マリエ救出と重大発表?
本当に……いろんなことが起こりすぎだ、神聖国。
亜人種迫害に解放の女戦士、まさかの俺以外の日本人の存在。まあ、これに関しては仮にそうでも転生者だと考えるべきだろうし、まだ推測の域を出てはいないが……。
「ところで、今夜船が到着するという話は間違いないのか?」
「はい主君!某がこの耳でしかと聞いてまいりました。新参者に遅れは取りません!」
ガブリエラの得た情報によれば、マリエを乗せた船はライバル貴族に悟らせぬため、夜になってから入港する手筈になっているらしい。
……それにしてもここ数日、どうしてこうガブリエラはアオイにライバル心剥き出しなのだろう。確かに、これまでオンリーワン(正確にはエレノアも様々な魔法を駆使すれば飛べたが)の個性であった空を飛ぶというアドバンテージをアオイの加入により奪われたといえばそうかも知れないが、どうやら理由はそれだけでは無さそうだし……まあ、今はどうでもいいか。
「後は手段……隠密、いや陽動も必要?しかし夜間だし、わざわざ目立つ必要もないと……」
どうにも上手く考えがまとまらない。だが、その理由はわかっている……あの老紳士だ。
シズカ達を呼ぶ選択肢は最初から捨てた。それもこれも、あの俺と同等以上の戦力を持つかも知れない者の存在があるからだ。多分……いや間違いなく、今の仲間達が彼とやり合えば簡単に倒されるだろう。そんな危険性のある場所に迂闊に呼ぶわけにはいかない。
無論、ガブリエラやアオイだからいいというわけではない。彼女達であっても俺は全力で逃す努力をするつもりだ。
そんな『逃げ』の発想からいい案が思いつくわけもなく、悪戯に時間だけが過ぎて、辺りはすでに暗くなっていた。例の船が入港してくるのも時間の問題……さて、どうする。
ドゴオォォォーン!
だが、そんな俺の悩みを吹き飛ばす事態が突然、轟音とともに始まった!
「あれは何だ!砲撃……?まさかマリエの乗る船なのか……」
夜の海に、メラメラと火の手を上げる一艘の船の姿が浮かび上がっている。
ドゴオォォン!ドゴオォォン!
続く二発の砲撃の発射炎。それは港に停泊していた別の船から放たれているようだ。
「くそ!何だというんだ……沈没させられるなんて冗談じゃないぞ!」
『情報照合。砲撃している船の所有者はエステヴァン家と対立している貴族であると当機は告げます』
「主君、街中で数人が解放の戦士アテナの襲撃であると言いふらして回っています」
この国はいったい、どこまで腐りきっているんだ……。
ライバルが強力な手駒を手に入れたからといって自国の港でいきなり砲撃とかありえないだろう。しかもそれを全てアテナ達の責任に……。
「考えている時間はないな。行くぞ!マリエを助けるんだ」
『了解』
「はっ!」
すぐに船上に到着したが、炎上する船は大混乱に陥っていて、多くの者が海に飛び込み自力で港を目指していた。こんな危険な船内に残って動いている者の目的など、有力な聖母候補としてさらってきたマリエを連れ出すこと以外にはありえない。残る彼らの動きを追うとマリエのいる船室はすぐに見つかった。
二人が邪魔な敵を排除し、俺が船室に駆け込むと、豪華なベッドに妹茶館の衣装を着たままのマリエが横になっている。
「マリエ!……眠らされているのか。よかった……本当にすまない、マリエ」
『警告。大量の海水が浸入。この船はまもなく沈没しますと当機は告げます』
「主君、お急ぎください!」
ドゴオォォォーン!
