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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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20/27

第20話 悪役の表彰式、まさかの壇上トラブル。




「えー……続きまして、“年間最優秀悪役賞”の発表です」


……ああ、帰りたい。


眩しすぎる照明。きらびやかなステージ。

正義の味方たちがスーツで並び、カメラが回る。

俺は、その端っこ。

黒スーツに赤ライン、肩トゲ付き。

――そう、《怪人ブラック・アオトン》のまま。


「悪役代表の方は、壇上までお願いします!」


拍手。フラッシュ。歓声。

……なにこの空気。慣れてなさすぎて、足が震える。



事の発端は、先週の“インターン初陣事件”だ。

SNSで「悪役が人間臭くて泣いた」とバズり、

ヒーロー協会が“教育現場の見本”として表彰することに。


……あのバズり方、絶対想定外だろ。


「社長、笑ってください!」

横でミナセが小声で言う。

「む、無理だ……顔がひきつる……」

「全国生中継らしいっす!」

「やめてくれ! こっちは戦闘より緊張してる!」



司会がマイクを向ける。

「それでは、《怪人ブラック・アオトン》さん、一言お願いします!」


……来た。人生最大の戦場。


俺は咳払いして、マイクを握った。

「えー……俺は、まぁ、“倒れ屋”ってやつでして。

 いつも殴られて、吹っ飛んで、転んで。

 でも、それでヒーローが輝くなら、それでいいと思ってます」


静寂。

一瞬、空気が止まる。

観客の中の子どもが、ぽつりと叫んだ。


「アオトン、かっこいいー!」


会場が笑いに包まれる。

拍手。歓声。

……ちょっと、泣きそうになった。



その瞬間だった。

「ドゴォォォン!!!」

壇上の後ろで、派手な爆音。

スモークが吹き出す。炎が上がる。


「わああ!? な、なにこれ!?」

スタッフが右往左往。

観客も悲鳴。

俺は煙の中で悟った。

――あ、これ演出トラブルだ。


赤間の声が響く。

「社長ー! 火薬、多めにしときましたー!!」

「お前、表彰式を戦場にすんな!!」



結果、スモークが消えたとき、

壇上に立っていたのは俺一人だった。

他の皆は逃げ出していた。


司会が混乱しながら言う。

「え、えー……予定外の演出も含め、

 本物の悪役魂を見せてくれました、《ブラック・アオトン》さんに――!」


拍手が起きた。

俺は半ばヤケクソで、手を振る。

「……悪役、やっててよかった」



表彰式のあと、美影が駆け寄ってきた。

「……相変わらず現場、爆発しますね」

「うるせぇ、計算外だよ」

「でも、あなたの言葉、響いてましたよ。“倒れ屋でも、誰かを支えられる”って」


「……お前、録画してたろ」

「もちろん。協会の宣伝に使います」

「おい、それ許可してねぇ!」



夜。

事務所に戻ると、ミナセと赤間が待っていた。

テーブルの上には、トロフィー。

“正義の裏を支えた者に贈る功労賞”。


「社長、これ、うちの初受賞ですよ!」

「……重いな、これ」

「プラスチックです!」

「軽っ!」


笑いながら、俺はトロフィーを掲げた。

「――悪役冥利に尽きるな」


窓の外では、遠くのステージでヒーローたちが光っていた。

俺たちの出番は、いつもその裏側だ。

でも、照明の当たらない場所にこそ、

“本当の仕事”がある。



次回予告:

第21話「新人悪役、握手会で泣かれる」

――「“倒される姿が尊い”って泣かれても、リアクションに困る件。」


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