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セイナン市にて

 あの宴から五日。王都を出発した俺達は、今セイナン市の城壁が見える所まで来ていた。


 ここを出発してからそれ程日数が経った訳でも無いんだが、何だかとても懐かしく思える。

 偶然、門番は俺達がセイナン市に初めて来た時担当したのと同じ人だった。驚愕で絶句しながら何度もカードを見、俺とシズカを交互に見る姿はかなり面白い。少し前に木の仮冒険者証を持って来た者達が『S』と書かれたギルドカードを持って現れたのだから無理も無い。ちなみにホーリーヒル王国内限定の文字が横に小さく刻まれているが。


 セイナン市に入ると買い出しに行く仲間達と別れ、俺は一人で挨拶回りだ。まずはギルドに行きエレナを訪ねる。エレナは俺の姿を見るといきなり深々と頭を下げた。


「同志シンリ殿、今回の件では何のお役にも立てず本当に申し訳なかった!」


 後でミリアに聞いたのだが、俺の収監された話を聞いたエレナは、ギルドで奪還作戦を行うだの、[精霊は正義エレメンタルオブジャスティス]を動かそうだのとすぐにでも飛び出していきそうな勢いだったらしい。帰っても眠れないからと、何日も支店長室に泊り込んだそうだ。暴走されていたらと不安にもなったが、俺はもう『冥府の森』の外の世界にもこんなにも関りを持ったのだと改めて感じ、胸が熱くなった。


 ギルドを出た後、職人区に寄り地区長のリッペを訪ねる。そこで迷宮内で大量に集まった素材の一部を皆で使って欲しいと渡すと、彼は腰を抜かしそうになっていた。確かに迷宮のそれも深層の素材はかなり貴重らしい。ニャッシュビルでチャムロックに聞いた為[マスターG]の甲殻を持ってきたが、あれは随分喜ばれた。なんでも軽鎧系の素材に最適なのだとか。シズカ達には聞かせられない話だ。


 そういえば途中のザレクの工房にアイリの姿があった。恐らく[北風の魔槍(ボレアス)]のメンテだろう。それからフェアリー鞄工房に寄り土産の[ワープフロッグ]の皮を渡した後、ゼフの商店にも寄った。


 夕方になり待ち合わせ場所にした[麦の香亭]に着くと、俺以外は全員揃っていた。その中にはアイリについて来たであろうプレタの顔もある。


 シズカから俺達のS級昇進を聞いたアンナは、今夜はお祝いだと言って貸し切りにしてくれている。ウチの女性陣が給仕を手伝い、テーブルに全ての料理が並び終わる頃には、エレナらギルド職員、リッペに職人区の皆、商人のゼフとタリアが集い、座りきれない人が店の外にも溢れていた。


 女性陣の多くはアンナにリクエストしたチーズフォンデュに夢中だ。久しぶりに揃ったツバキとテスラの癒しコンビが周囲に幸せを振りまいている。俺はと言うと酔ったおっさん達の相手、だったらまだましだったかも知れないが。


「聞いてるんですかシンリ殿!いつになったら私をお傍に置いてくれるんですっ?」

「だからエレナ、それは無いって言ってるだろう…」


 俺の件でストレスが溜まってたであろうエレナに、目下絶賛絡まれ中だ。彼女は大人しくしていれば本当に綺麗で魅力的である。今も俺の肩に手を回している為、腕に当たる柔らかな感触と触れる程近いその顔に俺はやや圧倒されていた。ただめっちゃ酒臭い…。


「やだーシンリ殿と一緒に旅したいー!したいしたいっ!」

「はいはい。あっちに行きましょうねー」


 あまりに長く続くそれを見かねたミリアが現れ、エレナを別のテーブルに引きずって行った。

 入れ替わる様に、ゼフと職人区の人達に囲まれる。彼等の興味はお土産に渡した素材の話と迷宮での冒険譚だ。ニャッシュビルの事はもちろん言えないが、彼等ならあの村の技術者達と気が合いそうだなと思いつつ迷宮での話を語って聞かせた。


「シンリ、アンタ帝都に行くんだろ?あっちでも迷宮に挑むのかい?」


 そう言って聞いて来たのはいつの間にか迷宮の話の輪に混ざっていたアンナだ。彼女は元A級冒険者『雷神』アンナロッテ。迷宮攻略を主として活動していた為、興味津々の様だった。


「そうですね。あっちにも迷宮があるなら時間があれば行ってみたいですね」

「そうかい。まああっちには幾つか迷宮があるが…『螺旋の庭園(スパイラルガーデン)』には気をつけな!」


「『螺旋の庭園(スパイラルガーデン)』ですか」

「ああ。そこがアタイの『冒険』を終わらせちまった所さね。ま、今はそれで良かったと思ってるけどねえ……」


 アンナは空いた皿を片付けてるピエトロの姿をじっと見る……。


「あそこに行くならこれだけは覚えときな。見えてる物を信じ過ぎない事、下に降りるだけが迷宮を進む道じゃあ無いって事。まあアンタ達なら要らぬお世話だろうけどねえ。あっはっは」


 俺の背中を叩きながら陽気に笑うアンナ。だが心配してくれるアンナには悪いが、俺は退屈で憂鬱な帝都行きに新たな楽しみが出来たと喜んでいた。


「……帝都行くなら」


 笑うアンナの背後にピエトロが立っていて、何か俺に伝えたそうにしている。そこは夫婦の以心伝心。言いたい事を理解したアンナが代弁してくれた。


「そうさね。帝都行くなら『甘麦屋』に行ってみな。きっと驚くよ!」


「『甘麦屋』ですか」

「ああ、後で地図書いたげるよ。ま、騙されたと思って行っといで。あっはっは」


 その後も帝都やその付近の迷宮についての情報を聞かせてもらった。リッペや一部の職人からは[ロートス]と言う木の魔物に出会ったら、是非その素材を持ち帰って欲しいと熱心に頼まれる。なんでも[魔導住宅(ビックリハウス)]に使う木材らしい。馬車を作って貰った恩もあるし、それは何とか入手してあげたいな。


 宴会の後、酔いつぶれた者等にアンナが空き部屋を提供した為、俺達は裏に停めてある馬車の中で眠る事にした。


 明日はいよいよ懐かしき『冥府の森』に向かう。










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