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笑う事を禁じられた令嬢は婚約破棄される(連載版)  作者: おかき


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9/9

9話 遠い過去の初恋と新たな初恋

 我が家には一冊の古い絵本がある。


エイザイル帝国のイザベル皇后のお話を本にした物だ。


イザベル皇后のお話は、アイマー王国でも有名である。


婚約者に知らぬ間に魔術をかけられ、虐げられた美しく悲しき令嬢。


アイマー王国で有名なのは、イザベル皇后の生家があった国だから。


そして遠い遠い過去、私が治めていた国なのだから……。



私の目の前で婚約者として紹介された令嬢は、可愛らしい容姿の女性だ。


彼女と視線が合うと、ニッコリ微笑んだ。


彼女の笑顔を見て湧き上がる感情を思い出す。

ようやく彼女と巡り会えたのだと……。



彼女の可愛らしい笑顔に涙が溢れる。

遠い昔の幼き頃に見た可愛らしい笑顔を、ずっと忘れた事はなかった。


彼女は突然涙を流す私に、ハンカチをそっと差し出してくれた。


「申し訳ありません」


私はハンカチを受け取り彼女に謝罪した。

彼女は私の様子を伺いながら小さく首を振った。


「何かありましたか?」


心配そうな眼差しで、そう声をかけてくれた。


「先程懐かしい絵本を見つけ読んでいました。エイザイル帝国のイザベル皇后の絵本を見て、思う事がありましたので……」


私は目の前に座る彼女に、過去の記憶があるのか知りたかった。


「同じ女性として、あのお話を読んで悲しくはあります。この国の者があのような事をしていたかと思うと、残念に思います。ですが、帝国で皇后様が幸せになれて、本当に良かったですわ」



彼女が笑顔でそう答える姿に安堵する。


どれだけ憧れたか……。


どれだけ触れたかったか……。


どれだけ貴女へ愛を伝えたかったか……。



私のこの手で今世は貴女に愛を伝える事が出来る。この手で貴方を幸せに出来るのだ。


過去では苦しい想いを心の奥底に、厳重に封じ込んだ。


今は湧き上がる歓喜の想いで張り裂けそうな胸中を、私は必死に隠し彼女に声をかけた。


「初めまして。貴女の笑顔はとても可愛らしいですね」


そう言うと、頬を赤らめた彼女が恥ずかしそうに微笑む。

その可愛らしい笑みに、私の胸が大きく跳ねた。



過去の彼女ではなく、目の前の彼女をちゃんと愛したい。


私の初恋が今度こそ実るように……。


貴女を大切にしたい……。



「釣書でお互い名前は知っているかと思いますが、フェリクス・シアード。公爵家の次男です。これから婚約者として、よろしくお願いします」


「マリアナ・ニースです。ニース侯爵家の後継となります。シアード令息様には婿入りしていただく事、嬉しく思います。こちらこそ、こ、婚約者としてよろしくお願い致しまにゅっ……」


(噛んだ!可愛いなぁ)


