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破綻少女は死に想う  作者: 七天 伝
第一章 求めるもの
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絶対強者

 走る。吹き抜ける風よりも速く、森を駆ける。左手に持っている端末から地図を確認すればもう少しで王国の国境が近いのがわかる。


「もう少し、もう少しで…」


 今度は大丈夫、なんとかなる。何度も何度も自分にそう言い聞かせる。そうやって言い聞かせないと私がもたない。

 本当はわかっていた。もう私に次はないと。国境を出ても追われることに変わりはない。それに明日か明後日、下手したら今日にも私は現実で死ぬ。もう時間はない。でも、私は逃げた。襲い来るものに恐れて逃げた。


 結局、私がしたかったことはなんだったのだろうか。何を求めて、何を欲していたのだろうか。いつしか逃避の最中そんなことばかり考えていた。


 後悔に苛まれながら走り続けてどれくらいたっただろうか。森の出口があと少しで見えるという所まできた。ラストスパートとさらに加速しようとしたとき、目の前の地面が爆ぜた。 


「ッ!呪塊…?いや、この感覚は…」


 振り返り目の前にいる存在に大鎌を向ける。そこにはガラスの棒を持った白い軍服の魔法少女がいた。


「ふむ、間に合ったようだね、姿も間違ってはいないようですね」


 歩いて私へと距離を詰めてくる。敵意を見せず、それこそのんびりと散歩しているかのような足取りでこちらへやってくる。


「…一人?」


「ふむ、そうですね。これ以上被害を増やすわけにはいかないので。国境を越えてなくてよかったです」


 油断しているように見せかけてその目は私の動きに注視し続けている。彼女の動きを見ながら20もの大鎌を生成し切先を向ける。妙な動きをしたらすぐに射出する。


「ふむ、物騒なことするね。怖いから壊させてもらうよ」


「…? ッ!」


爆発音とともに後ろに控えていた大鎌が全て壊されていた。女の方を見ると両手に持つガラス棒を私へと向けていた。


「(強い…!)」


「せっかくなので自己紹介を。私の名はティエル・アーディア、今後ともよろしくお願いします。まあ、あなたと会うのはこれで最後ですが」


「…」


「返事くらい欲しいですね」


 そう言った直後、ガラス棒を投げつけてくる。一つ目を避け、二つ目を破壊する。二つ目を破壊すると同時に破裂音がし、私の持つ大鎌が破砕される。すぐに新しい大鎌を作り出しティエルへ向かって駆ける。さらに30もの大鎌を周りに生成し私の突撃とともにティエルへと斬りかかる。


「《付与(エンチャント)》!《魂奪(我が鎌は魂を奪う)》!」


「ふむ、《付与》、《衝撃音(衝撃によって音は生ず)》」


 大鎌とガラス棒がぶつかり高い音が響く。瞬間、風船の割れたような音とともに私は大鎌ごと吹き飛ばされる。即座に空中で体制を立て直し大鎌を地面に突き刺し減速を図る。


「ッ!《衝魂(魂よ、打ち振るえよ)》!」


 左手を突き出し放たれる不可視の魔法。しかしそれをティエルはガラス棒を叩きつけて生まれた衝撃で相殺する。


「! なんで…!」


「さて、なんででしょうね」


「くっ!」


 雨のように降り続ける大鎌をひらひらと躱し、時にガラス棒を投げつけて相殺していく。宙に浮く大鎌を足場にトリッキーに動いてティエルへと詰めるも、何度かの打ち合いの果てに吹き飛ばされる。そんな激しい攻防が続き、疲れが生じ始める。


「はぁ…はぁ…」


「ふむ、疲れてきたのか?なら、そろそろ楽にしてやろう…《無音(サイレント)》」


 そうティエルが詠唱すると一瞬で周りが静かになる。風の吹く音、草を踏む音、宙に浮く大鎌の砕け散る音。辺りの音が何も聞こえなくなった。


 その静けさを不気味に思いつつティエルを見据え続ける。一瞬でも隙を晒せば殺されてもおかしくない。


 大鎌を再び生成し始め再び距離を詰める用意をする。早く決着をつけないと。こいつを殺して、殺して…。


 それで、その後どうするの?


「隙ありですよ」


「ッ!ウッぐううううううううぅ!」


 左腕にガラス棒が突き刺さる。直後爆発とともに腕は吹き飛んだ。激痛が全身を駆け巡り体が痙攣する。寸で避けることが出来ていなかったら直撃していた。無くなっていたのは左腕ではなく命だっただろう。


 死への恐怖がが痛みを凌駕して急激に冷静にさせていく。恐ろしいものが私を駆り立てて止めることはない。

 目を逸らしてはいけない。今の状況で一瞬でも目を逸らせば次は間違いなく死ぬ。単純な物量じゃ絶対に殺せない。《衝魂》は避けられた。不可視の攻撃を見ることができるのだろうか。考えることが多すぎて何もまとまらない。


 左腕の断面から滴る血の感触を感じながら、大鎌を必死に奴に向けて射出していく。ティエルはそれを冷静に砕いて距離を詰めてきている。


 少しずつ近づいてくる死が私に焦りをもたらす。いや、焦りじゃない。恐怖だ。ひたすらに目の前の存在に恐怖を感じている。やってくる死に目の目が真っ暗になりそうだ。


どうすればいい、何がある、何が残されている、何をすれば。ぐるぐると同じ問いを繰り返す。


「あ…」


 その果てに思い出した。改造を終えた魂の存在。あれならこの状況を打開できるのでは。


 もう、それしかなかった。


 そう考えるとそこからの行動は早かった。ティエルから目は逸らさず、右手に持つ大鎌から一つの魂が飛び出す。改造の済んだ魂は禍々しい色に変色し蠢いている。明滅する紫色の光が鼓動のようにも見える。


「…あなた、何をする気?」


 始めてティエルの口から出る焦りの声。その声を聞けただけで今の私は十分だ。


 大鎌の雨を避けながらガラス棒を何本も作り私目掛けて投げてくる。それを宙に浮く大鎌が防いで相殺していく。それを見ながら右手に持つ大鎌を投げ、魂を上に掲げ詠唱する。


「…私は白きモノを黒へと染める者、私は意思を挫く者、私は魂を支配し、貶める者。欺瞞を、傲慢を、高慢を、怠慢を、憤懣を、本来の形をさらけ出せ!《再誕(リ・バース)》!」


 詠唱の完了とともに魂は蠢き続けるのを止める。一拍、水の入った風船が破裂したように泥闇が溢れ出し、悲鳴にも似た産声をあげ新しい器を形成していった。


アドバイス等があればよろしくお願いします


ペコリ((・ω・)_ _))

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