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笑う事を禁じられた令嬢は婚約破棄される(連載版)  作者: おかき


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8/9

8話 陰で支え続けた者達

翌日の議会は既に全てが結審されており、提出された案はそのまま通された。


・両陛下は退陣し北の離宮にて生涯幽閉となる。


・アーネス殿下とオリビア嬢の婚約は継続となるが伯爵位を与え王族からは籍を抜かれる。


・アーネス殿下とオリビア嬢の子供やその子孫には王位継承権は与えられない。


・イザベル嬢の生家であるギアリー公爵家は子爵まで降格となる。異議申し立てをすれば即刻爵位を剥奪する。


・イザベル嬢を虐げた者にはそれぞれ処罰を通達する。



この五つが貴族に通達されると同時に、民にも通達された。


そして帝国にも事の結末がキースリルによって伝えられた。





「そう⋯⋯」


書面を見たイザベルが一言漏らした。


「イザベル。これで良かったのですか?手酷く処罰も出来ますよ?」


クレメンの言葉にイザベルが首を振る。


「これで良いのです。これ以上の処罰は国が乱れてしまいます。国が乱れ困るのは何も知らない関係の無い民なので。」


イザベルがそう口にする。

イザベルはこの処罰をもって、王国での過去に区切りをつけたのだ。


クレメンとキースリル達がこれからの話をする中、ゆっくり目を閉じたイザベルは帝国に来てからを思い返していた……。





イザベルは皇帝陛下の前で気を失う失態を犯した自分を酷く責め、目覚めたその足で皇居を逃げ出した。


豪華な衣装では街に出れないと、洗濯部屋を探し出し侍女服に着替えた。

宝石を一つだけ手に取り、街の中へと逃げた。


侍女服を来ていた事と貴族令嬢の所作が役に立ち、宝石を換金する事もすんなり出来た。


(どこに行けば生きていけるかしら……)


思いつきで目の前にある商業ギルドに足を運んだ。

イザベルがギルドに入るとその美しさで騒ぎになり始めた。

声をかけようと、イザベルの周囲に人集りが出来たからだ。


イザベルは周囲の圧に押され、一歩後退した。

すると、背中に誰かがあたってしまった。

イザベルは謝罪しようと振り向いたが、背後に立った人物を見て驚き固まってしまった。



いなくなったイザベルをクレメンは大慌てで探した。衣装を着替え街に出て宝石を換金した事を知った。


(私から逃げる気ですね……)


悲しみで感情を制御出来ずにいると、イザベルが商業ギルドにいると報告を受けた。

見つけ出したクレメンはイザベルを抱きしめ、馬車へと乗せた。


商業ギルドではクレメン皇太子が女性を抱きしめ連れ去ったと、大騒ぎになる。

悲しそうに女性を抱きしめたクレメン皇太子が、あの女性に逃げられ追いかけて連れ戻したのだと見ていた者は理解した。

女性の噂のない皇太子殿下を民達も気にかけていた。

幸せな結婚をしていただきたいと。

感情を出さない皇太子が、悲しそうに女性を抱きしめた事にイザベルが皇太子の「唯一」だと語りギルドでの話を広めた。


イザベルの知らぬうちに、民達からは皇太子妃として認められていたのだ。




クレメンは馬車の中で土下座をし、イザベルを国に連れて来た経緯を全て伝えた。


「たった数日しか知らない貴女を愛してしまいました。私の言葉に信用ならないのは解っています。ですが、私を知り私の想いを見て結論を出して貰いたい。暫くで良いのです。私を見て下さいませんか?」