真っ赤になり、恥ずかしそうに噛んだマリアナはたいそう可愛らしかった。

頬を染め俯くマリアナは、私の初恋の彼女とは全く違う。

その時、確かにそう感じた。

穏やかな空気の中、初顔合わせのお茶会は終わった。





「今日の顔合わせは、イザベル様とマリアナ嬢を比べて終わってしまったな……」


フェリクスは私室の窓辺に腰をかけ、一人先程まで顔合わせしていた中庭を眺めていた。


彼女は良く笑ったが美しい笑みではなく、愛らしい笑みだった。

流暢な貴族言葉を使うのではなく、自分の気持ちをきちんと言葉を選び伝えてくれた。

婿入りした際は執務を全て請け負うと伝えたら、一人で頑張るのではなく一緒に頑張りましょう。

そう言っていた。



マリアナの魂は確かにイザベル様だと感じた。容姿も幼い頃のイザベル様に似ている。

イザベル様は可愛らしい容姿から美しい女性に変わった。

マリアナは可愛らしい容姿のまま大人へと成長したのだろうか……。


きっとマリアナ嬢は、イザベル様がアーネス兄上と婚約する前の容姿と性格なのだろう。


イザベル様の事を考えてみるが、マリアナの可愛らしい笑みが脳裏に焼き付き消えなかった。


「私はマリアナ嬢に一目惚れしたのだろうか。イザベル様の生まれ変わりではなく、彼女をちゃんと愛せるのだな」


キースリルとして生きた時、妻になったティリアに好意はあった。好きではあった。

でも、イザベル様への想いまでには至らなかった。


私は何度も転生してはイザベル様の魂を探した。自分の容姿は変わらずキースリルのままだ。

きっと私を見れば気が付いて貰えると、何度も探した。

でも、会うことは無かった……。


今世は探す事を止めた。

会えない虚しさに、転生する意味を見出せなかかった。


だが、イザベル様に会えた。

でも、イザベル様ではない。


「彼女はマリアナ・ニース侯爵令嬢だ」


そう言葉にすると、胸にあった何かがスッと消えるのがわかった。


その何かを考える事はもうしない。


その日から、私はマリアナ嬢を大切にする事だけを考え始めた。



マリアナ嬢は学園の三年生。

卒業している私は、王宮の仕事が早く終われば学園へと迎えに行った。

私が迎えに行けない日はシアード公爵家から馬車を向かわせた。


何故なら、三年生には私とマリアナの婚約に横槍を入れようとするダリア公爵令嬢がいるからだ。

彼女はずっと私に狙いを定めていた事を知っている。

彼女はマリアナを執拗に虐めていた。


マリアナは首席を取るほどの才媛である。学問、流行、芸術、全てにおいて完璧に熟している。

令嬢達の憧れであるマリアナ嬢は、ダリア公爵令嬢の派閥以外からは好かれていた。


学園で良き友に恵まれ、ダリア公爵令嬢の魔の手から度々守ってくれていた。

私はダリア公爵令嬢の派閥の者を買収し、味方に引き入れダリア公爵令嬢がマリアナに何をしようとしたのか記録させ続けた。



「フェリクス、お前ってそんな腹黒な性格だったか?」


王太子殿下の執務室で、フェリクスがマリアナが通う学園の報告書を読んでいると話しかけてきた。


「殿下ほどではありませんが、可愛い婚約者を守るには必要かと」


「そうなんだろうけど。しかし、ダリア嬢は諦めが悪いよなー。冷酷フェリクスがマリアナ嬢を溺愛しているのは周知の事実なのに」


「冷酷ではない。マリアナ嬢以外に興味がないだけだ。マリアナ嬢と出会うまではつまらない人生だったな」


「その整い過ぎた顔で言われると、長年一緒にいた私は傷付くのだが?」


「それは都合が良いではないですか。婚約者様に傷付いた心を慰めてもらえる理由になりますね」


しれっとフェリクスが言い放った瞬間、王太子の執務室からフェリクスが光り輝き消えて行った。


「あちゃー、ダリア嬢はマリアナ嬢にとうとう手を出したか」


殿下の言葉に執務室にいた側近達がざわめき始めた。


「陛下に報告を。直ぐに騎士団を学園に向かわせろ。ウエス公爵家とシアード公爵家とニース侯爵家の当主を王城に招集するように動いてくれ」


