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黒装六華出撃!

 ボルティモアから衝撃の事実と(まあ、転移先がここだった時点で俺は勝手にパプリカが皇帝の娘か孫辺りなのかと思っていたのだが……)幼い彼女が皇帝の地位にあるその背景に関して簡単に説明があった。この時点ではまだ俺に両親の件の真実は話すつもりがなかったようで、随分歯切れの悪い説明だった。


「それにしても、ここは帝国の中枢。あれ程の人数の賊の侵入を許すというのは普通に考えれば有り得ない話では?それにあなた達の到着も遅すぎたようだが?」


 俺の疑問はもっともなものだろう。彼女達を避難させた後、残った賊の意識を強めの気を放って刈り取って回ったのだが、この階で賊以外に見えたのは僅かな近衛兵と侍従や侍女達の遺体のみ。先日の謁見の際に見た感じだと、ここと下の階にいた者達を合わせたくらいの人数だ。晩餐が行われたホールの下には近衛兵の詰め所が有り、そこには百名近い選りすぐりの屈強な近衛兵達が常駐しているとの話を聞いていたので、その者達の姿が全くないのも不自然である。ちなみに俺が粗方の賊を気絶させたあと彼等が階下から駆け付け、賊の始末を任せて俺は先にアルテイシア達のもとに戻ったのだ。


「……ええ、お恥ずかしい話です。完全に盲点を突かれてしまいました…………」


 かなり落ち込んだ様子のボルティモアと護衛に関する責任者でもあるミツクニが、現時点で判明している賊の侵入作戦の内容を説明してくれた。

 その作戦はこうだ。深夜になるのを待って賊達は飛竜を使いこの皇城最上階に設けられた緊急時の皇帝専用の飛竜発着場所にロープで次々と降下。内通者の侍従が非常扉の鍵を開け、そこから彼等を招き入れる。一方、階下ではガルデンの息のかかった近衛兵が非常時に城に攻めてきた敵兵を上の階に上らせないようにする為に作られた重厚な防護扉を次々と閉め、警備側の援軍が上って来るのを妨害した。

 ちなみに飛竜は夜目が効かない為に夜間に飛ぶのを極端に嫌うらしい。何も気にせず真っ直ぐ飛ぶだけなら慣れた飛竜とその乗り手ならばなんとか可能かもしれないが、今回のようにピンポイントで目標に向かって暗闇を飛び、尚且つ多くの人間が降りるまでその場に留まったり、それらを唸り声一つ上げずに行うなど、到底不可能だというのが一般の常識である。


「侵入した賊は約百人ほど。よほど訓練された飛竜をしかも複数用意しなければなりません。こんな方法を考えつく者など……」

「いや、一人いる……」


「ミツクニ……誰だそれは?」

「……奴、ガルデンだよ」


 かつて中枢にて大きな影響力を持っていたガルデン。彼なら皇城の構造を熟知しているし、ミツクニによれば今回の賊の作戦は、以前酒の席で彼が話していた通りのものだったのだ。


「敵に回すと、本当に厄介な奴だな」

「奴がもし、あの日語った自分なら帝国をどう攻めるか、という話通りに事を進めるとしたら……」


 ドンドンドン!


 続く言葉は慌ただしいノックの音に遮られる。しかしここには近衛兵といえど入室は許されない為、ミツクニが一旦外に出て報告を聞いて戻ってきた。


「……悪い予感が当たった。各主要施設が一斉に賊の攻撃を受けている。さらにここにも千人規模の軍が侵攻。外周部で守備隊と交戦中だそうだ」

「してやられた。というわけか……」


 ミツクニ、ボルティモアの言葉にグラナダ達も下を向く。ジャンヌが立て直しに躍起になっているものの、帝都守備隊はしっかり機能しているとは言い難い。残る二将軍とその精鋭は遥か国境付近だ。


