24、自作自演
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それは兄のように慕っていた親友と、ジークハルトが似ていたから──
ジークハルトが自分をそのまま受け入れてくれたのをきっかけに興味を持ったことが始まりだった。
ジークハルトと関わるうちに、今はもういない親友の面影を感じたのだ。
もちろん、見た目がじゃなくて中身の話。
そして深くは語られていなかったが、ヴォルは私と同じ──
どうして、こんな大事なことを急に思い出したのか。
(私は、小説の内容を全部覚えている訳ではない……?)
転生チートのようだと楽観的に思っていたが、そうではなかったのだろうか。
自分の中で不安要素が出てきて、こんな状況にもかかわらず戸惑いを隠せない。
そんな私をよそにラルフさんは話を続けている。
「すごいなぁ……まさに血も涙もない最高のお方だよ、ヴォルさんは……ふふふ……」
「……で、お前は誰?」
「ああ!ごめんなさい……僕みたいな屑が挨拶もせずにヴォルさんに話しかけてしまって!僕はご存知かもしれませんが、ラルフです。今はサントール王国モリッツ侯爵に仕えています」
意外とラルフという名前はそのままだったようだ。しかし、隣国の侯爵家に仕えてるとは。
怪しさしかない正体を明かしたが、ヴォルは顔色一つ変えずに聞いている。
「今回、ここマイザーで麻薬を使い、それを伝染病として広めるようにと依頼を受けたのです。何でもこの国の小麦を手に入れるためだとか……ヤブサ子爵と利害関係が一致したとかなんとか」
(ヤブサ子爵?そういう、ことだったの……?)
ヤブサ子爵はこの地方の領主で、マイザーも含まれている。つまりはマイザーの領主である。
そして前回、伝染病を短期間かつ小規模で収束させて賞賛されていたのは、自作自演ということなのか。
そしてもとより、サントール王国と繋がっていたということになる。
2年半後、クーデターが起きていなければこの国は、どうなっていたのか。
小説の内容はクーデターからの国の立て直しの話だった。
クーデターが起こっていなければ、サントール王国などの国に攻め入られていた可能性があったということになるのか。
いろいろと最悪な未来が頭に思い浮かび、すーっと全身から血の気が引くのを感じた。
そんな私の様子に気づいたラルフさんは、『薬師見習いのラルフさん』だった時に見せていた爽やかな笑みを浮かべた。
「大丈夫、大丈夫。まだ何もしてないから」
「……そんなお喋りしたら、もう潜入はできないんじゃないの」
何が大丈夫なのかわからないラルフさんに向かって、ヴォルが追求する。
「その点は問題ありません」
「……大した自信だね」
「だって、ヴォルさんなら知っているでしょう?今やこの国は諸外国から狙われている。今の国王夫妻の無能っぷりは知れ渡っているんです。つまり、少しつつけば国には混乱が起き、国としての機能も停止するでしょう?まぁ……何もなくとも僕が起こさせるんですけどもね」
(よくもそんなこと……)
話を聞きながらも、自身の体がこれ以上ないほどに強張っていくのを感じる。
「誰がこの国の伝染病……もとい麻薬の件の犯人だとしても、諸外国は都合の良い方に勘違いして疑い、戦争を仕掛ける。僕は小さな綻びをそっと引っ張るだけ。そのためにいろいろな人物にも接触しましたし……まぁここに来る前の話ですが。僕にしては、なかなかうまく出来たと思うなぁ」
ラルフさんが自分自身を褒めて満足気に頷いた、その時──
「サイラスっ!」
「はっ!」
剣を構えていたサイラス様がお兄様の掛け声でラルフさんをとらえようと切り掛かる。
しかしそれをヒラリとかわして飛び、最初にいた部屋の奥へと着地した。
「邪魔するなよ……はぁ、楽しい逢瀬はもう終わりかな……流石にヴォルさんと白銀の魔剣士に王子が相手は分が悪いなぁ……ヴォルさん、次は手合わせでもしましょうね」
「冗談。お前とはしないよ」
「僕がもっともっと強くなれば……いつか、相手をしてもらえますかね……?」
恍惚としたつぶやきを残してラルフさんの姿が消える。
「くそっ!ヴォル!追えるか!?」
「……微妙だけど」
そう言ったヴォルも姿を消した。
そして残されたのは体から血を流す患者さんたちと、無惨にも散らばっている赤い花。
そして私がもう最期まで会うつもりがなかったお兄様と、婚約者であるサイラス様だった──
気まずい空気が流れるか、と思ったが。
そんなことを思う間もなく、サイラス様がすぐに私の側に戻ってきた。
「エリー!怪我はないか!?あいつを仕留めることが出来ず不甲斐ない……」
「いえ、あの、そんな……」
突然のサイラス様の豹変に驚きが大きすぎて、そんな空気は離散した。
そんな中、サイラス様の肩を掴んで引っ張ったのは髪が赤いお兄様だ。
「落ち着け。ひとまずエリザベスとの再会の挨拶は後だ」
「お兄、様……」
「まぁ、そうだな……先ほど全員確認したが、みな軽傷だ。命に関わる人はいない」
そう言い切ったサイラス様に重ねて驚く。
(もしかして、さっき剣で戦っている時に確認したの……?)
思い返せば、この部屋全体を使って戦っていた気がする。
あのときは、危ないとか怖いとかしか思ってなかったけれど。
「あいつがどさくさに紛れてトドメをさそうとしてたから、止めるついでに確認済みだ。おそらくじわじわ痛めつけて苦しむ様を見たかったんじゃないか?」
「……悪質だな。わかった、じゃあひとまず治療が必要だな。ベッドを元に戻すところから──」
サイラス様の言葉で私の疑問は解消された。
あの戦いの最中、そんな余裕があったなんて。
それにラルフさんが言っていた『白銀の魔剣士』というのは、おそらくサイラス様のことなのだろう。
そんな二つ名があるなんて知らなかった。小説でもなかったと思う。でもそれほどすごいということなのだろう。
(私は、サイラス様のことを何も知らない……)
ふとそんなことが頭をよぎる。
しかし今はそれどころではない、と頬を叩き、傷ついた人たちの治療からだと頭を切り替える。
気まずい気持ちや疑問には蓋をして、ひとまず目の前のことから取り掛かり始めるのだった。
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