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ゆたかの怪奇列島第7章「二番」  作者: こうた


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第1話「語られない場所」

岡山。

昼。

観光客の声が、やけに明るく響いていた。

「ここが桃太郎の像やでー」

子どもがはしゃぐ。

その前に立つ——

桃太郎

誇らしげな姿。

犬、猿、キジを従えて。

“物語の主人公”。

ゆたかは、それを見上げる。

「……えらい扱いやな」

ななが隣で笑う。

「そら日本一有名やからな」

神父が静かに言う。

「象徴です」

一拍。

「“正しさ”の象徴」

その言葉。

桃太郎は少しだけ目を細める。

何も言わない。

だが——

前とは違う。

“考えている顔”になっている。

ゆたかがふと呟く。

「なあ」

ななが振り向く。

「なんや」

ゆたかは像を見たまま言う。

「こいつ以外はどうなっとるんやろな」

一拍。

「強いやつ、他にもおったやろ」

沈黙。

ななが肩をすくめる。

「知らんわ」

神父が答える。

「記録に残らなかった可能性があります」

その言葉。

風が吹く。

ほんの少しだけ——

空気が冷える。

桃太郎の視線が、わずかに動く。

像ではなく。

その“足元”。

影。

違和感。

一瞬だけ。

“もう一つの影”が重なった気がした。

ゆたかが気づく。

「……今の」

ななも反応する。

「見たか?」

神父が周囲を見渡す。

「気配があります」

一拍。

「ですが——」

言葉が止まる。

そのとき。

遠くで怒鳴り声。

「なんでやねん!!」

全員が振り向く。

作業員同士が揉めている。

「俺の方がやっとるやろ!!」

「は?結果出てへんやんけ!!」

空気が荒れる。

ただの口論——

のはずが。

異常に激しい。

ななが眉をひそめる。

「……なんやこれ」

ゆたかも違和感を感じる。

「ちょっとおかしいな」

神父が静かに言う。

「感情が増幅されています」

一拍。

「外部要因です」

そのとき。

風が止まる。

一瞬。

完全な静寂。

そして——

背後。

“ドン”

重い音。

地面が、わずかに沈む。

ゆたかが振り向く。

そこに——

“影”。

人の形。

だが——

大きい。

異様に大きい。

顔が見えない。

輪郭が、揺れている。

ななが小さく呟く。

「……なんや、あれ」

神父の声が低くなる。

「強いです」

一拍。

「ですが——不安定」

影が、ゆっくりと動く。

桃太郎を見る。

まっすぐに。

その瞬間。

空気が、重くなる。

ゆたかの胸に、違和感。

ざわつく。

(なんやこれ……)

(妙に引っかかる)

影が口を開く。

声が響く。

低く。

歪んでいる。

『……なんでや』

一歩、近づく。

『なんで、お前なんや』

桃太郎の目が揺れる。

ほんの少しだけ。

『同じやろ』

『力も、戦いも』

一拍。

『なんでお前だけが“物語”なんや』

空気が、張り詰める。

ななが小さく言う。

「……これ」

神父が続ける。

「間違いありません」

一拍。

「“二番”です」

その言葉。

ゆたかが前に出る。

ゆっくりと。

「お前……」

影を見る。

真正面から。

「誰や」

沈黙。

影は、少しだけ笑う。

歪んだ笑い。

そして——

『……知らん』

一拍。

『でもな』

拳が、ゆっくりと握られる。

地面が軋む。

『一番にはなれへんかった』

風が吹く。

強く。

周囲の人間たちの声が、さらに荒れる。

「なんで俺やねん!!」

「評価されへん!!」

怒号。

混乱。

ななが舌打ちする。

「広がっとる」

神父が言う。

「影響範囲が広い」

一拍。

「このままでは暴動になります」

ゆたかが構える。

「ほな止めるか」

桃太郎が、静かに前に出る。

だが——

動きが、わずかに遅い。

迷い。

まだ消えていない。

影が、それを見る。

そして——

笑う。

『ほらな』

一歩。

さらに近づく。

『お前も分かっとるやろ』

低く。

深く。

刺さる声。

『選ばれただけやって』

桃太郎の呼吸が、乱れる。

ほんのわずかに。

だが確実に。

ゆたかが言う。

「気にすんな」

一拍。

「そういうやつや」

影が、ゆたかを見る。

初めて。

その視線が向く。

『……お前は』

『どっちや』

静寂。

問い。

ゆたかは、少しだけ笑う。

「どっちでもない」

一拍。

「最初から外や」

その言葉。

影が、止まる。

ほんの一瞬。

空気が揺れる。

その隙。

神父が低く言う。

「今です」

ななが動く。

「行くで!!」

戦いが——始まる。

■ 第7章 第1話 終

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