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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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21/48

番外編:会社の名前と、もう一人の悪役。




「――で、社長。“うちの会社名”、そろそろちゃんと決めないとですよ」


朝の事務所。

テーブルの上には、コンビニコーヒーと申請書の山。

悪役も、税務署に書類は出さなきゃいけない。


「会社名な……“ブラック・アオトンカンパニー”とか、どうだ?」

「ダサいです」

「即答すんな」


ミナセは真顔でノートパソコンを叩きながら言う。

「“悪”って言葉を、もうちょっとカッコよくできません?

 “イービル・なんとか”とか」


「横文字にすりゃいいってもんじゃないぞ」

「でも“ブラック”よりはマシです」

「うるせぇ、こっちは本名みたいなもんだ」



赤間が割って入る。

「社長、“悪役の会社”って意味なら、

 “Actors of Evil”とかどうっすか? “悪の役者たち”」


「……アクターズ・オブ・イービル」

口にしてみる。

英語の響きが、妙にしっくりくる。

“悪を演じる者たち”。

俺たちの仕事に、いちばん近い言葉だ。


ミナセがニヤリと笑う。

「略称、“アクオビ”」

「ダサカッコいいな」

「ですよ。」


赤間が書類にペンを走らせる。

『株式会社アクターズ・オブ・イービル(通称アクオビ)』

――これが、正式にこの街で登録された。


「……悪役が法人化、か」

「いいじゃないっすか。社会的信用、多少は上がりますよ」

「いや、“悪”が信用される社会って、終わってね?」



昼。

ミナセがデスクに座り、資料を整理していた。

俺はふと思い出して言う。


「そういや、お前にも“怪人ネーム”付けとくか」

「え、私にも?」

「そりゃ社員だろ。悪役名がないと、現場じゃ浮く」


「うーん……“ミナセ”のままでもいいんですけど……」

「ダメだ。悪役に本名は似合わねぇ」


俺はしばらく考えてから、笑った。

「――“シャドウ・ミナセ”ってのはどうだ」


「シャドウ……?」

「表ではサポート、裏では全部仕切ってる。

 “影の参謀”って意味で、ピッタリじゃねぇか」


ミナセは一瞬、きょとんとしてから笑った。

「……悪くないっすね。

 “ブラック・アオトン”と“シャドウ・ミナセ”。

 並べると、それなりにヒーローっぽいですけど」


「それは言うな。うちは“ヒーローじゃない側”の会社だ」



夜。

会社のドアに、新しいプレートが貼られた。


株式会社アクターズ・オブ・イービル

――悪を演じ、世界を支える。


ミナセがプレートを見上げながら、呟いた。

「……なんか、ちゃんと会社っぽいですね」

「っぽいだけで十分だ。」

「社長、サイン書きましょうよ。“代表取締役・ブラック・アオトン”。」

「サイン、怪人名でいいのかよ。」

「うちの会社、怪人名が本名ですから。」


ふ、と笑う。

正義がシステムで回る街で、

“悪”だけが人間のままでいる――そんな会社。


それが、“アクオビ”の始まりだった。



次回:

番外編②「会社ロゴを作ろうとしたら、全員センスが壊滅してた件」

――「“悪のA”をデザインしたら、どう見ても某配達サービスに。」

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