3、余命宣告
「……さま?…エリザベス様!」
その声にハッと我に返り、声がしたほうに視線を向けた。
そこには私の侍女のエレナがいて、泣きそうな顔で心配そうにベッドに座っている私の顔を床に座りこみ覗き込んでいた。
「……エレナ……?」
「あぁ、エリザベス様……ショックなのはよくわかります……私ももう、どうすればいいのか……」
そう言ってエレナは涙を流し始めた。
(ショック……?どういうこと……?)
とういうか今の状況は一体どういうことか。ここは離宮にある私の部屋だ。私は首を切られ処刑されたはず。たしかにあれを見ていればショックは大きいだろう。
でもそういうことではないことはわかる。あれは夢だったのか。いや、あれが夢であるはずがない。首を切られて死ぬ瞬間の感覚を鮮明に覚えている。
では、何故生きているのか。無意識に首元を手でさすりながら思考を巡らせているとき。
「こればかりは……もうあの幻の薬草を探すしか……」
ここで初めて男の人の声が聞こえてきた。驚いた勢いのままその方を振り返ると、白衣を羽織ったおじいさんがいた。
(この方は……)
そうだ、この方は私の診察をしてくれた町のお医者様。
でも、彼とはあれ以降は会っていないはずだ。エレナがときおり症状を軽くする薬を受け取って持ってきてくれるだけの関係だった。
混乱が収まらずに再びエレナのほうを見ると、1年ほど前に転んだ拍子にガラスで切ったという頬にできた傷跡がなかった。
そして改めて自身の手を見下ろし、自分の体にも意識を向けてみる。体調が悪いことには変わらないが、先ほどよりもだいぶ体が軽い。
(まさか……)
信じがたい可能性が頭をよぎり、目の前の医者をみつめた。どくんどくんと心臓が脈打ち、逸る気持ちを必死に抑えてお願いする。
「……お医者様、申し訳ありませんが、もう一度、初めからお願いしてもよろしいですか……?」
「……かしこまりました……現実を受け止めきれない気持ちはよくわかります……」
そうお願いして聞かされたことは、以前聞いた診察内容と同じだった。
私はよく眠れないことから始まり、食べ物を食べると胃もたれし、頻繁に動悸がするという体調不良から医者にかかった。
医者と言っても私は王女とは名ばかりで、宮廷医にかかることができなかった。こんな状況なこともあり、唯一私を支えてくれる侍女であるエレナが、こっそり街では名医と言われているらしい医者をこの離宮まで連れてきてくれたのだ。
そしてそこで告げられたのは余命が2年半から3年ほど、ということだった。
「先天的に魔力を多く持って生まれた人に発症する非常に珍しい病気です。申し上げにくいのですが……いままで私がこの症例の方と会って、今も生きている人は……おりません」
「そう……」
これも前に聞いた話と同じ。ということはもしかして。
(時間が、戻っている……?)
私が余命宣告されたのは2年半前。処刑されるのはそれから2年半後で、ちょうど余命だとされていた時期だった。
もうそのときには日々体が重く、動くのもやっとだったことを考えると、間違いないだろうと思う。
「……わかったわ。わざわざここまで来てくれてありがとう。これからどうするか、少し考えてみるわね……エレナ」
「……ぅっぐす、はい。……こちらに」
堪えきれずに涙を流しつつも私の意図を悟ったエレナは、小さな箱を持ってきてくれた。
「ごめんなさいね。王女とは名ばかりで……こんなものしかないけれど、今日のお礼よ。お金を渡すことができなくて申し訳ないのだけれど……受け取ってくれるかしら」
あらかじめ用意していたルビーのネックレスを渡した。
「いえこんな……!!受け取れません……!!私は何もできることがありませんし、ただ……余命をお伝えしたにすぎません……」
医者としてはやるせないのだろう。悲しそうな顔でそう言うが、それでも忙しい中こそこそと離宮まできてもらって診てもらったのであれば、渡さなければならないだろう。
「いいえ。それを教えてくれただけでもありがたいことなの。だから受け取ってくれると嬉しいわ」
「……そういうことでしたら……」
医者は金額に換算しても多すぎるので、定期的に症状が緩和する薬だけでも提供すると言って帰っていった。
これも前回と同じ。
エレナが王城の外までまたこっそりと連れ出してくれるため、一人になった。
ここでやっと落ち着いて自分の状況を考えることができた。
ゆっくりとベッドから降りて鏡の前に移動する。やはり少し若返っている気がする。顔色もまだ少し良く、幼い感じがする。余命宣告されたのは私が16歳のときだ。
あの騎士がなだれ込んできた日はしばらく臥せっていてやっと起き上がることができた日だった。先ほどの医者が処方してくれた薬茶を飲んでいたところだった。頬をつねってみると痛いから夢でもなさそうだ。
ひとまずまだ原因はわからないけれど、時間が巻き戻ったということなのだろう。
そして、あの死の間際に思い出した前世の記憶。そしてこの世界が私が読んだ小説の世界ということ。
前世の私は日本という国に住んでいる普通の会社員だった。そしてまだ若いうちにトラックに轢かれて死んでしまった。通勤途中にウェブ小説やラノベを読むのが好きだった。その中のひとつがこの世界だ。
(まさか小説に転生するなんて……)
たしかにこんな小説もあったなと前世に思いを馳せる。しかし今はそんなことも言っていられない。
けっこうな種類の小説を読んだが、どういうストーリーかある程度は思い出すことができた。これもある意味転生チートというやつなのかもしれない。
読んでいただきありがとうございます!




