第20話 悪役の表彰式、まさかの壇上トラブル。
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「えー……続きまして、“年間最優秀悪役賞”の発表です」
……ああ、帰りたい。
眩しすぎる照明。きらびやかなステージ。
正義の味方たちがスーツで並び、カメラが回る。
俺は、その端っこ。
黒スーツに赤ライン、肩トゲ付き。
――そう、《怪人ブラック・アオトン》のまま。
「悪役代表の方は、壇上までお願いします!」
拍手。フラッシュ。歓声。
……なにこの空気。慣れてなさすぎて、足が震える。
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事の発端は、先週の“インターン初陣事件”だ。
SNSで「悪役が人間臭くて泣いた」とバズり、
ヒーロー協会が“教育現場の見本”として表彰することに。
……あのバズり方、絶対想定外だろ。
「社長、笑ってください!」
横でミナセが小声で言う。
「む、無理だ……顔がひきつる……」
「全国生中継らしいっす!」
「やめてくれ! こっちは戦闘より緊張してる!」
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司会がマイクを向ける。
「それでは、《怪人ブラック・アオトン》さん、一言お願いします!」
……来た。人生最大の戦場。
俺は咳払いして、マイクを握った。
「えー……俺は、まぁ、“倒れ屋”ってやつでして。
いつも殴られて、吹っ飛んで、転んで。
でも、それでヒーローが輝くなら、それでいいと思ってます」
静寂。
一瞬、空気が止まる。
観客の中の子どもが、ぽつりと叫んだ。
「アオトン、かっこいいー!」
会場が笑いに包まれる。
拍手。歓声。
……ちょっと、泣きそうになった。
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その瞬間だった。
「ドゴォォォン!!!」
壇上の後ろで、派手な爆音。
スモークが吹き出す。炎が上がる。
「わああ!? な、なにこれ!?」
スタッフが右往左往。
観客も悲鳴。
俺は煙の中で悟った。
――あ、これ演出トラブルだ。
赤間の声が響く。
「社長ー! 火薬、多めにしときましたー!!」
「お前、表彰式を戦場にすんな!!」
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結果、スモークが消えたとき、
壇上に立っていたのは俺一人だった。
他の皆は逃げ出していた。
司会が混乱しながら言う。
「え、えー……予定外の演出も含め、
本物の悪役魂を見せてくれました、《ブラック・アオトン》さんに――!」
拍手が起きた。
俺は半ばヤケクソで、手を振る。
「……悪役、やっててよかった」
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表彰式のあと、美影が駆け寄ってきた。
「……相変わらず現場、爆発しますね」
「うるせぇ、計算外だよ」
「でも、あなたの言葉、響いてましたよ。“倒れ屋でも、誰かを支えられる”って」
「……お前、録画してたろ」
「もちろん。協会の宣伝に使います」
「おい、それ許可してねぇ!」
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夜。
事務所に戻ると、ミナセと赤間が待っていた。
テーブルの上には、トロフィー。
“正義の裏を支えた者に贈る功労賞”。
「社長、これ、うちの初受賞ですよ!」
「……重いな、これ」
「プラスチックです!」
「軽っ!」
笑いながら、俺はトロフィーを掲げた。
「――悪役冥利に尽きるな」
窓の外では、遠くのステージでヒーローたちが光っていた。
俺たちの出番は、いつもその裏側だ。
でも、照明の当たらない場所にこそ、
“本当の仕事”がある。
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次回予告:
第21話「新人悪役、握手会で泣かれる」
――「“倒される姿が尊い”って泣かれても、リアクションに困る件。」