「したをむくでない!大丈夫じゃ!」


 そんな中、落ち着いてというより余裕綽々といった顔をしたアルテイシアが淡々と皆に言った。


「シンリがおるであろう!だから大丈夫じゃ、のうシンリ!」


 あまりに衝撃的な再会と救出劇に、俺はすっかり彼女のヒーローとなってしまったようだ。

 キラキラと目を輝かせて見上げてくる無垢な視線。この瞳を護りたい。ほんの数日だが我が子のように接した彼女の眼差しを見ていると俺は漠然とそう思ってしまった。

 ゆっくりと彼女を床に降ろし、その前に膝をついた俺は彼女の頭を撫でながらまるで近所にお使いに行くような気軽さでさらっと告げる。


「じゃあ、ちょっと帝都を守ってくるよ」


 笑顔でそう言った俺に、歓喜の表情を見せた彼女は俺の顔に両手を伸ばすと額にそっとキスをした。


「た、たのんだぞ!」

「うん」


 真っ赤になって俯くアルテイシア。俺はその背後に立つグラナダ達に目線を送り、三人が力強く頷くのを確認して立ち上がる。地の利があったとはいえ百人近い賊を相手に耐えてみせた侍女達の実力。それにミツクニ達や近衛兵も到着しているのでアルテイシアの身は任せて大丈夫だろう。


 俺はそのままミツクニと共に廊下に出ると、先ほどの兵士から詳しい話を改めて聞き、仲間達の待つ部屋に転移した。


「お兄様!」

「シンリ様、今までどちらに?」

「主様!」

「おお、戻られたか我が君よ!」

「シンリ…心配した…なの」

「起きたらいきなり居ないから驚いたじゃんよ」

「主君、外出なさるなら某をお連れください!」


 ここは帝都守備隊の本拠地。外周部はすでに多くの敵兵が取り囲み、各所で熾烈な攻防が繰り広げられている。

 流石にそんな状況で寝ていられる筈もなく、仲間達は皆装備を整え準備万端。シンリの指示を待つのみとなっていた。


「ここは何とかなりそうだな……」


 シンリが窓から見下ろすと、的確な指示で部隊を動かし自らも敵を次々倒していくジャンヌの姿がそこにある。一般兵と比べれば彼女は相当の規格外。あの調子なら万が一にもここが落ちる事はないだろう。


「だとすれば護衛対象となる施設は皇城、残る帝国側戦力の本拠となるガウェイン、ニコラスそれにミツクニ各将軍の屋敷。それから中枢たる元老院本館と冒険者で反攻勢力を編成するかも知れないギルド本部ってところか……。多いな」


 対象は六ケ所。だが一つずつ殲滅して回っていては恐らく間に合わない。


「お兄様が各自を転移で送るとしてワタクシ達も六人。悩む必要はないのではなくて?」

「お任せくださいシンリ様!」

 コクコク!

「安心めされい我が君よ。賊など焼き払うてくれようぞ。ほほほ」

「私も…強くなった…なの」

「新戦力のお披露目といくじゃんよ!」

「某も存分にお使いくださいませ!」


「それしかないか。よし、スクナピコナ聞いているか?…………」


 各自で分散するのなら連絡が取り合えるようにする必要がある。俺はスクナピコナに頼んで七人の小人族を借りる事にした。彼等は身に付けた小さな勾玉によりどんなに離れてても連絡を取り合う事が出来るのだ。


「納得いきませんわっ!」

「そんな事言ってもシズカが言い出した事だぞ」


 神域アワシマからの鳥居型の転移門が開き七人の小人族が姿を見せる。それを待つ間にシズカが自ら提案して出てきた順番で同行する相手を決める事にしたのだが……。


「何でワタクシの相手が貴方ですのよエナジー!」

「いやぁ、まさかまたオオナムチ様のお役に立てる日が来るとは。お願いしますよイシズカ様」


「シ・ズ・カ・よっ!どこの芸能人ですかっ!まったく」


 ちなみに俺の相手はライチという女性。前から思ってるんだが彼等の名前って何でこんなに和風要素ゼロなんだろう……。今度スマッシュ辺りに聞いてみるかな。

 いやいや、こんなのんびりしている場合じゃ無いな。ともあれこれで準備は整った。俺は仲間をそれぞれ護衛対象の施設付近に転移を使って送っていった。






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