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処刑された悪の王女は、贖罪を選ぶ 〜すべてを捨てたはずが、なぜか誰にも手放してもらえません〜  作者: はな


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24、狂信者は微笑む


 兄のように慕っていた人とジークハルトがどこか似ていた。


 自分をそのまま受け入れてくれたあの在り方は、関わるほどにもういない誰かの面影が胸の奥を掠めた。


 そして──ヴォルもまた、私と同じ側の人間だった。


 どうして今さら思い出したのか。


(私は、小説を全部覚えているわけじゃない……?)


 転生チートだと思っていたのに、不安が胸を締めつけた。

 そんな私をよそにラルフさんは話を続けている。


「……ああ、この人は本物だって思ったんです。ずっと、尊敬してました」


 うっとりと呟く声は、恋でもしているみたいに甘かった。


「……で、お前は誰?」


 興味の欠片もない声。


 その温度差に、ラルフさんはびくりと肩を震わせ──次の瞬間、心底嬉しそうに笑った。


「ああ、失礼しました……。犬が勝手に吠えるなんて、無作法ですよね」


 胸に手を当て、芝居がかったほど丁寧に頭を下げる。


「ラルフといいます。一応いまは、サントール王国モリッツ侯爵の飼い犬ですよ……よく躾けられてますから、噛みつきませんよ」


 そう言って、作り物みたいな笑みを浮かべた。


「麻薬を流して、伝染病みたいに広げろって。ああ、でも安心してください、すぐ死にはしませんよ。ゆっくり壊れるだけですから。小麦がどうとか、ヤブサ?だったか誰と利害が一致したとか……そういうの、僕にはどうでもよくて。ただ、壊せばいいんですよね?」


 ヤブサ子爵──マイザーの領主。


 前回の流行も、賞賛も、全部……仕組まれていた?


 そう考えた瞬間、血の気が引いた。


 小説にはなかった。

 つまり、これは──知らない未来だ。


 薬師見習いの頃と同じ笑顔──なのに、どこか空っぽだった。


「大丈夫ですよ。まだ何もしてないから」

「……そんなお喋りしたら、もう潜入はできないんじゃない?」

「その点は問題ありません」

「……へえ。大した自信だ」

「ええ。だって今のこの国、触れれば勝手に壊れるでしょう?」


 まるで出来の悪い仕掛けを評するみたいな口調だった。


「国王夫妻も外聞も、もうボロボロでしょう?ちょっと押したら、勝手に崩れますよ。積み木みたいに」


 ふ、と楽しげに息を漏らす。


「まあ……壊れなかったら、壊すだけなので」


(よくもそんなこと……)


 話を聞きながらも、自身の体がこれ以上ないほどに強張っていくのを感じる。


「犯人が誰かなんて、どうでもいいんです。外の国は理由が欲しいだけだから。疑えれば、もうそれで十分でしょう?」


 まるで子どもに当たり前のことを教えるみたいな声音だった。


「僕は少し触るだけ。ほら、傷口って、放っておいても勝手に裂けるじゃないですか」


 ふ、と満足そうに笑う。


「あとは勝手に戦争になりますよ。……今回の仕込み、なかなか綺麗だったなぁ」


 ラルフさんが自分自身を褒めて満足気に頷いた、その時──


「サイラスっ!」

「はっ!」


 剣を構えていたサイラス様がお兄様の掛け声でラルフさんをとらえようと切り掛かる。


 しかしそれをヒラリとかわして飛び、最初にいた部屋の奥へと着地した。


「あーあ……台無しだ」


 心底がっかりした顔で、ヴォルを見る。


「やっと会えたのに。もっといっぱい、話したかったのになぁ…… 白銀の魔剣士もいるなら、流石にこれは分が悪いか。残念」


(…… 白銀の魔剣士?)


 視線だけで他の二人を数え、つまらなそうに首を傾げる。


「……あなたに選ばれたいんですよ。敵としてでもいいから」

「興味ないね」

「そっか……じゃあ、あなたの視界に入れるくらい、ちゃんとやらないと」


 うっとりとした声でそう囁いて、煙みたいに姿が消えた。


「くそっ!ヴォル!追えるか!?」

「……微妙だけど」


 そう言ったヴォルも姿を消した。


 そして残されたのは体から血を流す患者さんたちと、無惨にも散らばっている赤い花。


 そして私がもう最期まで会うつもりがなかったお兄様と、婚約者であるサイラス様だった──




 気まずい空気が流れるか、と思ったが。


 そんなことを思う間もなく、サイラス様がすぐに私の側に戻ってきた。


「エリー!怪我はないか!?あいつを仕留めることが出来ず不甲斐ない……」

「いえ、あの、そんな……」


 突然のサイラス様の豹変に驚きが大きすぎて、そんな空気は離散した。


 そんな中、サイラス様の肩を掴んで引っ張ったのは髪が赤いお兄様だ。


「落ち着け。ひとまずエリザベスとの再会の挨拶は後だ」

「お兄、様……」

「まぁ、そうだな……先ほど全員確認したが、みな軽傷だ。命に関わる人はいない」


(もしかして、さっき剣で戦っている時に確認したの……?)


「あいつが、とどめを刺そうとしていた。止めながら確認したが……命に関わる者はいない。おそらくじわじわ痛めつけて苦しむ様を見たかったんじゃないか?」

「……悪質だな。わかった、じゃあひとまず治療が必要だな。ベッドを元に戻すところから──」


 それでようやく理解した。

 あの戦いの最中、そんな余裕があったなんて。


 それにラルフさんが言っていた『白銀の魔剣士』というのは、おそらくサイラス様のことなのだろう。


 そんな二つ名、小説にもなかった。


(私は、サイラス様のことを何も知らない……)


 ふとそんなことが頭をよぎる。

 しかし今はそれどころではない、と頬を叩き、傷ついた人たちの治療からだと頭を切り替える。


 考えるのは後だ。

 私はすぐに治療に取りかかった。




読んでいただきありがとうございます!

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