混沌竜の伝説
翌日、朝食をアンナの所で済ませた俺達は普通に門から市街に出た。
市から少し離れた場所でスーさんを戻し馬車は【魔眼】に収納すると、一気に『冥府の森』へと転移する。師匠の結界がどう転移と作用するのかが不明だった為、直接洞窟には飛ばず少し離れた場所に着いたのだが、それを察知し猛烈な勢いでこちらに迫って来る三つの大きな魔力の塊があった。
今居るのは『生贄の庭』。となれば当然これはそのボス『クロ』とその子供の『シロナ』『クロナ』だ。
クロは俺に、シロナとクロナはアイリにいきなり飛び付き舐め回す。その様は知らない者が見たら襲われてるようにしか見えないだろう。配下である事は説明済だが初めて見る者はショックが大きいようだ。
「我が君のペットと聞いておったがこれ程とは。これでは迷宮のボスなど、ただの雑魚に見えてしまうのう。ほほほ」
コクコク。
「ダンナ様。惚れ直した……なの」
「こりゃあ、オレ以上の猛獣使いじゃんよ!」
「これが主君の飼い犬とは……負けてられんな!」
ガブリエラが何の対抗意識を持ったのか知らないが、各自クロと子供達に別れて乗り洞窟に向かった。
洞窟は水の精霊達が時々掃除をしてくれて居るようで、大した汚れも無くあの時のままだ。シズカ……好意で掃除してくれたんだから、指で埃拾ってフッとかするの止めなさい。お前は小姑か。
「さてこれから何かの時にここに来る者も居るかも知れない。そこで俺の新しい『家族』として『冥府の森』の主要な者達に紹介しておこうと思うが瘴気が問題になりそうなのは…」
「お兄様とワタクシ、それに瘴気に耐性があるアイリとツバキは問題無いですわ」
そうアイリはここで長く過ごした事とクロに近い種族に進化した事で耐性がある。またツバキは影に潜むという能力故か闇属性に関しての絶対耐性のような物があるのだ。その為闇の副産物たる瘴気も平気であった。
「妾は自身で結界を張ろうて。あまりに高濃度の瘴気帯に長う居る時はミスティ様にご助力願おうかの」
「主君、私の体表に触れた瘴気は次々浄化されます。逆にそれが害となる配下の方々は私に触れぬ様ご注意をお願いします」
「わかった。ではナーサは常時。エレノアには補助的にミスティの『加護』を付けておこう」
ここまで話した所で、火にかけていたお湯が沸いたのでアイリがお茶を淹れ皆に配った。皆がそれに口を付け落ち着いたのを見計らって、俺は話し始める。
「皆も気付いているかも知れないが俺の使う『炎』の魔法は通常の物とは違う物だ……」
そこまで話しかけた所であまりに皆が余裕の表情でうんうんと気軽に頷いている事に気が付いた。まさかと思いシズカを見ると俺を見ながら苦笑いして手を合わせる。成程既に話したのか……。
「まあいい。どこまで聞いてる?」
「我が君が使うのは『混沌竜』が使うのと同じ『黒炎』であると言う事かのう」
「そうか。ではその『混沌竜』についてはどこまで知ってる?」
「そんなん誰でも知ってる話じゃんよ。昔…………」
そう言って『混沌竜』についてのよく聞く伝説をダスラが話し出した。
曰く、その昔一人の『竜人種』の娘と人間の若者が森で出会い恋に落ちた。
しかし若者には既に親が決めた許嫁がおり、そのままでは結ばれる事が出来ない。そこで若者は家に戻って親と話し、婚約を解消した後必ず迎えに来ると言い残し森を去った。
残された娘は唯じっと待ち続けた。『竜人種』の寿命は長い。その為始めは大して時を気にする事無く、彼が初めて森に来た時の小道に毎日立ち、日が暮れたら住処に戻る日々を繰り返していた。しかし五年経っても十年経っても、一向に彼が戻る気配は無い。その日々の中で娘は身の内に宿る不安や焦りといった『負』の気を貯めこんでいく。
やがて三十年程経ったある日、遂に堪え切れなくなった娘は正体を隠して人間の街を訪れた。
そこで聞き込みを続けた末に彼女が知ったのはあまりに悲しい話だった。
彼の家は今は小さいながらも王家の血を僅かに引く貴族。そして許嫁の実家はその国一番の大貴族。その大貴族は将来その子供に王の座を狙わせる為に彼の『血』を求めたのだ。彼の父がそんな大貴族を前にして自分の意見を通せる筈も無く、彼が婚約の解消を口にしたと知った大貴族の申し出に従い、彼を大貴族に差し出した。その後影武者により婚姻の儀が行われ、彼自身は大貴族の屋敷に作られた塔に閉じ込められる。
大貴族等が求めるのはいわば一粒の種のみ、魔法や薬を用いて彼にそれを求めたが彼の意思は固く日々抗い続ける。あまりの責め苦に半ば廃人と化した彼は、毎日喉が潰れるまで愛しい『竜人種』の娘の名を叫び続け、そして死んだ。
彼の死を知った娘は抑え続けた『負』の感情に支配され、その身から溢れ出る濃い瘴気は自らの身体も腐食させる程だった。やがて完全に自我を失った彼女は一匹の巨大な黒い腐竜となり、その大貴族の領地を、彼の父の領地をそして遂には人間の世界そのものを滅ぼさんとその猛威を振るったという。
世界の半分近くがその『黒炎』によって焦土と化した時、竜は突如侵攻を止め故郷の森にて眠りについた。
「…………でもこれって婆ちゃんが作った作り話だと思ってた。それが本当にこの森で眠ってるなんて驚きじゃんよ!」
既にその存在がここに居る事まで聞いて無ければ、皆おとぎ話としか思わなかったろう。
「ダスラ、誰が眠ってるって?」
「誰ってドラゴン。『混沌竜』じゃんよ!」
やっぱりか、シズカめワザとそこまでしか話さなかったんだな……。
「『混沌竜』は眠ってなんか居ないぞ!」
「!」
「これからその『混沌竜』。いや彼女『パンドラ』に会いに行くぞ」
ナーサ、ツバキ、エレノアの三人はそれを聞いて真っ青になっていた……。
遂にこの『魔眼のご主人様。』も100話に到達致しました!
勢いだけで執筆を開始した私がここまで書いて来られたのは、読んで下さる皆様のお陰です。
Ptやブクマして下さる皆様、その一つ一つに感謝が言葉に成りません。
改稿や修正が追い付かず読み辛い点も多いかとは思いますが、精一杯頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します!
この作品にアクセスして下さった全ての方に最大の感謝を!
本当に、皆様有難う御座います!




