ニャッシュビルの村
話を聞いた俺達は、ニャッシュビルの村を案内してもらった。
初めてここに足を踏み入れた人間が、珍しいのだろう、村人の誰もが顔を出し、まるでパレードかお祭りの様だ。
大人(あまり身長差が無いのでたぶんだが)は、距離を取り、子供達は、そばに来て楽しそうに一緒に歩く。
シズカが、いまだついて来るチロルと手を繋ぐと、周囲の子供達も一斉に俺達の手を取った。
もちろん、手が足りる筈も無く、思い思いに服の裾や荷物、はたまた手を繋ぐ子供と手を繋ぐ等して、全員が繋がる不思議な一団が出来上がった。
「こういう所なんだろうな」
「ええ、お兄様。この魅力は、危険ですわ」
女性陣の表情を見るに、説得力は十分だ。
この人懐っこさは、多くの人を惹きつけるだろう。それが原因になったと言われても、この状況を見れば納得出来る。
人を疑う事を知らず、本来が話し好きなのだろう。チャムロック達は、村のあらゆる主要施設を案内し、隠す事無く全て見せながら、様々な内情を語ってくれた。
そんな彼等の事を知れば知るほど、俺達は、秘密を守る事の重要性を再認識していった。
最後に案内されたのが、村の中心にそびえ立つ塔の施設『迷宮部』だ。
入り口付近で、取り巻きの子供達と別れて、重厚なドア(もちろん小サイズ)から中へ入る。
施設内部は、まさに戦争の様な状態だった。
「4階層で、内部破損です!至急補修魔法の発動をお願いします!」
「10階層のボス、再生遅いよ!何やってんの?」
「7階層、魔物少ないよ!急いで追加しろ!」
「ブリッジ、弾幕薄いよ!何やってんの?」
「俺のおやつ食べたの誰だ?」
「魔導官3名追加来ました!」
よく解らない声もあったが、そこには様々な声が飛び交い、係りと思しき者と、杖を持った魔道士らしき者達が走り回っている。
「こちらは、いわば司令室。各階層の情報は、全てこちらに集められ、又こちらからの指示で魔法や様々な調整が行われています」
そう言うチャムロックに続いて、階段を下る。
「やはり、毒をもっと増やすべきでは?」
「いや、これ以上はショック症状で死者を出しかねません!」
「だが、難易度を上げねば…そもそも迷宮の醍醐味と言えばだねえ…」
「また新しい『G』系の魔物ボツっすか?たまには採用して下さいよ~」
「却下だ!」
そこでは、上部に魔法陣の付いた、大きな試験管の様な透明の筒が、大量に並び、白衣を着た者達が、書類を片手に議論をしている。
よく見ると、その筒の中には、迷宮内で見た魔物の姿が見える。
「こちらは、魔物生産室、通称ラボです。ここで、魔物の生産、管理、改良や調整の他、開発等も行っています」
『G』に反応したシズカ達に、その研究員が睨まれていたのは、言うまでも無かろう。
さらに、階段を下って行く。
次の部屋には、中心に巨大な魔法陣があり、そこから夥しい数のホースの様な物が、室内の壁じゅうに伸びている。
数人の白衣の者が、書類を持ってその管を、見回ってる様だ。
「こちらは魔力伝達室。迷宮全体はもちろん、この村全域にも魔力を送っている所です」
その先、階下への階段前には、武装した者が、4人程立っていた。
そこでチャムロックが、階段を背にし俺達に告げる。
「ここより先は『寝殿』と呼ばれる場所で、そこに『キャスパーリーグ』が封じられ眠りについております。いかなる影響があるやも知れませんので、申し訳ありません」
「構いません。むしろここまで色々見せてもらっては、申し訳無いと感じていた所です」
「そう言っていただけると、ご案内した甲斐がありました」
「ちなみに、その『寝殿』で、何階層になるんでしょう?」
「そうですね。純粋に『階層』に当たる部分のみ数えるなら、約50階層。といった感じでしょうか。この『迷宮部』の様な多重構造の施設もあるので、それらを含めればもっとですかね」
50階層到達か、親衛隊の彼等が聞いたら、大変だろうな。ま、言わないが。
『迷宮部』を出ると、村の中心の広場に、サーカスのテントさながらの、布製の建物が作られていた。
「粗末で申し訳無いのですが、皆様にお休みいただける場所を、用意させました。滞在中は、こちらをご利用下さい」
俺達に合わせて作られたそれは、周りの建物と比べるとやや大きく、かなり目立つ。
「わざわざすみません。ありがとうご…」
「あらあら、まあまあ可愛いですわ!」
お礼を言いながら、布地をめくって中を覗くと、俺達の為に大量の布団を運び込んでくれたであろう者達が、広げかけの布団で思い思いに丸くなり、寝息を立てていた。
「こ、これは気持ち良さそ…いえ、シンリ様、申し訳ありません」
羨ましそうな顔を見せたチャムロックだったが、慌てて中の者達を起こし、部屋の準備を急がせた。
準備が整うと、村の中での行動の自由と、用があればいつでも訪ねて欲しいと言い残し、チャムロックは帰っていった。
建物の外に、まだ多少の村人の気配は、あるものの、俺達だけ(未だチロルは一緒)になったので、夕食にする事にした。
夕食は、迷宮攻略後用の記念料理だ。
少し意味合いは変わったが、ある意味攻略だし、これ以上進む事がある訳では無いので、いいだろう。
「それじゃあ、迷宮『遊戦帝の住処』攻略を祝って…乾杯!」
俺の音頭で乾杯し、宴が始まる。
暫くすると、建物の外にたくさんの気配が集まって来ているのに気付いた。
顔を出して外を見ると、そこにはたくさんの村人が集まり、鼻をクンクン鳴らしているのが見える。
「あの…皆さんもご一緒にいかがですか?」
待ってましたとばかりに、俺の呼び掛けにたくさんの村人が押し寄せる。
もちろん中に入り切る訳も無く、外にも沢山の机や敷物を置き、食べ物や飲み物を持ち寄っての大宴会になった。
村ぐるみでの大宴会は、それから3日間続く事になった…。