王太子殿下の指示で、王城は慌ただしくなった。


光り輝き消えて行ったフェリクスは、学園の教室にいた。


「マリアナっ!」


床に倒れるマリアナに駆け寄り抱きかかえると、頬を腫らし口からは血を流していた。


「これは、ち、違うのです!マリアナが勝手に転んだのですっ」


ダリア公爵令嬢がそう叫ぶも、フェリクスは無視して気を失っているマリアナの容態を確認する。

上着を脱ぎマリアナを横たえ頭の下に上着を置き、傷付けられた頬をそっと撫でた。


「フェリクス様……」


ダリア公爵令嬢がフェリクスに声をかけた。


フェリクスはゆっくりと立ち上がると、ダリア公爵令嬢の前に立った。

その瞬間、パァーンと強く叩きつける音が響くと同時にダリア公爵令嬢が横に飛ばされた。


フェリクスが頬を叩いたのだ。


「お前には何度も近付くな、嫌いだ、婚約はしない。と、散々伝えたはずだが?」


話しかけながら、フェリクスはゆっくりダリア公爵令嬢に近付いた。


「ち、違うっ。誤解……」


「マリアナには悪意ある攻撃を察知した時に、私が転移する魔導具をつけさせている。魔導具は王家の物だから、悪意が無かったとは言わせない」


ダリア公爵令嬢の首元を掴み上げ、フェリクスが手を振り上げた瞬間。


「フェリクス殿、そこまでです。王太子殿下からのご命令です。この場にいる者は全員王城に来ていただきます」


騎士がダリア公爵令嬢をはじめ全員を捕らえた。


フェリクスはマリアナを抱き上げたまま、馬車に乗り込み王城へと向かった。

目を覚まさないマリアナをギュッと抱きしめマリアナの髪に顔を埋めた。

傷付けられた怒りと、守りきれなかった後悔で感情が荒ぶる。


フェリクスはマリアナを抱き上げたまま、謁見の間に入った。


ニース侯爵夫妻は、フェリクスに抱き上げられたマリアナの横顔の怪我を見て、何が起きているかを察した。

侯爵夫妻は怒りを抑えるのに必死だ。


ウエス公爵夫妻は呼ばれた理由がわからずにいる。

フェリクスは両親であるシアード公爵夫妻に視線を向けると、やっておしまい!と、母が扇子を手に打ち付けた。


両親からの許可はおりた。

マリアナをこんな目に合わせたあの女を徹底的に潰す事にした。


陛下が謁見の間に入ると、疲れた王太子殿下も姿を現した。

短時間での調整を見事だと、フェリクスは思った。


「呼ばれた理由が解るか?ウエス公爵よ」


「いえ、検討もつきません」


「そうか。罪人を連れてまいれ」


陛下の言葉に騎士達が拘束されたダリア公爵令嬢を連れてきた。


陛下の目前に放り出された娘を、ウエス公爵が駆け寄り抱き起こした。


「陛下!どういう事ですか!」


ウエス公爵が陛下へ説明を求めた。


「そやつはフェリクスの婚約者であるマリアナ嬢を殴り、傷を負わせたのだ。学園では随分とマリアナ嬢を攻撃していたようだぞ」


陛下が手にした紙の束をウエス公爵へ叩きつけた。

散らばる紙を一枚拾い上げ目を通すと、娘が何時、何処で、何をしたのか。ダリアの悪事の詳細が記されていた。

しかも、詳細が書かれた書面に署名された名前はウエス公爵の一門の家名である。


「これは……」


「知らなかったのか?娘はフェリクスに入れあげ、拒否されようと追いかけ回し、挙句の果てにはフェリクスの婚約者を傷付けた。公爵はこの責任をどうとるつもりだ?」


ウエス公爵が娘に向かってきつく問い詰める。


「私が先にフェリクス様を好きになったのです!あの女が私からフェリクス様を奪ったのです。あの女さえいなければ、フェリクス様の婚約者は私だったのですわっ」


醜く他者を罵る娘の姿に、ウエス公爵は顔面蒼白で呆然としていた。


「何度も言いますが、私は貴女が嫌いです。容姿も、声も、全てが虫唾が走る程に嫌いなのだと。何度言えば、その幼稚な頭は理解するのですか?愛するマリアナを傷付けた事は、絶対に許さないっ!」


