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皇帝との謁見

 ジャンヌの家で風呂に入って着替えを済ませた俺達は、一応それなりの衣装に着替えて皇城へと向かった。


 今日ばかりはあのジャンヌも、身体の線が強調された美しい濃紺のドレス姿だ。鍛え抜かれ引き締まった肉体も素晴らしいが、女性らしいその膨らみもエレノア程ではないもののアイリやガブリエラといい勝負である。


「し、師匠……その、あまり見ないでくれ」

「ああ、すまない」


 うんシズカわかったから、そんなにつねると肉が千切れる……。


 ちなみに馬車内には俺とシズカだけでなく他の仲間達も乗っている。普通の生活をしている者には皇城に入れるなど、二度とないような貴重な機会なので身内を同伴する事に関して多少寛容なのだ。

 流石にサマエルは部屋で留守番してもらったが、今回ガブリエラには翼を透明化して同行させていた。何と言っても彼女はリアル天使。華やかな場所には本当に眩いばかりに映えるのだ。


 馬車に乗ったとはいえ皇城はいわばジャンヌの屋敷のすぐ裏手、すぐに着くと思っていたが意外にも城の正門を馬車に乗ったままくぐり抜け更に山の頂を目指して数分ほど走る事になる。馬車が停まり皇城つきの侍従により扉が開かれると、俺達の目の前には見上げる程長い階段があった。


 ゆっくりと俺とシズカを先頭に階段を登っていき途中で振り返ると、眼前には夕陽に照らされた美しい帝都の街並みが見える。それはどこか幻想的にも感じられる程の素晴らしい景色だ。

 階段を登り切るとそこには石貼りの床の広い場所があり、その奥に皇城『グランツ』の入口の巨大で重厚な扉があった。


「帝国認定S級冒険者シンリ様、シズカ様御一行様ご到着!」


 その扉の前で侍従がそう大きな声を上げると、控えていた近衛兵四名の手により扉が開かれる。





「そ、それでどうなんだ?ガイウスは、ガイウスは大丈夫なんだろうな?」


 場所は変わり、ここは帝国軍事顧問ガルデン・シュトラウスが私邸。ガイウスにはあの後闘技場内で簡単な応急処置が行われ、そしてガルデンと共に緑の者達に護衛されてここに戻っている。

 今現在まで俗に『治療術士(ヒーラー)』と呼ばれる光魔法使いと医術の知識豊富な『神官(クレリック)』による治療が行われていたのだ。


「両手首の骨折は治療済みですし、身体に付いた僅かな痣も大したものではありませんでした。身体的にはほぼ完治していると申し上げて問題無いかと」

「では何故目覚めん?何で気を失ったままなんだ?」


 そう言って診断をした神官の胸倉を掴むガルデン。


「お、恐らく心的な衝撃が予想以上に大きかったのかと。こればかりは時間の経過を待ち、彼自身の回復に頼るほかございません」

「……そ、そうか」


 冷静な神官の意見はもっともなものだ。反論の出来ないガルデンはその手を放して神官達を退室させた。一人残った彼の前には、天蓋付きの豪華でやや過度の装飾の施されたベッドで眠るガイウスの姿。


「早く、早くお前の笑顔をもう一度見せておくれ……」


 そう懇願するように言いながらガイウスの頭を暫く撫でていた彼は、額にそっと口づけをして退室していった。




 再びここは皇城『グランツ』。エントランスに詰めかけた貴族達の好奇の視線に晒されながら城内を進み、現在ここは最上階にあるこれまでとは全く雰囲気の違う厳かな空気の漂う扉の前だ。扉の両脇には屈強な近衛兵が立っており、傍には三将軍の姿もあった。


「やあ、見事な試合だったね」


 最上階に到着した俺達に気付いて真っ先に声をかけてきたのはガウェイン将軍。ジャンヌが倒したガルデン元将軍の弟であり、シズカに倒されたガイウスの兄だ。


「ありがとうございます……」


 何となく気まずい気がして俺が続く言葉を詰まらせていると、彼の方から俺に近付きポンポンと肩を叩く。


「気にする事は何もない。むしろ彼等にはいい薬だったと思ってるんだ。逆に感謝したいくらいさ」


 そう言ってにっこりと微笑むガウェイン将軍。兄弟がどちらもアレだったので心配したが、案外彼はまともな人のようだ。

 ジャンヌの案内で仲間達は一つ下の階にある控えの間に行き、この場には三将軍と俺、シズカのみが残った。

 そして俺達よりやや遅れて到着した宰相『ボルティモア・デトス』が近衛兵に指示をすると、その扉がゆっくりと開かれる。


 扉の向こうは二十メートル程の縦長い部屋で、突き当たりには闘技場にあったような簾みたいな物でこちらから見えぬようにされた小部屋がある。そこまでの間には左右に五メートルおきに立つ丸柱があって、そこにはそれぞれ侍女が立ち控えていた。彼女達の立ち姿と漂う雰囲気から相当の手練れであると思われる。

 宰相ボルティモアに続いて中に入ると、俺とシズカは一本目の柱で止められ、将軍達は二本目、宰相のみが三本目まで進み、全員が跪き頭を垂れた。


「本日付けて帝国認定S級冒険者となりましたシンリとシズカ。皇帝陛下の御前に罷り越しまして御座います」


 最も皇帝の座所に近いボルティモアが、俺達の事を申し伝える。簾が開かれる気配は全く無いので、謁見出来るとはいえ皇帝の姿を拝謁する事は叶わないらしい。


『面を上げよ』


 簾の向こう側から発せられた皇帝陛下のものと思しき男性の声。その感じから三将軍と同世代くらいと思われる。


『試合は見せてもらった。その見事なる戦いぶり称賛に値する』


 そう言った後、暫しの間が空いた。何か返答するべきなのか、こういう場の作法等全く分らないな。


「……勿体無いお言葉。感謝致します」


『うむ。叶うならその力、世の民の平和と安寧の為にふるうてくれるよう望む』


「はい、肝に銘じておきます」


 俺がそう答えると再び沈黙が続いた。なんともあっさりし過ぎた謁見だが、どうやらこれだけで終わりらしい。ボルティモアが深々と頭を下げた後立ち上がると三将軍もそれに続き、俺とシズカも同じようにしてから退室した。



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