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六華無双 エレノア編1

「そろそろ離れろエレノア……」

「つれないのう……。もっと触れても良いのじゃぞ。我が君ならば顔をうずめても良いのじゃぞ」


 一応断っておくが、転移に抱き着く必要性はない。特に俺の場合ある程度俺の側に近づいてくれさえすれば同時に転移させる事が可能だ。だがエレノアは転移の度にこうして抱き着いてこようとする。特に今日は個別での転移の為ツッコむシズカ達も居らず、しっかりと密着を許してしまっている。


「ときにエレノア……念を押しておくぞ。街の破壊は最低限度だ、いいな?」

「わかっておる。心配なら……そうじゃな、我が君が今すぐ子作りにて妾を疲れさせれば威力も落ちようというものじゃがのう……どうじゃ?」


「た、頼んだぞっ!」


 彼女の魅力とその色香は仲間達の中でも特に妖艶で悩ましい。冗談でもこれ程の美女にそんな風に言われれば男としてはいたたまれないものがある。俺は念だけ押すと、さっさと残る仲間のもとに転移した。



「ほほほほ。さて……どこから手を付けたものかのう」


 エレノアがシンリと共に転移してきたのはガウェイン将軍の屋敷。ここは『赤光騎士団』の残存戦力の本部と前線への追加物資などが集められている補給基地でもある。


「それにしてもこれはどういう状況じゃ?」


 エレノアが居るのは屋敷を取り囲む外壁の上。

 そこから様子を眺めると外壁はぐるりと敵兵に囲まれており、正門前には天幕を張った陣も作られている。だが、それだけだ……。敵兵は誰一人攻め込もうとする者はいない。それどころか各所で座り込んだり食事を摂ったりとすっかり気を緩めているようなのだ。


「どれ、屋敷の者達を見てくるかのう」


 そう言って塀からの階段を降りていくエレノア。しかし塀の上に見張りもいないとは不自然だ。しばらく誰にも会う事なく歩き回ると詰所のような場所から数人の男の話し声が聞こえた。


「なあ赤光騎士団はもう終わりだろ。俺達がこうして守る意味なんて……あるのかな……」

「確かにな……。例えガウェイン様が戻られたとて赤光の信用は地に落ちた。余程の手柄でもあげて戻って来られなきゃ、騎士団解散とお取り潰しは決定的だろう……」

「……なあ、やはり彼等の言う通り、ここを明け渡してしまった方がいいんじゃないか?」

「だが……帝国を……俺達の祖国を売るのかよ……」

「それは……」


 会話から察するに彼等は敵兵にここを明け渡して撤退もしくは寝返るように要求されているのだろう。現在の状況は恐らく返答待ちの猶予時間といったところか。


 確かに敵兵の中にはガルデンに付き従い離反した元赤光騎士団員も多い。加えて指揮官ガウェイン将軍と側近達の不在、帝都の直面する現在の圧倒的不利な状況が彼等をさらに困惑させているようだ。


「ふむ、寝返るなら寝返るでさっさとしてくれぬかのう。妾も早う帰りたいゆえの」


「だ、誰だっ?」


 彼等が集まる詰所の扉が開かれ呆れ顔のエレノアが姿を見せると数人が立ち上がり剣に手をかける。


「ほほほほ。まるで怯えた野良犬のようじゃの。安心せい、妾は味方じゃ……今はの」


 中にはエレノアの大きな双丘にすっかり釘付けになっている者もいたが、未だ全体の警戒は解けない。


「ふう。妾はの、皇帝並びに赤光将軍の依頼を受けた冒険者じゃ。帝都の現状を打破すべくここの守護を任されし者よ」

「ガウェイン閣下が……」


 ガウェイン将軍の依頼と聞き、警戒は解いたものの複雑な表情を見せる彼等。だがエレノアはそんな心中など関係無いとばかりに言葉を続ける。


「確認しておくが外壁の外には敵兵しかおらん、それで違いないかえ?」

「……あ、ああ。見張りも含め全て屋敷内に戻っているが……」


「それだけ聞ければ十分じゃ」


 そう言って彼等に背を向け出て行こうとするエレノア。慌てて兵士の一人か呼び止める。


「待て!どうするつもりだ?」

「決まっておろう。外の掃除をしてくるまでじゃ。其方達はそこでその辛気臭い顔でも突き合わせておくがよかろうて!ほほほほ」


 扉が閉まりエレノアの笑い声が遠ざかっていく。だが、誰一人立ち上がって後を追う者は居なかった……。



 再び外壁の上に登ったエレノアは眼下に屯した敵兵を見回していた。


「さてさて、威力を抑えろじゃったな我が君よ。ほほほ」


 そう呟くとエレノアはトンっと外壁の壁の上に乗り両手を広げて天を仰ぐ。


『我は汝、汝は我。炎纏いし者にして炎熱の奏者。我求めるは爆炎の瀑布……』


 詠唱が終わると彼女の頭上に大きな火球が現れ、続いてその両側にも新たな火球が現れる。それらは三メートル程の間隔を空けて次々現れ外壁上全てに広がった。


『蹂躙せよ!爆炎豪瀑布(ナイアガラ)!』


 彼女の声を受け全ての火球が激しく燃え盛るとそこからまるで溶岩のような赤黒く光る液体が流れ出した。それらは真下にいた多くの敵兵の命を瞬時に奪い、さらに飛び散った飛沫を浴びた者達は燃え上がる炎に身を焼かれ火だるまになって転げ回る。

 完全に不意打ちをくらった形になった敵兵は、壁際の近くにいた者達を中心におよそ兵力の半数以上をその流れ落ちる爆炎の滝により失った。


 敵の本陣が置かれた正門前も例外なく爆炎の滝に襲われ飛び散った飛沫が天幕の張られた陣所に迫る。

 しかし陣所の天幕は一切燃える事はなく、それどころか襲いかかる炎の飛沫は突然現れた氷の柱により完全に防がれてしまった。


 爆炎の滝が一箇所で防がれている事に気付きエレノアが魔法を解除して駆けつける。辿り着いた正門の上に立ち不思議な氷の柱が護る陣所の方を見ると、それを行ったと思しき人物が姿を見せた。


 その人物を見た瞬間、エレノアは思った……完全に人選ミスだ、自分はここに来るべきではなかったと……。


「わ、妾では無理じゃ……。せめてシズカがこの場におれば……」


そんな呟きが思わず漏れる……。

 彼女の心中など知る由もないその人物は氷の柱の立つ場所までくると立ち止まり、正門の上に立つエレノアの姿をじっと見据えていた。


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