相談と意思確認
あの後、誰の口からも反対する意見は出なかった。それどころか全員が出来うる限りの協力を自ら申し出てくれたのだ。
俺は改めて、この素晴らしい人々との出会いに感謝し、再び頭を下げて礼を述べた。
「では、私とボルティモアさんとで連携し、当面の資金、食糧、物質を供給出来る体制を作りましょう」
まず、何より必要なのは難民と化した者達の命を繋ぐための支援。そのためのバックアップを王国と帝国共同で準備してくれるとシルビアが言う。物資の輸送は全て俺が転移で行えば、時間的なロスも減るだろう。
「あまり大っぴらに施設や建物を造ってちゃ、逆に目立って攻め込まれたりしねえか?」
ダレウスの心配はもっともだ。それだけの物資の保管と大量の難民達を収容するなら、大規模な施設なり、建物なりが必要になる。
だが、全ては神聖国に悟らせぬよう、秘密裏に行う必要があるだろう。すぐに感づかれて武力を以っての全面衝突、なんて事態だけは避けねばなるまい。
そう考えると、あまり目立つ施設を造るのは得策ではないと思われる。
「それについては俺に考えがある。たぶん大丈夫だろう」
それからも様々な部分について話を詰め、各自迅速に行動を開始すべく皆それぞれに帰って行った。
「チャムロック、聞いてもらった通りだ。そのために君達ケットシー族の力を借りたい」
地下室に待たせていたニャッシュビルの皆をリビングに案内し、改めて村長のチャムロックに頭を下げる。
「止してくださいシンリさん。我々と貴方の仲ではないですか。貴方が何をなさるのか、逆に楽しみというものですよ」
「より難しい要求なら、創作意欲が湧くというものです」
「シンリのためなら何でもしちゃうのニャ!」
彼に続きパーシヴァルやチロルもそう言ってくれた。他の村人達もうんうんと頷いている。
「ありがとう。実は…………」
「ふむふむ、なるほど」
「それは腕が鳴る」
「面白そうなのニャ!」
俺は考えていた案を説明し、それを聞いた彼らは嬉しそうに目を輝かせていた。
「おいおい、待て待て!頼みに来たのは俺の方だ。皆頭を上げてくれ」
次に転移して向かった神域アワシマ。勾玉の導きにより神殿内に転移し、扉を開けて外に出ると、巫女王スクナピコナをはじめとした全ての者が平伏し頭を下げて出迎える。
『オオナムチ様におかれましては、いよいよ国造りに着手なさるものとお伺いしました。我らはまさにこの時のためのみに存在せし者。何なりと下知くださいませ』
そう言って再び全員が深々と頭を下げる。
「とにかく頭を上げてくれ。これでは話し辛くて仕方ない……」
神殿のある神域の中でも最も広い空間。そこに詰めかけた多くの小人族が平伏する前で偉そうに命令って、いったい俺はどこの独裁者なんだ。
その後、なんとか皆にいつも通りにしてもらった俺は、彼らに頼みたい内容を説明した。彼らからも様々な情報や意見が飛び交い、実に有意義で期待感にあふれる会議となる。
「いや、期待以上だよスクナピコナ。君達は本当にすごいんだね」
『お褒めの言葉を賜り恐悦至極。オオナムチ様のお役に立ちますよう精進してきた甲斐がございました』
『これはこれは、おひさしぶりでございますな、あるじさま』
「やあ、クグノチの爺様。今日は知恵を借りたくて来たんだ」
神域を出た俺は冥府の森にある『失われた楽園』へ飛び、そこでエリアボスであるクグノチに会っている。
『なるほど……さばくにひよくなどじょうをつくりなさるか。それはなんだいですのう』
「しかも、あまり悠長なことも言ってられない。なるべく早く土壌を改良したいんだが」
考え込むように、大木にある巨大な目の瞼が上下する様は、かつて教育番組やファンタジー映画で見た映像さながらだ。しばらくすると何体かの昆虫型の魔物が呼び出され、彼らはさらに小さな魔物や植物を抱えて戻って来る。
『あるじさま。これはの…………』
「ほう、それは面白い。しかし……いや、うん。これならいけるかも知れんな」
クグノチは配下に持たせた魔物について色々と説明をしてくれた。聞いた感じでは、これで難題がまたひとつ解決しそうだ。あとは実際に現地の環境に適応できるかどうかだな……。
