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魔物の武闘会

「えっと……説明してくれないかシズカ?」


 サマエルを肩に乗せてクロの洞窟に戻ってみると、そこには誰もいなかった。少し離れた場所にクロや仲間達、それに大量の魔力が集まっているのを感じ来てみたのだが。


「お兄様、おかえりなさいませ」


 出迎えたシズカのバツが悪そうな顔を見る限り、また彼女が関与しているのは確定だな。


「で、どうしてこんな事になっている?」

「それは…………」


 シズカの説明によれば、普段クロが側にいる事によって全く俺達に近寄る事が出来ない『生贄の庭』の住人達。彼等にとって今回の招集は俺達に近付き、また森の外の世界を見る絶好のチャンス。その為会場にした広場にはとても入りきらない程の魔物達が集まったのだ。


 彼等の殆どが好奇心に駆られナーサとの契約を望んでいる。それを聞いて最初は歓喜した仲間達だったのだが徐々に会場の雰囲気は険悪となり、各所で小競り合いが起こる始末。それに苛立ちを感じたシズカの発案で希望者の中から強者を選抜する『臣下一武闘会』が開催されているらしいのだが。……ってか、その名前大丈夫なのかシズカ。


 眼前に広がる光景は、夥しい数の魔物達が囲む輪の中心で、激しく火花を散らす二体の魔物。会場のあちこちに怪我をしたり動けなくなった魔物がおり、それらをガブリエラが忙しく治癒して回っている。


 審判をアイリが行い、死者の出ないよう配慮がなされている事と、既に八強に絞られたと聞き、仕方なく俺も観客に加わる事となった。俺への忠義を貫いたのか、姿を見せてない実力者も多くいたが、それでもこれは次代のクロの座を狙う者達による戦い。興味が無いと言えば嘘になる。


 そんな背景を知ってか知らずか、異様な盛り上がりを見せる会場では遂に四強が出揃った。


 [赤炎虎]体長四mほどの全身に炎を纏った赤い虎。

 [ロックコング]身の丈三m、身体の各部が強固な岩で出来た屈強な茶色のゴリラ。

 [猪突猛人]ロックコングより更にひと回り大きな体躯を持ち、口の両脇に歪に曲った八本の大きな牙を持つ直立したイノシシ。

 [闇黒豹]体長三mほどの大型の黒豹。ツバキのように影に潜る事が出来る。


 以上が四強に残った魔物達だ。


 シズカの独断で決定した準決勝第一試合は[ロックコング]と[猪突猛人]によるパワーファイター対決。


 開始の合図と共に、土煙を上げながら物凄い勢いで[ロックコング]に突進する[猪突猛人]。彼はこれまで全ての試合を、この必殺の突進攻撃で勝ち進んできた。

 対する[ロックコング]は、その硬い表皮と参加者中随一の怪力を誇る。シズカでなくとも見たくなる組み合わせだ。


 会場じゅうに轟く激突音。土煙が収まるとそこには[猪突猛人]御自慢の牙を掴み、僅かに後退しながらも踏み止まる[ロックコング]の姿があった。

 両者の力が拮抗しているかに見えたが、次の瞬間[ロックコング]が雄叫びを上げながら[猪突猛人]を持ち上げそのまま後ろに倒れ込む。背中から強烈に地面に叩きつけられた[猪突猛人]は泡を吹いて気を失い[ロックコング]の勝利となった。


 続く準決勝第二試合は[赤炎虎]対[闇黒豹]。


 同じ猛獣タイプ同士の戦いながらその体格差は明らかだ。会場の誰もが体格で勝る[赤炎虎]の勝利を疑わなかったのだが、結果は意外なものとなる。

 開始直後、敵の影に潜んでそこから攻撃する神出鬼没の[闇黒豹]を全く捉える事が出来ず、[赤炎虎]はひたすら一方的に攻撃され続けて敗れたのだ。


 迎えた決勝戦、再び開始と同時に[ロックコング]の影に潜む[闇黒豹]。だが準決勝を見て研究した[ロックコング]は深く屈伸すると勢いよく宙に飛び上がった。


 潜む影を失いその姿を現す[闇黒豹]。


 落下の勢いとその体重を以て踏み潰さんと迫る[ロックコング]。


 躱す以外の選択肢が無いと思われた[闇黒豹]だが、その場を動く気配が無い。


 [ロックコング]のその巨体が勢いよく着地した衝撃で、土煙が舞い上がる。


 その土煙の中で何かが呻き声をあげ転げ回る様子が伝わると、会場のほぼ全員がそれは大怪我をした[闇黒豹]だと思っただろう。


 だが土煙が落ち着いたそこにあったのは、両足から血を流して呻く[ロックコング]の姿と先程の位置から動いてもいない[闇黒豹]。

 しかし俺には見えていた。[闇黒豹]の身体が突然ぐにゃりと変化し、剣山のようになって[ロックコング]の足を貫いた一部始終が。


「あれはいったい?」

「……影操術」


 俺の放った独り言のような問いに、足下の影の中から姿を見せたツバキが答える。以前訓練中にツバキに聞いた事があるな。確か『影』に関わる種族の秘中の秘だったか。



 熱戦の興奮冷めやらぬ会場では[ロックコング]の治療も終わり、これより優勝者[闇黒豹]とナーサの召喚契約が行なわれようとしていた。余計な事を吹き込みそうなシズカは、俺が手を繋いでナーサに近づけないようにしている。あの外見にあの技だからな、ロ〇ムとか名付けられたら大変だ。


 [闇黒豹]の前に立ち、術に入るナーサ。その足元に魔法陣が浮かび上がる。


「召喚、クロカゲ!」


 ナーサの呼びかけに応え魔法陣から姿を現す[闇黒豹]改めクロカゲ。黒くて影に入るからかな。まあ忍者っぽくてお似合いかも知れない。

 何はともあれナーサにまた心強い仲間が加わった。彼等が活躍すれば、それはナーサの自信に繋がるだろう。今後の活躍に期待したい。

 そんな事を考えているとナーサが小走りで俺の前にやって来た。


「ダンナ様、ありがとう!」


 彼女はそう言うと、俺の右の頬に口づけをして恥ずかし気に走り去っていく。


 ちなみに仲間の肩をフラフラ飛んで次々渡ったサマエルは、最終的にアイリの背中のリュックの上を定位置に決めたようだ。



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