34 タクシーを頼む
「あぁ!!、君の頼みならもちろん歓迎さ!」
満面の笑みで答える目の前にいる男を、俺は心底気持ち悪いと思った。
「そうか、じゃあ用意してくれるか?」
「任せてくれ、ちょうどカストドートに出荷に行く馬車があったはずなんだよ」
そう言って黄木はルンルンで棚の書類を探し始めてた。
「・・・この人が光夜の言ってた伝手?」
「オウキ商会の頭ですね」
最近うちの教団と仕事の優先契約を結んだ某オウキ商会のドン、黄木春吉である。
俺たちは仕事でカストドートという国にいかなければならない。というわけで、商会で様々な場所で商売してそうなここで馬車に乗せてもらおうと思ったわけだ。
どうせなら安い方がいい。
「君が僕のところを頼ってくれた理由は大体わかるよ。商工ギルドとかに直で頼むよりも融通もきくし、金も安いからね・・・おお、あったあった、これだよ。カストドートに食料と薬を売りに行く馬車だ」
そう言って黄木は一枚の書類を俺たちに見えるように置いた。
そこには乗せる商品の内容とルート、かかる日数に担当配達者の名前などが書いてあった。
「意外と少ないんだな」
「あっちの支店の商品追加だからね。足りない分を増やすだけだから」
「それで、いくらで乗せていただけるんですか?」
「もちろんタダ!・・・と言いたいんだけどね、うちもあまり余裕があるわけじゃないし、僕のかわいい秘書が目くじらを立てるからね・・・」
そう言われて黄木の視線につられて横でずっと静かに立っていたエルフの秘書を見る。
「申し訳ございません。ご理解ください・・・社長は後でお話があります」
「ははは!、助けて」
前にシャーネと来た時にもそういえばいたな・・・すごい仲良さそうだね。
「とまあ、こういうわけだから無料というわけにもいかないんだ。というわけでこちらからの依頼の報酬ということにしてほしい。もちろん、危険だから追加分は多少安いが払わせてもらう」
「内容を教えてくれるかな?」
「内容はいたって簡単だよ。カストドートからの往復で馬車を護衛してくれればいい。報酬は行き帰りの馬車の保証と三人分で六百ゴールド・・・あれ、これって個人的なお金だよね?、君たちの教団を介すなら教団の方にも払わなきゃいけないんだけど・・・」
「それは大丈夫です。仕事の一環で私たちが借りるだけと報告してるので、むしろ経費が落ちます」
え?!、うちの教団経費とか落ちるの!?、なんか生々しい!!
「そうか、なら大丈夫だね。こっちもめんどくさい手続きがなくて助かる」
話が終わったところでずっと静かに見てた秘書が一歩前に出て口を開く。
「では、明日の朝に南の門まで来てください。こちらで話は通しておきます。今日中に準備した上、遅れることのないようお願いします」
というわけで、馬車に乗せてもらう約束をし、俺たちはオウキ商会を出た。
「最近教団がオウキ商会と契約したから何事かと思ったけど、まさか光夜が?」
「まあ、一応・・・手続きというか、話をしたのはシャーネとか上の人ですけど」
「なるほどです。友人なんですか?」
「いや、なんなら気持ち悪いまである。お互いに利用しあうだけの関係だ」
「でもなんかあっちは心底君に陶酔してる感じだったけど・・・」
陶酔か・・・、まあ、間違ってはいないかもしれない。
あいつはあいつで俺と同じで狂ってる。俺に償うということに、なぜか執着している節がある。
こういうのもあれだが、特に学校でも話したことなかったはずなんだがな。
いやまあ、そもそも高校で人と話すこと自体あんまりというかほぼなかったんだけど・・・
「でも、これからオウキ商会が運んでくれるなら好都合だね」
「そうですね。今までみたいにいろんなところ回って探したり、何日も待ったり、歩いたりしなくていいですもんね」
確かに、馬車も必ず出てるわけじゃないだろうし、大変だろう・・・って歩いたりすることもあるの!?、大変だな・・・
「それじゃあ明日までに各自準備しようか。たぶん長旅になるからそれぞれやることあるんじゃない?」
「そうですね。そうしましょうか」
まとめる荷物もない俺からしてみれば、どうしようか迷うが、二人はきっと色々準備があるのだろう。女性だし。
「では、明け頃に教団の入り口集合で」
「「はい」」
そう言ってそれぞれの目的地に向かって歩き出す。
・・・え、すご。みんな違う方向じゃん。
これからどうしようかなとあたりを一旦見回しながら考える。
とりあえず、なんか持ってけるものがあるかもしれないし、シニカさんに会いに行きがてら教団の備品倉庫にでも行ってみるか。一応貰えるもんは貰っとこう。
そう思って俺は少し軽い足取りで教団のある方へ歩き出した。
・・・というかあの二人教団の方へ行くんじゃないんだ。