で、鳥かごが消えた場所を眺めている。


 「記録の通りだ。

 これで、我が国の当時の王達は、そしてアスラを宿し者も葬られたのか。

 封印された先で、どうなっているのか?

 封印されて100年以上の時が経つ。本当に生きて呼び戻せるのか?」


 アクバルが心の中で、つぶやいている。

 ジャコブは驚きの表情のアクバルを横目に話を続けた。


 「そして、封印を解く方法だが、先の魔法陣を取り囲む大きさの180度回転した魔法陣を使用する」

 「180度回転した大きな」


 アクバルはジャコブの言葉を反芻している。


 「描く陣は全ての陣を無効化する陣だ」


 そう言うと、ジャコブは魔法陣を描き始めた。アクバルはその陣を食い入るように見つめている。

 ジャコブが最後の線を描きいれると、その中央に黒い闇が生まれた。

 やがて、その闇は静かに広がり、封印の陣が描かれている領域を越え、無効化の陣の広さまで広がった。

 そして、闇は一瞬にして消滅した。


 闇が去ったその後には鳥かごが戻っていた。

 アクバルが走り寄る。鳥かごの中にはさっきと変わらず小鳥がいた。

 鳥かごを持つアクバルの手が震えている。


 「生きている。

 向こうの空間でも生きていられるんだ。

 後は時間の流れだけだ」

 「アクバル、私も驚いたよ。一体、向こうの世界はどうなっているのだろうかね。

 確かに君が言うとおり、時間の流れだけが気がかりだが、一瞬の事なら特に問題はなさそうだ。

 君は本当に向こうの世界を見に行くのか?」


 アクバルは鳥かごを手に持つと、ふらふらと歩き始めた。


 「どうした?アクバル」

 「一瞬なら問題は無いだろうが、100年ともなるとどうなんでしょうかね?」

 「何の事だ、アクバル?」


 ジャコブが問い返した瞬間、アクバルは床に一本の線を引いた。

 その瞬間、床に束縛の魔法陣が現れた。


 「ぐっ」


 自由を奪われ、苦痛の表情を浮かべながら、ジャコブがアクバルを睨みつける。

 そんなジャコブを前に、アクバルが蔑みの視線をジャコブに向けながら、言った。


 「私は向こうの世界に行く気はさらさら無いんですよ。

 私は100年前にあなたたちの手によって封印されたアスラと我が国の軍を呼び戻したいだけなんですよ」


 アクバルはそう言うと、神に祈りを捧げ始めた。その間もジャコブは何とかしようとあがいていたが、身体を動かす事はできなかった。


 「さてと」


 アクバルはそう言うと、神父の服を脱ぎ捨てた。その下から現れたのは東方の異教徒の服だった。

 アクバルは何事も無いかのように、束縛の陣に足を踏み入れ、ジャコブに近づくと、ジャコブの額に手を当て、祈りの力を移し変え、ジャコブの額と四肢に無効化の魔法陣を描いた。


 ジャコブはアクバルの狙いが分かった。

 そして、今から自分に訪れる悲劇も分かったが、どうする事もできない。


 「ふむ。準備は整った」


 アクバルがそう言った瞬間、片付けられた机の影から3人の男と2人の女が現れた。どれも東方の国の出身だった。

 5人の男女はそのままジャコブに近づこうとした。


 「待て。陣に足を踏み入れれば、動けなくなるぞ」

 「お前はどうして動けてたんだ?」


 飛び出してきた一人がアクバルにたずねた。


 「そりゃあ、この陣の発動者だからさ」

 「そんなものか」

 「奴に近づくのは、陣を消滅させてからだ。

 それより、後の事だ。配置する場所も決められるな?」

 「任せろ」

 「分かった。では、構えろ。陣を解くぞ」


 一度輝いた魔法陣は霧のように霧散して消失した。ジャコブがぐったりと倒れ掛かったところを5人の東方人が襲った。

 その後には、床におびただしい血の塊と無用な大きな胴体だけを残し、ジャコブと言う人間はいなくなった。


 「さてと、私も消えますか」


 アクバルは再び神父の服を着込むと、その部屋を出て行った。

 床に残された鳥かごの中で、小鳥が何事も無かったかのようにさえずっていた。

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