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黒アイリ?

 エヴィが率いた『緑機衆』の名を隣国ホーリーヒル王国まで轟かせた影の功労者が彼、ウンカイだ。

 彼のユニークスキル[追跡者(トレーサー)]は対象に関わる品を媒介にして、その対象の位置を把握する能力。だが便利な反面、かなり制約もある。

 大前提として捜索範囲は自分が知っている範囲に限られる。だが知っていると言っても全てに赴いて事細かに知る必要は無く、ある地点から五キロ圏内をスキャンするように知覚する彼の能力[トレース]により詳細を把握する。一度[トレース]すると、そこを離れても捜索が可能だ。

 自分では歩けないウンカイを連れての旅は過酷であったが、彼等は失せ物探しや人探しの依頼を村々で受けつつ、数年かけて[トレース]を続け、遂には帝国全土を把握するに至っている。


 それ以来、彼はこの隠れ家で生活しながらエヴィ達に情報を与え続けてきた。ジャンヌ達が王都から帰る際には、迎えに行く真偽院の担当者の私物から移動先を割り出し、極秘事項だった飛竜の着地点を狙って襲撃出来たのだ。


 一方、ガルデンが国外に出てしまった可能性まで考慮する必要が出来てしまったガウェインは、約束は必ず守るとだけエヴィに言い残すと落ち込んだ様子のまま先に帰って行った。


 その結果、エヴィを収監施設に送る馬車の中にはジャンヌとユーステティア、それに護衛の騎士二名だけが残される事となる。


「いつか貴様とは本気で殺り合ってみたいものだな」

「ほう、珍しく気が合うな。何なら今ここで息の根を止めてやってもいいんだぞ」


「ジャンヌちゃん、拘束されている相手に凄むのは格好悪いぞ!」

「うぅ……」


 出発早々、舌戦を始めた二人だったが、ユーステティアの一言で諫められ、両者共にすっかり黙り込んでしまった。その馬車が収監施設に着くと、エヴィは降りがけにジャンヌを睨み忠告をする。


「近いうちに何かが起ころうとしている。だが貴様を殺るのは私だ、死ぬんじゃないぞ!」


 ガルデン達の状況など知る由もないジャンヌには、何の事やらさっぱり分からない。だが、エヴィの向けた真剣な眼差しにそれがハッタリではないと感じた彼女は、より一層気を引き締めようと心に誓うのだった。





 いつもの俺の寝室、そのベッドの上に俺とアイリの姿があった。横になる俺の上に跨った彼女は、ゆっくりと上半身を前後に動かしている。その表情はとても幸せそうで、ほんのり上気して桜色に染まった頬が何とも色っぽい。額には薄っすらと汗をかきながら俺を一心に見つめ、更にその動きに力を込める……。


「アイリ……そう、気持ちいいぞ……」

「シンリ様、すっごく硬い……」


「うぅ……アイリ」

「シンリ様ぁ……なんだか……熱い」



「うん。少し抑えてくれ、電撃出てる」

「わぁぁーっ、す、すみませんシンリ様!」


 俺の言葉に、慌てて両手を離す彼女。お約束だが、今俺はうつ伏せにベッドに寝ていてその背中に跨ったアイリに力の込もったマッサージを受けているところだ。力をより込めると俺が気持ちよさそうにするので、勢いに乗ってどんどん力を強めた彼女の手からは微弱な電撃が漏れ始めていた。


「……シンリ様」


 そう呟いて彼女はそのまま倒れて俺の隣で横になる。その右足は未だ俺の上に在り、互いの身体はぴったりと密着していた。俺が身体ごと彼女の方に向き直ると、彼女の左足が俺の足の間に滑り込み二人の四本の足はもつれるように絡み合っていく。


「こんな風に二人きりなんて……いつ以来でしょう?」

「そういえばそうだな……」


 二人は互いの顔を見つめ合い、過去に想いを巡らせる。柔らかそうな彼女の黒銀の髪を撫でようと左手を伸ばすと、その手は彼女の右手に掴まれそのまま柔らかな双丘の中へと導かれた。


「シンリ様……感じますか、私の……鼓動」


 押し付けられた掌に柔らかな温もりと、その奥で脈打つ彼女の鼓動が確かに感じられる。それは少しずつ強く、そして早くなっていくように感じた。


「この命は……シンリ様に頂いたもの。シンリ様にあの時救ってもらえなければ、消えていました」

「しかし、俺は見捨てようとした。……恨んではいないのか?」


「見知らぬよそ者が勝手に入ってきたんですから当然の対応でしょう。それに……こうしてお救いくださったじゃないですか」


 そう言いながらアイリは、自らの胸に押し当てた俺の手を大切そうに両手で包み込んだ。お腹の辺りには、彼女のふさふさでモフモフな尻尾が、くすぐるようにさわさわと当たっている。


「この身体全てが……シンリ様だけの物なのですよ」

「そんな言い方をされたら、変な事を考えてしまうな……」


 熱く潤んだ瞳で見つめながら顔を近付けてくるアイリの艶っぽさに、堪らず茶化すような返事をしたのだが、それが逆に彼女に火を付けたようで……。


「変な事……。いいえ、シンリ様が望むなら……アイリはどんな事でもいたします……」

「アイリ……」


 二人の唇がそっと触れ合うまで近づいて……。


「師匠、ただいま戻りました!夕食までの間、是非とも稽古をお願いします!」


 二人の顔は、扉を勢いよく開けて入ってきたジャンヌの大声によって弾かれるように離れてしまう。顔を真っ赤に染めて俯いてしまったアイリだったがゆっくりと顔を上げると、さわやか過ぎる(・・・)笑顔でジャンヌに言った。


「その向上心、流石ですね。では、まずは私とお手合わせ願いましょう!」


 気のせいだろうか、アイリの背後に巨大な黒い魔獣の幻影が見える……。


「はい!アイリ殿、是非お願いします!」


 元気よく返事をしたジャンヌを見て、その魔獣『黒アイリ(注、勝手に命名)』がニヤリと笑った気がした。ジャンヌは大丈夫なんだろうか……。


 連れ立って部屋を出ていく二人の後ろ姿を見送っていると、閉まっていく扉の隙間からアイリは手を振り笑顔で軽くウインクして去っていく。

 その姿は生き生きと輝いていて、自らにかけられた呪いの為に全てを諦めてしまっていた少女の面影は、もうそこには無かった。



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