フェリクスはマリアナを抱きかかえたまま、ダリア公爵令嬢に言い放った。


「嘘よ!その女に言わされているのよ!婿入りしなければならないフェリクス様は、仕方なくそう言っているのですわっ」


ダリア公爵令嬢の叫びは、謁見の間にいる全ての者を驚かせた。


「本当に救いようのない思考をしている。

お前は誰の婚約者に手を出したのか理解しているのか?私の母は王妹、息子である私は順位こそ低いが王位継承権を有している。王族に準する者の婚約者に手を出したのだ。ウエス公爵家はお取り潰しとなる可能性があるかもしれないと、まだ理解出来ないのか?」


フェリクスが説明すると、ダリア公爵令嬢は黙り込んだ。


「そんな……私は悪くない……」


バシン


重みのある音が響いた。

ウエス公爵がダリア公爵令嬢の頬を叩いた。いや、殴りつけたのだ。


「お前は、なんてことをしでかしたのだ!公爵家が没落すれば、領地の民達に被害が行くのだぞっ!民を傷付け、お前は何をしたいのだっ!」


ウエス公爵は自分の爵位に縋るよりも先に、領民達の身を案じた。

立派な当主から、なぜこのような娘が育つのか。

その理由は、公爵夫人にある。

甘やかし放題の結果がこれだ。


「貴方!ダリアを許してあけてっ」


ダリア公爵令嬢を抱きしめ、夫人が訴えた。


「サリナ、お前とは離縁する。何度も甘やかすなと言ったな?娘は改心したと。私の前では演技をしていたのだと、ようやく理解した。私は爵位を長男に譲り領地にて蟄居する。お前は好きに生きろ」


夫人が縋るが払いのけると、陛下に頭を下げた。


「私は爵位を譲り、社交界に顔を出す事は致しません。妻とは離縁致します。

娘は陛下やシアード公爵家の判断で処罰して頂いて構いません。ただ、領民には罪はありません。領民にだけは被害がない処罰を」


「相分かった」


陛下の言葉に、ウエス公爵は再度頭を下げた。


ウエス公爵はニース侯爵夫妻の前に立つと、深く頭を下げた。


「娘が申し訳ない事を致しました。謝罪で済む話ではないことは承知しております。いかような処罰もお受けします」


ニース侯爵夫妻はウエス公爵に何も言えずにいた。

公爵家を一人切り盛りしていた事は有名だ。

夫人は茶会に夜会にと散財し、家政を取り仕切る事すらなかった事は有名である。

政略結婚ではあったが、ウエス公爵は夫人と娘を何とかしようと過去動いていた事を知っていた。


「情に流され、決断が遅れた私の失態です」


頭を下げ、ウエス公爵は謁見の間を出て行った。


「罪人となるダリアを牢に連れて行け」


陛下の命で暴れるダリアを無理矢理連れて行かれ、夫人は発狂していた。


ニース侯爵夫妻とシアード公爵夫妻は、揃って陛下の前に立つと礼をとった。


「ウエス公爵に罪はないとは言えぬ。だが、彼一人の責任ではない。夫人とダリアの責任が一番重い」


「陛下、ウエス公爵への処罰は望みません。夫人とあの娘が処罰されれば、それで十分です。領民を真っ先に気にかけた事が公爵の罪を帳消しになさいましたから」


侯爵がそう口にした。


「それに、マリアナも公爵まで処罰したら気に病んでしまいますから。それで良いか?フェリクス殿」


やり足りないフェリクスは苦虫を噛み潰したような表情をしている。


「不満だろうが、マリアナ嬢のためだ。やり過ぎると怖がられるか、嫌われるぞ」


フェリクスは王太子殿下の言葉に渋々了承した。


それ以降、フェリクスが暴走しそうになると

「マリアナ嬢に嫌われても良いのか?」

が、魔法の言葉として用いられた。


「魔法の言葉は重宝している」


王太子殿下は満足げに側近達に漏らしていた。



フェリクスは怪我が消えるまで侯爵家に住み込んだ。

ニース侯爵夫妻は笑いながら受け入れてくれていた。


「いずれ婿入りするのだから、早くても良いではないか」


社交界で影響力を持つシアード公爵家が黙認するなら、誰も何も言えない。




「マリアナ、あーん」


手を怪我している訳でも、あれから床に伏している訳でもない。

ただ、フェリクスはマリアナを甘やかしたいだけだった。


マリアナは恥ずかしがりながらも、小さな口を開けフェリクスのされるがままとなっていた。


マリアナが気を失い目覚めた時、フェリクスは大号泣してマリアナから離れなかった。

マリアナが目覚めないのでは?

