23 裏の仮面
「お話・・・ですか?」
「そう、お話。雑談、世間話、フリートーク・・・仮面を作るには貴方をよく知らなきゃいけないんですよ」
改まって言うので何かと思ったがあまりにも予想外の答えで聞き直してしまった。
「仮面とはつまり持ち主の顔を隠すもう一つの顔。それはより貴方に馴染み、より深い場所にあるもう一つの貴方の顔でなければならない・・・と私は考えてるわけでして、そんな光夜さんの中に眠る顔を知るためにあなたとお話をするわけです」
「な、なるほど・・・」
言いたいことは分かるがこの人と話すのはなんとなく怖い。
ホラーゲームをしているような恐怖だ。
「あまり待たせるとミス・インビジブルが怒ってしまうので早めにしましょうか。まず、光夜さんは何色が好きですか?」
まさかの心理テスト的質問に少し驚く。というか目的を考えるとあながち心理テストでも間違いはないのかもしれない。
「青とか緑とか、少し暗めの色が好きです」
「たとえば?」
「瑠璃紺、深緑、深藍色、蒼色とかが好きです」
「マニアックですね、そこまで深く出てくるとは思ってませんでした」
中学生の頃、美術の授業で興味を持ち色々と調べたことがあった。
ルロイは横の机にあった紙にメモをとる。俺が先ほど言っていたことをメモしているようだ。
「さて、次は・・・まぁあまり長く話しているのもあれなので一番重要なことをササッと聞いてしまいましょうか」
そう言ってルロイは改まって俺に向き直る。
「光夜さんは深淵を覗いたことがありますか?」
「・・・!?」
俺は思わず飛びのいて背中の長剣に手をかけた。
嫌な汗が吹き出し呼吸が荒くなる。彼のすべてを見透かしているような様子が俺の警戒度を引き上げる。
「ハハハッ、そんなに警戒しないでください。私はただ貴方の雰囲気を感じただけです。その眼は深淵の眼、その体に深い深い闇を飼っている眼・・・貴方が何を抱えてその闇を飼っているのか分かりませんが、その闇はきっと最高の仮面になってくれると私は思います」
彼は心底楽しそうにそう言った。
「・・・それって、他の人も感じれるんですか?」
俺は昨日のことを思い出しながら言った。
昨日、アザレアとクロノアが言っていた『ここまで黒く、淀んだ魔力は見たことがない』という言葉。あれはどう考えても深淵の力のことだ。
そういえばマスター・ウェニズマも驚いてた・・・というか怯えていた。
もしこれが垂れ流しになっているとしたら敵から警戒されてしまいまともに潜入もできないだろう。暗殺なんてもってのほかだ。
「誰でもってわけじゃないですよ。私みたいに魔力の属性を視覚で感じれる人もいれば、直感的に淀んだ闇のエネルギーを感じれる人もいます。私は前者ですが先ほど言った通り雰囲気という心理的なものも読み取ったので貴方の《それ》が、見破られることはほとんどないと思います」
俺は少しだけ胸をなでおろす。それならばあまり心配はいらなさそうだ。
・・・じゃあなんであの人たちはこれに気づいたんだろう。さっきルロイの言った二つのどちらかなのだろうか。
「とりあえず貴方が何からできていて何を求めているのかはなんとなくわかりました。一応これらをベースに仮面を作りますね」
「え、こんだけでいいんですか?」
俺はその言葉に驚きを隠せず間の抜けた声で聞き返した。
実質質問は二つしかしていない。結構大事っぽく言葉を並べていたからてっきりあと十個ぐらいあるもんだと思っていたから質問の少なさに違和感を覚えた。
「あぁ、本当はもっとお話して光夜さんと仲良くなりたいのですが・・・先ほど言った通りミス・インビジブルを待たせているのでそれはまた今度にしようと思いまして」
なるほど。シャーネがいなかったら俺は長々とこのペストマスクさんの雑談に付き合わされる羽目になっていたのか。
「あはは・・・また機会があれば」