船体が大きくぐらつき、そこにトドメとばかりに追撃の砲撃が着弾して……。
「間一髪……か」
転移したのは王都にある俺の屋敷前。腕の中にマリエが。そして後ろにはガブリエラとアオイもきちんと連れて来れたようである。ずっと首の後ろにしがみついていたサマエルももちろん一緒だ。
「帰って……来られたんだな俺達」
今の俺を見たら、シズカならきっと『らしくない』と言って笑うだろう。そのくらい今回は余裕が無かったのだ。
ただ、そんな状況とは裏腹に、この時すでに俺の中にはある決意が芽生えはじめていた……。
神聖国から戻って二日後。
俺の屋敷のリビングには、多くの者達が集まっていた。
まずは俺の仲間達。エレノアは変わらず不在だが、学園にいたシズカ達も合流し、それ以外は全員が揃っている。
義理ではあるが俺の母親セイラと義妹オニキスに調理師のラティ。
王都のギルド本部長であるダレウスとその秘書シルビアにダレウスの息子でA級冒険者『閃光』のアリウス。
セイナン市ギルドから支店長エレナと秘書のミリア。
帝都のギルド本部長であるバービーと帝国宰相のボルティモアもお忍びで呼び寄せた。
ここにいる者達には内緒だが、地下室にはここの音声をアオイ経由で流せるような仕掛けを作り、ニャッシュビル村長チャムロック、主任研究員のパーシヴァルそれにチロルを含めた数人の村人や技術者。
さらには、俺の勾玉経由で神域アワシマの巫女王スクナピコナと小人族達にも聞いてもらっている。
「さて、今回は重大な……」
「ちょ、ちょっと待てシンリ!おま、こんな……大袈裟な」
集まってもらった面々に、今日の趣旨を話そうとしたら、いきなりダレウスがやけにおどおどしながらそれを遮った。
さっきから思っていたんだが、今日の彼は顔も真っ赤だし妙にデレデレしていて、はっきり言って気持ち悪いことこの上ない。
「ん、ゴホン!ああ、俺も男だ。腹ぁくくんなきゃな……」
「……はぁ?」
そう言いながら、何故か皆の輪の中心に歩み出るダレウス。いやいや、おい待て、お前いったい何がしたいんだ……。
「みんな聞いてくれ、今日は大事な発表……いや、報告かな。が、あって集まってもらったわけだが……」
待て待て待て、お前のために集めたんじゃねぇ!
「んっんんっ!この度、俺ダレウスはその……再婚することになった。相手は……そちらのセイラさんだ!」
「はあああああああああぁーっ?」
チラリとセイラの方を見る。すると悪戯っぽく笑う彼女と目が合った。しかも、シズカ達のリアクションがやや薄い。
……どうやら、俺を驚かそうと皆で企んでいたらしいな。
後で詳しく話しを聞けば、デジマールからダレウスを連れ帰って、俺の屋敷で療養させていた時に一気に互いの距離が縮まったようだ。
いつもそれとなくアプローチするダレウスの気持ちにセイラも当然気付いていたが、相手はギルドの本部長を務め、かつては世界最強と言われた男。なんとなく別世界の存在のように感じていたらしい。
ところが、目の前で苦しむ弱々しい彼の姿を見て彼女の母性が刺激され、一気に気持ちが傾いた……と。
ん?こうなったのは俺のせいか。まあ、いずれこうなるだろうとは思っていたが……。
「何だシンリ、そんな大きな声出して。お前がこのためにみんなを集めてくれたんだろ?」
「……まったく、あんたって人は……」
皆から祝福を受け、すっかりご機嫌の様子のダレウスとそれを微笑ましく見守るセイラ。
彼女の幸せは俺が何より望むことの一つ。これが彼女とオニキスの幸せに繋がっていくのなら、それは喜ばしいことだ。
「まあ、なんだ……おめでとう」
「おう、ありがとう……ってそっちかよ!」
「うふふ、ありがとうシンリ」
俺はスーッとダレウスの前をスルーして、セイラに向かって祝いの言葉を述べた。
しかし、深刻な話を切り出す前にすっかり場が和んでしまったな。でも、かえってこれで良かったのかも知れない。
ダレウスがこの屋敷とセイラを守ってくれれば、俺も心置きなく旅立てるというものだ。
「みんな、一度席に戻ってくれないか。そろそろ今日の本題に戻りたい」
「おう、みんな席に……って本題ぃーっ!本題ってなんだよシンリ?」
いいから、席につけこの脳筋おやじ……。