と、フェリクスは寝ずに看病をしていた。

結局、日々のストレスからかマリアナは二日意識を失っていた。


マリアナは大号泣するフェリクスを見て、心配かけてしまったと反省する。

フェリクスは精神的に不安定になり、マリアナは言われるがまま気持ちが落ち着くまでは。と、フェリクスのする事を受け入れていた。


「フェリクス様?そろそろ王宮に行かなくて良いのですか?私はもう元気になりましたし、自分で食事も出来ますから」


フェリクスにそう告げると、目尻を下げ悲しそうな表情で「嫌だ」と訴える。


言葉ではなく、表情で訴える方がマリアナの心が揺れる事を知っているフェリクスは、捨てられた仔犬の演技をする。


「うっ……負けては駄目っ!」


必死に戦うマリアナをフェリクスは心の中で(可愛いなぁ)と堪能する。


マリアナとフェリクスの攻防戦が始まろうとするが。


部屋の扉が勢い良く開いくと、入って来たのは王太子殿下だった。


「マリアナ嬢。回復おめでとう。フェリクスを連行して良いか?」


「あ!はい!よろしくお願いします」


マリアナの返事に殿下は笑顔で頷き、フェリクスの首根っこを掴むと何かを囁くいた。すると、フェリクスは大人しくなり引きずるように連れて行かれてしまった。


殿下がフェリクスの耳元で魔法の言葉を囁いたが、マリアナには聞こえていない。



学園を卒業し結婚式を挙げ、フェリクスは婿入りする。


フェリクスとの初めての夜は、マリアナは甘やかされベッドの住人となった。


子供を産み、孫も産まれ幾年月が過ぎようとフェリクスはマリアナを深く愛した。





マリアナの眠りが長くなり、ベッドで過ごす事が多くなった。


「フェリクス、私は貴方に出会い愛されて幸せだったわ。初めて会った時は私を誰かと重ねて見ていたけれど、それも直ぐに無くなったから聞かなかった……」


フェリクスはマリアナがイザベル様に重ねていた事に気が付いていたと知り慌て始めた。

マリアナの手を取り指先に口付ける。


「マリアナと私は前世で出会っている。

だが、私の初恋で実る事はなかった。

今世でマリアナに再会した時は嬉しかった。

でもね、マリアナ。マリアナは過去の彼女と同じ魂だけれどマリアナはマリアナだった。

初めて見た貴女の笑顔に私は一目惚れをしたのだ。

それを認めたら、前世の彼女の想いが無くなった。愛してるよ、マリアナ。来世もまた一緒になろう」


マリアナの頬に口づけをし、頬を撫でた。


「私も初めて会ったあの日から、愛しているわ……」


マリアナは眠そうに小さく欠伸をし、ゆっくりと瞼を閉じた。


「マリアナ……イザベル様の幼少の笑顔が私は大好きだった。あの笑顔に恋をした。大人になったイザベル様を慕ってはいたが、私が手にしたかったのは幼い頃のあの笑顔なのだと気が付いた。だからマリアナ。私は貴女に二度初恋をした事になる。同じ笑顔に私は恋したのだよ」


フェリクスはそう語りかけたが、マリアナが目覚める事は無かった。


フェリクスはマリアナの寝顔を椅子に座りながら眺め続けた。


家族が様子を見に来るま日でずっと……。


優しい笑みを浮かべたまま、フェリクスも椅子に座り眠っていた。



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