アクバルの笑みの裏側
そんな頃、この国の一地方では暴動が起きていた。
商店と言う商店は荒らされ、略奪の限りが行われていた。
物を奪った後の商店には火がかけられ、街のあちこちで炎と黒煙が吹き上がっている。
主に狙われるのは、この国の民が開いている店であり、襲っているのは東方より流れてきて、この国に住み着いた者たちであった。
東方の者は所詮、異国の出身者であり、人種も違う。
いくら働いてもその賃金は安く、その努力が報われることはなく、底辺の生活を送らざるを得ない。
そんな彼らの心は荒み過ぎており、何かのきっかけで暴発する状況だったところに、事件は起きた。
ある商店で商品が無くなった事に気づいた商店主が、その場にいた東方の者を盗人として、罵倒し、暴行したのである。
暴行され、重傷を負ったその者から盗まれたはずの商品は出てこず、数日して、この国の不良少年グループの犯行だと言うことが明るみに出ると、東方出身者たちの不満は一気に爆発した。
次々に襲われる商店。
暴行の被害にあう国民たち。
その地を治めるバルロー家は国民の安全確保と治安維持のため、鎮圧に乗り出したが暴徒の数が多すぎ、手を焼いていた。
そんな知らせが少しだけだったが、悩んでいたジャコブの背中を押した。
「彼らの心は荒んでいる。
彼らは主の救いを求めている。
彼らの心の中に平穏を呼び戻すには、神の教えが必要なのかも知れない」
ジャコブはアクバルを広間に呼び出した。
広間の天井は高く、普段は机が並べられていたが、ジャコブがそこに着いたときには、机は全て端に寄せられ、中央に広い空間が作られていた。
「これは?」
ジャコブはその様子に驚いた。
広間を見渡すジャコブは、その広い空間の真ん中に立っているアクバルを見つけた。
「これは君がやったのか?」
「はい。私をお呼びになられたのは、きっと封印の陣に関し、お教えいただけるんだと思いまして。
そのための準備を」
「どうして、そう思った?」
「誰にも言うなと口止めされましたので、これはそう言う事以外あり得ないかと」
「そうか」
そう言うと、ジャコブはアクバルの前まで進み、一枚の茶褐色ぽい金属の丸い板を床に置いた。
「これは?」
アクバルはその板に目をやった。
そこには勇猛そうな顔つきで、今にも襲ってきそうなポーズを決めた人のようであって、人でなさげなものが描かれていた。
描かれているものの正体を知ったアクバルの瞳が、一瞬見開いた。
「知っての通り、異教の神の肖像を描いたものだ。
それも、君たち東方の国の神の中でも最高の地位を有している神だ。
君たちの国ではこの神を絶対的と信じているはずだ」
「で、これで何を?」
アクバルの問いにジャコブはアクバルを見つめた。
「疑っている訳では無いのだが、念には念をと言うわけで、君が異教の信者ではない事を確かめたいのだよ」
「そんな事ですか」
アクバルは笑いながら、その金属の板を見事なまでに足で踏みにじった。
「こんなものは神でも何でもありません。
こんなものが神なら、わが国はもっと発展していたでしょう。
私が信ずるのは唯一、この国の神の教えのみ」
そう言うと、今度はきびすを返し、広間の置くに設けられた祭壇に向かい、跪いた。
ジャコブはそのアクバルの姿を見て、安心した。
「すまない。君の信ずる気持ちを試してしまったようで」
「いえ」
アクバルはにこやかに微笑んだ。
「本当に信ずるもののためであれば、見かけ上それを裏切るような行為を行っても許されるものさ」
アクバルはその笑みの裏で、そう思っていた。
「さて、君が知りたがっていた封印を解除する方法だが、まずは封印をしてみよう」
そう言うと、ジャコブは手にしていた小さな鳥かごを床に置いた。
鳥かごの中には小さな小鳥が一羽いた。これから起こることを何も知らず、止まり木につかまって時折さえずっている。
ジャコブはその鳥かごを取り囲むように、五角形をした封印の魔法陣を描き始めた。
そして、最後の一線をジャコブが描き終えた時、魔法陣の5つ頂点をつなぐ眩い光の線が現れ、やがて全ての線がつながり、五角形に輝く空間の姿が現れた。
その空間はやがて外周より中心に向かって輝き始め、やがてその全てが目もくらむ光に飲まれた。
そして、光が消えた後、そこに先ほどまであった鳥かごは無かった。




