間話④ 男たちの守りたい理由
〈ヴォル視点〉
姫さんが3日ぶりに起きて落ち着いた後。
改めて4人で話し合うことになった。
といっても俺は何も知らないけど。
話を聞いていくと、信じがたいことばかりなのに会話が成り立っている。
だから本当のことなのだろうと思う。
それでも。
とりあえずただひたすら黙って話を聞き、だいたいのことを把握できたとき、感じたのは怒りだった。
何故自分がこんなことを感じるのかも、よくわからない。
ただ姫さんが、生きていることがわかったのに、何故伝染病があるとわかっているここに来たのかが理解できなかった。
「人の役に立ちたかった」
それは立派なことだが、どうして王女である姫さんが直接自分で行かなければならなかったのか。
事情があるのはわかってる。
他に動ける人間がいなかったのも。
わかっていても腹が立つのは何故なのか。
自分でも持て余していた感情は、その疑問とともに姫さんに向かった。
どうして自分の命を粗末に扱うのか──
どうしようもなくイライラして、これ以上ここにいたらもっと酷いことを言ってしまいそうだった。
言ってしまう前に逃げ出した。
我ながらそれは正解だったと思う。
逃げ出した先で収まらない怒りを持て余していた。
好物ではあるが匂いがつくことから、普段あまり食べないチョコレートをポイポイと口に突っ込んでいく。
ようやく落ち着いてきたときにはもうチョコレートは最後の一個だった。
何故自分はこんなにも怒りを感じているのか。
普段感情の起伏などあまりないのに。
そこでこんなのはいつ以来かと考える。
怒りを感じたのはアレ以来か──
『お前は……俺みたいに、なるなよ……生きろ』
俺の判断ミスであいつも死んでいった。
俺は仕事の指示なんかよりも自分を優先してほしかった。
あの時感じたのは、怒りと虚無感。
──もう二度と、あんな思いはごめんだった。
ぼんやりしていると姫さんが隣に現れた。
先ほどより落ち着いているとはいえ、イライラはおさまっていない。
思わず睨みつけるも、いつも通りすぎる態度に驚く。
それは自分の方がおかしいのかと思わせるものだった。
長い沈黙のあと、仕方なく先ほどの疑問をぶつけた。
そして出した言葉は『贖罪』──
ああ、姫さんも俺と同じなのかもしれない、とふいにそう思った。
俺とは違ってなんだか規模は大きいし、あんな女に言われたことでそこまで責任感じなくてもよくないか、とは思ったが。
同時に腑に落ちた。
自分のことを粗雑に扱っている理由も。
……それ以外の理由もありそうだけど。
ジークとサイラスには秘密、というのも不思議と優越感を覚えた。
「かわりに命を粗末にするのは許さない。次そんなことがあれば二度と姫さんには会わない」
「わかったわ」
厳しく条件つきで今後もそばにいることを伝えるも、わかっているのかわかっていないのか。
いつものような呑気な返事だった。
(しょうがない……)
そんな姫さんに絆されてしまう俺も俺だ。
姫さんが関わると自分の今まで知らなかった感情に振り回される。
それでも、それが嫌でもない自分にも驚く。
……この姫さんの面倒を見られるのは、たぶん俺だけだ。
◇◇◇
〈サイラス視点〉
エリーとちゃんと話すことが出来た、と思う。
俺の気持ちを短い時間だったこともあり、全部は無理でも少しは伝えられただろうか。
もう最悪恨まれていて、2度と顔も見たくない、と言われることも想定していた身としては、嫌いではない、という側にいていいと許可をされたことだけでもとてもありがたいし、叫び出したいほど嬉しかった。
今日いろいろ話したことで、エリーも考え込んでしまうだろう。
それで眠れなくなったら体調を崩してしまうかもしれない。
今は大丈夫だと言っていたが、明日院長に診察してもらおう。
そんなことを考え催眠魔法をかけたら、すぐに寝てしまった。
会わないうちにすっかりと大人びた彼女でも、寝顔はあどけない。
こんな無防備ではダメだろう。
魔法をかけたのは俺だけど。
そして思わず唇に視線がいってしまう。
救命措置の一環だったし、あの時はそれしか魔法を解除する方法はなかったけれど。
(柔らかかった…… )
改めて思ってしまうのは、そんなことで。
そんなことを思ってしまう自分が情けない。
でも仕方がないだろう、俺も男だ。
事故のようなものだが念願の──
幼い頃から夢に見ていた口付けは、思っていたようなシチュエーションではなかったし、当のエリーは覚えていないのだが。
そのことに少しの罪悪感も感じ、また本人がこのことを知ればどう思うか。
それを知るのも怖い。
それでも、これからの人生は何があっても全てエリーに捧げることを決めているから、離れるという選択肢はない。
償いをするはずなのに、一方ではエリーに期待をしてしまっている自分もいる。
焦ってはいけない。
こんなに優しいエリーに余計なことをして、そっぽを向かれてはたまらない。
少しずつでも構わないから、彼女には離れていた分も私を知って、好きになってもらいたい。
そして最後には彼女の愛を得られたら、それ以上のことはない。
だからそれまでは、どんなに渇望しようとも急かすような真似はしない。
それまでは今までどおりの接し方を心掛け、大人しく彼女に尽くすつもりだ。
そう決意を新たに部屋を出た。
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