表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生逆行王女の終活〜悪の王女が元凶に関わらないようにした結果〜  作者: はな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/32

14、薬師見習い

本日2話目です。



 廊下を曲がったところで人にぶつかり、耐えることができず尻餅をついてしまう。


「すみません、大丈夫ですか?」


 頭上から降ってきたのは心配そうな男性の声。

 視線を持ち上げると、そこには多分初めて見る人が立っていた。頑張って覚えたどの人とも特徴が当てはまらない。


(誰かしら……?)


 爽やかな雰囲気で榛色の髪に、赤色の瞳は垂れ目だ。整ったその顔立ちに、思わず小説の登場人物かと頭によぎってしまう。


「手を貸してあげたいのですが、あいにく手が塞がっておりまして……」


 申し訳なさそうに謝る男の人の片方の腕には、た薬草と思われる草が山盛りになった籠と、もう片方の手には少量の赤い花を持っていた。


「いえっ!私のほうこそすみません!前を見ていなかったもので……」


 慌てて自力で立ち上がると、ふと周りの惨状が目に飛び込む。私たちの周囲には鮮やかな赤色の花が散らばっていた。

 この男の人が持っていたものを、私とぶつかった拍子に落としてしまったのだろう。


「あぁ!ごめんなさい!すぐに拾います!」

「ありがとうございます、助かります」


 その男性も私と同じくしゃがんでくれた。手早く赤色の花を傷つけないように集めていく。


(この人、どうしてこんなにたくさんの花を……?


 今まで治療院では花を見た記憶がなかったので疑問に思う。そんな疑問の視線を向ける私に気づいたのか、彼は苦笑した。


「これは患者さんたちの気晴らしになればと思い、持ってきたものです」

「そうなんですか……」

「ふふっ僕、怪しく見えます?」

「い、いえ……そんなことは……」


 歯切れの悪い私の答えに、彼は笑みを深める。


「僕はラルフといいまして、薬師見習いをしています」

「薬師見習い……」


 その職業を聞いて納得した。私は薬の調合室などの方には近づいたことがなかった。

 顔を合わせたことがないのは、きっと彼は普段そこにいるのだろう。


「不躾にごめんなさい、私はサラといいます。先日からこの治療院でお手伝いしていて……」

「ああ、話は聞いています。なんでも魔法を使えるとか。……花を拾っていただきありがとうございます。花をこちらに乗っけてもらえますか?」

「あ、はい!」


 拾い終わった花を赤い花の方に乗せると、ラルフさんは律儀にお礼を言ってくれる。


「拾ってくださって、ありがとうございました」

「いえ、こちらが前を見ていなかったせいですから。その花は……」

「あぁ、初めて見ますか?これは香りがよく見た目も華やかだと評判だったので、こうして持ってきたのです。少しでも患者さんの気分転換にでもなればと……」

「たしかに、色鮮やかでいい香りがしますね。塞ぎ込んでいる方も多いので、効果があるといいですね」


 そんな私も体は疲れていたが、その花の優しい香りで癒されていく。これは時折、病室で香る匂いに似ていた。


「サラさんは、花はお好きですか?」

「ええ。あまり詳しくはないけれど……」

「ただ花が好きということに知識は必要ないですよ。そうだ、もしよければお一つどうぞ」


 思ってもいなかった申し出に私は目を見開く。


「……いいんですか?」

「ええ、もちろん。どうぞ」


 ラルフさんが腕に乗っている花を私の方に寄せたので、そこから一輪だけ手に取った。


「ありがとうございます。これは、なんていう名前の花なのですか?」

「これはパルマという花です。」

「ペレグ地方ではよく出回っている花です」

「ペレグ……ここから近いですね。サントール国と面していた気が。ラルフさんはペレグのご出身ですか?」

「いえ、生まれはもう少し西の方です」


(曖昧な答えだな……)


 なんとなくはぐらかされたようで引っかかりを覚えつつも、私は受け取った花の鮮やかさと甘い匂いに顔を綻ばせる。


「……少し、元気になりましたね」

「え……?」

「花や草木は人の心を癒す力があります。こんな大変な状況だからそこ、これで少しでも患者さん方も癒されればと思うのです」

「ラルフさん……」

「今はこんな状況ですけど、早くよくなってくれればと思うばかりです」

「……私も。少しでも早く状況が好転するように、尽力します!」

「僕たちは仲間ですね!」

「はい……!」


 同じ気持ちの人が目の前にいる。ただそれだけで心が元気を取り戻して前向きになれた。


 今の状況だって、何かのきっかけできっといい方向に向かうはずだと思えた。


(私が諦めたら、よくなるものもならなくなってしまう)


 ◯めたらそこで試合終了ですよ、と前世の某バスケ漫画の名言を思い出す。私は花をそっと握りしめてラルフさんに頭を下げた。


「ありがとうございます。元気になりました!」

「それはよかった。……あなたには、笑顔の方が似合いますよ」

「そんなことは……わ、私はそろそろ仕事に戻りますね!」


 なんとも口説き文句のような言葉に驚くも、もう一度軽く頭を下げてラルフさんに背を向けた。


「待ってください」

「え?」


 振り返ると、爽やかに微笑むラルフさんが私に一歩近づいた。


「サラさん、あなたには何でも惹き寄せる力が働いているのでしょうね……」


(どういうこと……?)


「いつの間についたんでしょう」


 薬草の上に花を乗せて、伸びてきたラルフさんの手が、そっと私の髪に触れる。

 すぐに離れていったその指には赤い花びらが。


「あっ……」

「もう大丈夫です」

「全然気づきませんでした……ありがとうございます」


 重ねてお礼をいった私は、今度こそ、その場を後にした。


 ──その光景を見ていた人がいるなんて、そのときの私は思ってもいなかった。


「……ふーん……」


 灰色の雲が、快晴だった空を再び覆っていた──










読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