24 シャーネの決壊
仮面のことをルロイに任せて俺たちはオウキ商会のある大通りまで戻ってきていた。
ルロイが言うには出来次第教団に届けてくれるらしい。ならさっさと出たいとシャーネが言ったので俺はシャーネの後ろにつきながらここまで戻ってきたのだ。
「なあシャーネ、今更なんだけどさ。ミス・インビジブルって何?」
俺はあの場にいながら結局聞けなかったことを聞いてみた。
「言いたくない」
「え、あ、はい・・・すみません」
あまりにも直球で拒絶されてしまったので俺はつい謝罪の言葉を漏らした。
「・・・そのうち話してやる。だから今はそっとしておいてくれ」
力ないその姿に俺は押し黙るしかない。
自分のことを知られたくないのは俺だって同じだし暗殺教団に身を置く時点で何かしらあるのは当たり前だ。まだいつか話してやると言ってくれるだけ信頼してもらっているのだろう。
それがいつになるかは決して関係ないが。
「そ、そういえばさ。シャーネとかって割と当たり前のように仮面で出歩いてるけどそれって大丈夫なの?」
「あ?、まだ説明してなかったか」
そう言いながらシャーネはフードを仮面が見えるように上げる。
そこからはずっと陰から見えていた機械仕掛けの仮面が出てくる。
「これには私の魔法を媒体に極限まで存在感を薄くする魔法がかかっているんだ。他人からは姿は見えているがそれが何か興味がわかないうえに少し見えても忘れる。人間に見えるが風景の一部としてしか映らないようになるんだ」
・・・つまり簡単に言えば超絶優秀な認識阻害がかかってるってことか。
「おそらくお前も私から離れてから今の私の背格好や仮面の見た目を思い出そうとしてもおそらく思い出せないぞ」
「そうか、今は目の前にいるし仮面をとってる姿も認識して一体化してるからそうならないだけで初対面から見れば道にある石ころ同じってことか」
「そういうことだ。魔法そのものは完全に姿や音まで消すからより《存在しない》という形になるがな」
思ったより便利だった。仮面すげぇ。
ということはシャーネの使っている機能はおそらく俺には使えないから仮面を手に入れても俺は仕事以外つけられないのだろう。それはそれで何となく残念になる。
それから何気ない雑談をしながら歩いていると教団まで戻ってきていた。
大扉を昨日と同じようにくぐり、大聖堂の中を通って宿舎のある裏へと戻ってきた。
「あらシャーネさんとコウヤじゃない。おかえりなさい」
「ただいま帰りました。シニカさんはまた外の掃除ですか?」
「まーねぇ、アルドーニ・シニカのほうも従業員さんが増えてきて私が出る幕ってないのよ。だからお婆ちゃんはお婆ちゃんらしく外ではき掃除をしてるのよぉ」
頬に手を当てながらそんなことを言うシニカさんに俺は苦笑いを浮かべる。
でもやっぱり何度見てもこの人が千二百歳を超えている人には見えない。
見た目で何歳に見えるかと言われれば正直二十代後半ぐらいのお姉さんにしか見えない。
「最近暇なことが多くて体も鈍ってきちゃうし・・・お偉いさまっていうのもそんなにいいものでもないのよね」
・・・体が鈍るって、もちろんただの運動的なことですよね?
はい、そんなわけないです。まず教団が作られた時からいるって時点でもうそれだけの実力があるってことですもんね。
「・・・そうだわ、シャーネさん。コウヤを私に頂戴?」
シニカさんは何かとてもいいことを思いついたかのように笑顔でそう言った。
まあ、とことん文面がおかしいが。
「え?、な、なに言ってるんですかシニカさん!。確かにその辺の赤フードや青フードよりは強いですがコウヤもさすがにシニカさんの直属にできるほど腕はありませんよ!?」
・・・うん、確かにその通りで彼女なりに俺のことを評価してくれているとは思うがこうも下方向に力説されるとちょっとくるものがある。
「だからよぉ?。なんだかコウヤってすごく伸びそうな気がするの、まあ私の直感なんだけどね」
「つ、つまりシニカさんが直接育てるってことですか?」
「えぇ、そういうこと」
なんか黙ってたらどんどん話が進んでいく。
確かに俺にはそこそこの能力こそあれど実力や経験などの技術が圧倒的に足りていない。
それを叩き込んでくれるというなら俺にとっては願ってもないことだ。
「そ、それは承諾しかねます。それは彼の担当である私の仕事です」
意外なことにシャーネはシニカさんの意見に異を唱えた。
「でもシャーネさん、仕事もあるじゃない。それはどうするの?」
「それは・・・空いてる時もあるので」
「私の知る限り貴女はかなり多忙なはずよ?、あなたの隠密性はこの仕事にとって計り知れない需要がある。正直、他の団員の三倍は仕事があるはず・・・その間コウヤはどうするの?」
「うっ・・・」
完全に押されて何も言い返せずに黙り込んでしまうシャーネにシニカさんはとどめと言わんばかりに口を開く。
「それに・・・実力も経験も正直に言えば私の方が上よ?、シャーネさん」
空気が、重かった。
完全に押し黙ってしまったシャーネとちょっと得意げに微笑んでいるシニカさんを交互に見て俺はおろおろするしかない。
「・・・ですか」
ボソリと呟いたシャーネの声は小さく聞き取れない。
「・・・なんて?」
シャーネは下を向きながらゆっくりと仮面をとる。その行動がすでに謎だった。
仮面をとって少しの沈黙の後シャーネは勢いよく顔を上げた。
「ずるいじゃないですか!!、お仕事の話をされたらもう言い返せないじゃないですかぁ!!。私だって光夜さんともっとお話したいんですよぉ!!」
涙目で叫ぶシャーネにはもう先ほどまでの冷静さなんて微塵も残ってなかった。