「そうですねぇ、そうします」
そう言ってルロイは立ち上がって棚から小さな瓶と少し派手目な彫刻細工が施されたナイフを持ってきた。
「なんですか?それ」
「これはオーダーメイドの仮面を作る時の最終工程に使うんですが・・・光夜さんには今からこれで指を切って血をこの瓶に入れてもらいます」
「えぇ・・・」
仮面作りと聞いてなんとなく察してはいたがやっぱり黒魔術的なあれだった。しかも割と痛そうなやつ。
俺が困惑と嫌さの入り混じった表情を浮かべているとルロイは半場強引に瓶とナイフを渡してきた。
「そのナイフに貴方の魔力を流し込みながら左手の中指を切ってくださいそこから垂れる血は必要分しか出ないので止まるまで瓶に入れ続けてくださいね」
俺はしばらくナイフを凝視しながら固まる。なんか怖い、すごい痛そう。
この感情が静まらないってことは深淵の言う《目的》の必要事項ではないのだろうが俺としては必要事項であってほしかった。
そんな時俺の中にある魔法が光るように浮かび上がる。
俺はそれをただ音読するように口で紡いだ。
『ダメージコントロール』
スッとしたしびれの後、少しだけ身体が軽くなった感覚がした。
その瞬間、この魔法の特性、効果、副作用などが一気に流れ込んでくる。
そういえばここに来る前に奪った魔法を使った時も似たような感覚があって直感的に魔法の使い方が分かった。
全然気にしてなくて気づいてないままであったが。
俺は準備を完了させて右手に持ったナイフに魔力を込める。
するとナイフの刃は黒に近いような紺色のオーラのようなものに包まれた。
「これでいいんですか?」
「はい。そのままズバッといっちゃってください」
いわれるがままに俺はナイフを左手の中指の先に近づける。その刃を切りやすそうな場所に押しつけ軽く引く。
指からは赤黒く、ドロドロとしたものがナイフのオーラを吸いながら流れ落ちていく。
少し熱い感触はするが全く痛みはなく、指が切れて血が流れているという情報が他人事のように認識される。
しばらくしてそれも止まりナイフからもオーラが出なくなっていた。
「さあもういいですよ、治療しましょうか?」
「いえ、大丈夫です」
俺は指先に魔力を流しながら頭の中で薄い緑のもやもやを引っ張り出すイメージを作った。
『ヒール』
左手は淡い光を放ち、先ほどまであった中指の傷は時間が巻き戻るように修正された。
「・・・なるほど、そういうことですか。あなたがこの教団に来た理由の一つが分かった気がします」
「え?、あ、はい」
おそらく魔法を二つ使ったことを言っているんだろう。ここに来る前のゴロツキも似たようなこと言ってたし。
「それじゃあもう大丈夫ですよ。仮面を作る素材はすべて集まりましたし、後は・・・何か作ってほしいものとかはありますか?」
「どういうことですか?」
「あぁ、私はたまに教団の方達の小道具も作ってるんですよ。もし何か欲しいものがあれば作りますよ?」
俺は少し視線を下に落として考える。
・・・そういえばアクセラレイション・ショットの弾のことを考えてなかった。
「大きめの針的なものをたくさん用意してくれませんか?、用途は・・・投擲みたいな感じなんで杭みたいなものをいっぱい作ってくれれば」
俺の答えを聞いて少し考えるそぶりをした後ルロイは顔をあげる。
「・・・素材は丈夫な方がいいですか?」
「はい」
「わかりました。仮面と一緒に大量生産しておきましょう。ついでと言っては何ですが持ち歩けるように専用ポーチも作りますね」
「あ、ありがとうございます」
予想外のサービスに俺は頭を深く下げる。
「いいですよ。お話の約束もありますし、死なないことがお礼になると思ってください」
そう言ってルロイは「ハハハッ」と声を出して笑った。
俺は彼の言葉を聞いて改めてここが《そういう職場》というのを実感していた。




