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それぞれの思惑

「困った…」


冒険者ギルド王都本部の本部長室で、厳つい男が頭を抱えていた。


「まさかガイウスの馬鹿が、あんな事しやがるとは…」


男の名は、ダレウス。

冒険者ギルド王都本部の本部長だ。


彼を悩ませているのは、帝都出身の新鋭S級冒険者ガイウス・シュトラウス。


この世間知らずな冒険者は、事もあろうにダレウスをスルーし、冒険者ギルド帝都本部を経由して、各国の王と主要貴族で作られるギルド管理委員会に、懲罰審議を申し出たのだ。


懲罰審議の対象者は、A級冒険者シンリ。

ダレウスを以って、逆鱗に触れれば王都を壊滅しかね無いと言わしめた程の規格外の存在だ。


訴えの内容は、不意打ちによる襲撃、迷宮攻略の妨害、そして高価な魔剣の窃盗。

全てが真実なら、死刑。運が良くて終身刑になる程の罪だが、ダレウスには、短い付き合いではあったが、シンリという男が、そんな事をするはずが無いとの確証めいた物があった。


「恐らくは怨恨。迷宮でかち合い、軽くあしらわれたんだろうが…」


自分に訴えが来てれば、いくらでも対処のしようがあったのだが、それを帝都本部経由で進められては、手の打ちようが無い。


帝都からは、既に尋問を担当する真偽官が、こちらに向け出発したと聞いている。


「本部長!帝都から捕縛依頼を受けた冒険者の方々が到着されました」

今回の件で、今出かけてるシルビアに代わり、秘書代行を務める女性が、報告に来る。


「ちっ、余計な奴らが…」

「はっ?」

「何でもねぇ、すぐ行くから下で待たせとけ!」


「…かしこまりました」


不快感を顕わにするダレウスにやや怯えながら、女性は退室して行った。


「とにかく…奴らに手を出させる訳には、絶対いかねえ!オレが行くしかねえか…」


そう言って、本部長室を後にしたダレウスを、1階で異様な集団が待っていた。

全員が、深い緑のコートを纏い、所持する武器も独特だ。


(こいつらが、アノ犯罪者殺し(ていとのイヌ)共か…)


ダレウスの姿に気付くと、リーダーらしき女性が話しかけて来た。


「これは、元SS冒険者のダレウス様。お目にかかれて光栄です。私は、犯罪者シンリの捕縛及び護送を依頼されました『緑機衆』筆頭、エヴィと申します」


(こいつがリーダーの『緑鞘刀』のエヴィ。あっちの大鎌の女が『斬咲』ルーンヤ、隣の偉丈夫が『冷虎』オニギリオンであっちが『灼熱』トウマ…ん?あと一人は見ねえ顔だが、新顔か?)


「こっちのあんちゃんは新入りかい?」

「ああ、彼は…」

エヴィが紹介しようとすると、その細身で長身の男が振り返る。男は、コートと同じ緑の仮面を付けていた。


「ワタシハAT14トヨンデクレレバイイ」

「この声は!?」

仮面の下から聞こえた、あまりにも無機質な声。


「彼は、戦闘で声を失っていて、『魔導声帯』を使っているの」

驚くダレウスに、エヴィがそう説明する。

「彼は、飛竜使い(ワイバーンライダー)でもあるの。付いた二つ名は『竜機』よ」


「成程、それで『緑鬼衆』が『緑機衆』になったって訳だ。で、6人目(・・・)は、今も帝都かい?」

「…ええ、そうね。()は、帝都にいるわ」


(相変わらず、ヤバい連中だ。死の匂いがプンプンしやがる。だが、それでもシンリ(ヤツ)に届くとは、思えねえが)


「標的はまだ迷宮にいるのよね?」

「ああ、まだ出て来たって報告はねえな」


「では、すぐに出発するわ!」

そう言って、エヴィ達は、ギルドを出ようとする。


「待ちな!今回ばかりは、オレも同行させてもらうぜ!」

こうして、ダレウスを加えた冒険者の一団が、シンリを捕縛する為に王都を出発した。




同じ頃、王城ザヴングル城の一角にある『銀麗宮』の一室。


「遠路はるばるご苦労様でした真偽官様」


結い上げた髪にティアラを付け、銀のドレスを纏った美しい女性が、2人の女性を出迎えていた。


女性の1人は、白い巫女服の様な衣装を着て、両目を隠す様に白い布を巻いている。

連れは、王城内と言う事も有り帯剣こそしては居ないが、身に付けた青を基調とした軽鎧から、護衛の任にあると思われた。


「様はよして下さい王女様。ここはギルドでは無いのですよ」

巫女服の女性が、恐縮しながらそう返す。さらに続く様に、軽鎧の女性が言う。


「いつもの癖が抜け無いんだよなぁ…シルビア。いや、シルヴィア王女って呼んだ方がいいか?」


そう、頭にティアラを付けた女性、それは衣装こそ違うが、ギルド王都本部、本部長秘書、シルビアその人だった!


「うふふ、そうね。今、ここに居るのは私達だけだし、いつも通りに話しましょう」


「そうだねシルビアちゃん、まあ廊下の皆さんは、気が気じゃないかもだけど」

「まあね。ユーステティアちゃんも元気そうで。2年振りかしら?ジャンヌちゃんも久しぶり」


3人は、挨拶を済ませると、凝った装飾の付いた白銀のテーブルにつき、侍女が運んだお茶に口を付けた。


「で、審議前に私達を呼んだ本当の理由は?まさか世間話がしたかった訳じゃあ無いんでしょ?」


「流石ねユーステティア。何もかもお見通しって事なのかしら」


「そうね。シルビアちゃんが、罪人に手心を加えてくれ!とか、言わない人だってのは知ってたはずだったんだけど?」


「キツイ言い方するのね。じゃあ、一つだけ独り言を言わせて貰おうかしら」


「どうぞ」


場の雰囲気が、ピリピリと張り詰めて行く。S級冒険者であるジャンヌさえも、気圧されそうな迫力は、一国を支配する一族が持って生まれた資質だろうか。


「此度の審議、冒険者シンリ側が不利となれば、私もダレウスも、如何なる手を使っても彼を擁護してみせるわ。これは、ギルド王都本部の総意、そして王家としての方針だと理解してもらっていいわ」


「罪人を庇うと言うの?」


「…王都を、王国を滅させる訳にはいかないのよ」


「よく解らないけど、それでも私は真実を話すだけだよシルビアちゃん」


「うふふ。それでいいわ。だって…独り言だもの」




飛び交う様々な者達の思惑。


迷宮内部のシンリ達は、それらを知る由も無い。







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