この後もクグノチから役立ちそうな話を幾つか聞き、俺は屋敷へと転移した。
屋敷に戻り、食事と風呂を済ませる。その後、大きなベッドのある俺の寝室に行くと、そこには仲間達が集まっていた。
「…………それからな、この屋敷はお祝いとしてセイラとダレウスに譲るつもりだ。だが、客間として部屋を使わせてもらうことは出来る。残る者が日常生活で不便な思いをすることはない。それは保証しよう」
今回の神聖国行きには、様々な状況が絡んでいる。俺は仲間達にだけは、神聖港ザーレで出会った『転生者』かも知れない危険な人物の存在を話し、今回同行するのかは各自の判断に委ねることにした。屋敷はダレウス達に譲るが、同居してもいいし、今なら別の屋敷を購入してあげることだって可能だ。
『私は永遠に愛しの旦那様のお傍にいますと当機は告げます』
全く悩むことなく、即答してきたのはアオイだ。彼女には動力となるマナの供給の面でも俺の存在が不可欠である。まあ当然といえば当然か……。
「くっ、またしても先を……。主君、某は生涯主君の剣でございますれば、いついかなる時もお傍に置いてくださいませ」
ガブリエラがアオイに先を越されたことに歯噛みしながら、そう言って俺の傍で跪く。
「まったく……旅の途中で二人と何かあったんじゃないでしょうね、お兄様?」
アオイとガブリエラ、二人の間に飛び交う火花を見てシズカは呆れ顔でそう告げた。
「しかし……本来ならここは怒りに任せて神聖国を滅ぼすのが王道でしょうに、相変わらず斜め方向に向かわれる主人公ですわね、お兄様は。ふふふ。まあ、だからこそワタクシは退屈はしないんですが……って、お兄様。もちろんワタクシは同行メンバーに数えておいででしょうね?」
「ああ、まあ……そうだな」
シズカは吸血鬼の『真祖』の性質を持つ不死者。俺という枷がなくなって、その本質の残虐性が表に出れば、その先は容易に想像がつく。常に同行するのは当然か……。
「ってかシンリ。シンリを旦那様って呼び出したのは私達が最初のはずじゃんよ!」
「アオイばっかり、ずるい……なの」
確かに、出会ってかなり序盤からナーサ達は俺を旦那様と呼んでいたな。でも、そこで何でアオイが出てくるんだ。彼女は管理者って呼んでるだけだろうに……。
「……お兄様。互いの指にペアリングをはめておきながら、まだそんなお考えとか……さすがに少し引きますわよ」
「お前、まさか心を読んだのか……。だが、いい機会かも知れんな……アオイ!」
ナーサの言い分、それにシズカの指摘もわからんでもない。それに現地での通信手段としても必要だろう。俺はアオイに頼んで俺とアオイの左手の薬指にはまっているのと同型の指輪を幾つか作ってもらった。
「お・に・い・さ・ま!」
そのまま、同行が決まったシズカに手渡そうとすると、彼女はこめかみをヒクヒクさせながら笑顔で左手を差し出してくる。無言のプレッシャーが、俺に指輪をはめろと言っている……まあ、それぐらいは仕方ないか。
俺はシズカの左手を持ち、その薬指に指輪をはめた。やや大きかったそれは、直後にサイズが縮んで彼女の指にぴったりとフィットしていく。
殺気が消え去り、頬を染めながらご満悦な様子で指輪を見つめるシズカ。
その後、ガブリエラとナーサにも同様に指輪をはめてやると、やはりうっとりした表情でそれを見つめていた。
なんだ、みんなこの指輪が欲しかったのかな……。
「……ん?」
なんだか盛大な溜息が聞こえた気がしたが……気のせいか。
さて、残るはアイリとツバキだ。
彼女達は、どんな選択をするのだろう。
昨日、6月27日をもちまして『魔眼のご主人様。』初投稿からちょうど一年とあいなりました。
これもひとえに、お読みくださる皆様あってのことと、心より感謝いたしております。
また区切りを見つけて改稿期間を設ける予定ですが、物語自体は必ず完結まで書き続けたいと思っています。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