帝国の皇太子に土下座の懇願をされ、断れるはずも無く頷くしかなかったイザベル。

それからのクレメンは、イザベルに愛情を伝え行動し大切に大切に宝物のように扱う毎日を繰り返す。


お茶会でも夜会でも、常にクレメンが隣に立ちイザベルを守った。

クレメンを狙う令嬢もいたが、側近達により速やかに排除された。


街に二人で出た時は大歓声とともに、温かな民達からの祝福を受けた。

まだイザベルはクレメンに返事をしておらず、祝福を受け止める事が出来なかった。

でも、イザベル自身に向けて祝福の言葉をかけてくれる民に応えても良いかもと、笑顔で手を振った。


イザベルの笑顔で民達は動きを止めた。男性達の赤らむ顔に気が付いたクレメンが、イザベルを背後に隠してしまった。


その光景に、更に街は祝福の賑わいが増した。


イザベルは少しずつクレメンとの距離を縮めてはいたが、答えをまだ見つけれずにいた。



誰かに愛され大切にされたかった幼き少女時代の願望を、心の奥底に秘めていたイザベル。

その秘めた思いに、クレメンの真摯な気持ちが届いたのはエイザエル帝国を訪れ半年を過ぎた頃であった。




キースリルと宰相が共にイザベルへの面会に訪れた事を知らされ、イザベルは会うか会わないかを迷っていた。


「イザベル嬢。迷うのならば、会ってみてはどうですか?私が側にいます」


クレメンが側にいてくれるなら。と、対面する事を選んだ。


応接室に入ると、キースリル殿下と宰相が膝を突き頭を下げていた。

頭を上げてもらい、それぞれ席に着いた。


キースリル達が口を開く前に、事の内情を調べ上げていたクレメンが話を始めた。


「貴方がたがイザベル嬢を陰ながら支えていたのを知っています。執務を請け負い、夜会ではイザベル嬢へ手酷く扱う貴族を追いやり、イザベル嬢を支え守っていた事をね⋯⋯」


クレメンの話に、イザベルが信じられないとばかりにキースリル達に視線を向けた。

苦笑いしながら、キースリルが口を開いた。


「イザベル様が驚かれるのも無理はありませんね。私達は表立って助けていた訳ではありませんでしたし。

私達はイザベル様が兄上との婚約が無くなる事を、ただひたすら願っていましたから」


申し訳なさそうな顔で、キースリルはイザベルへ伝えた。

イザベルは会話の内容が全く理解出来ずに小さな口をポカンと開けていた。


クレメンがそんな可愛らしい彼女の口元に指をツンとし、彼女の口を閉じさせた。

イザベルは恥ずかしくなり顔を赤くする。


キースリルも宰相も、こんなに表情豊かなイザベルを見るのは幼き頃に見て以来だった。


「私達はイザベル様がどれだけ兄上や国に尽くしてくれていたかを知っています。そんなイザベル様を邪険に扱う兄上や両陛下では、国に未来は無いと密かに有志を募っていたのです。

殆どの大臣や、高位貴族の一部は賛同してくれました。

イザベル様はずっと辛い立場に身を置く事になってしまいましたが、あの婚約破棄の後は幾つもの貴族からイザベル様を養女に迎えたいと話があったのです」




キースリルの話を聞く限り、私は一人ぼっちではなかったと⋯⋯。

あの冷たく辛い王宮で見守っていてくれたと⋯⋯。

イザベルは感情の制御が出来ずに、とうとう涙を零した。


「イザベル嬢。真実を知るのが遅過ぎたかもしれませんが、貴女はちゃんと愛されていましたよ?その事を知る事により、貴女の未来はきっと変わりますよ?」


背中を擦りながら、クレメンがイザベルに声をかけた。


「はい。キースリル様や皆さまに大切にされていた事を知り、私の悲しみが薄れるのが解ります」


泣き顔で少しだけ嬉しそうに語るイザベルは、まさしく天使であった。

いや、女神だろうか⋯⋯。

それ程に美しい微笑みを浮かべていたのだ。


クレメンは我慢ならず、イザベルをきつく抱きしめた。


「貴女への愛を理解してくれる日が来る事を、ずっと祈り続けますよ。」


イザベルの耳元で囁く声色は甘く優しく、イザベルの心にストンと落ちてきた。


「クレメン様。私は貴方様を好きなようですわ」


ふと囁いたイザベルの言葉を聞いたクレメンだが、目を見開いたまま固まってしまう。


「クレメン様?」


イザベルがクレメンの様子を窺うように顔を覗き込むと、クレメンの瞳は涙が溢れそうになっていた。


慌てるイザベルを再び抱き込む。


「イザベル嬢。愛しています」


そう囁くと、暫く二人は抱きしめあっていた。


「コホン」


とても小さな咳払いをした宰相だが、話が終わらければ退室出来ないのだ。

二人の邪魔をしたくはなかったが、邪魔をする以外に手立てがなかったのも仕方ない事だった。


「申し訳ない。それで、肝心な話とは?」


クレメンはイザベルを腕から離し、キースリル達に向き直った。


「我が国はこのままでは衰退するしか道がない。私利私欲を優先する両陛下やその側近達を排除しなければ、民が被害を被る。

両陛下は執務を熟さず、陛下は女遊びに明け暮れ王妃は散財ばかり。これを繰り返していけば、国庫も尽きてしまう。兄上もあんなんだし⋯⋯」



キースリルは「はぁー」

と、大きなため息を吐いた。



「キースリル殿は、王太子になるつもりがあるか?」


クレメンが少し考えた後、キースリルに問いかけた。


「両陛下や兄上に任せるくらいなら、私がなる覚悟でいます。

イザベル嬢の執務で仕上げた書類は、全て頭に叩き込んでありますし?」


キースリルが少しだけ、自慢気に答えた。




「そうか⋯⋯。キースリル殿が王太子となり、後に国を担うのならば帝国としては悪くない」


クレメンは顎に手をやり、何やら思案している。


「因みにだが、キースリル殿に婚約者はいるのか?」


クレメンの突然の質問に驚きはしたが、キースリルが首を振る。


「王妃のおかげで、婚約者はいませんよ」


キースリルが苦い顔をしながら答えた。


「側室への嫌がらせか⋯⋯」


キースリルは苦笑いするだけで、返事はしない。


「帝国の血筋から婚約者を見繕うが、良いか?

私との繋がりを上手く使い帝国との繋がりを盾に、立派な王太子になってみせよ」


クレメンがキースリルにそう伝えた。

キースリルは立ち上がり、深く礼をとる。


「クレメン皇太子殿下のお言葉を胸に刻み、我が国を立て直してみせます」


キースリルと宰相がクレメンに深く礼をし、イザベルへと視線をやる。


「イザベル嬢。幼い頃の私は貴女様に好意を持っていました。笑わなくなろうとも、イザベル嬢の芯の強さは眩く美しく輝いていました。そんな貴女様を支えたい。そう思っていました。

ですが、クレメン皇太子殿下を超える愛情を私は持ち合わせていなかったようです。幼い私は、貴女に憧れていたのでしょうね」


キースリルはイザベルにそう伝えると、ニッコリ微笑み宰相を連れて退室して行った。

残されたイザベルは、居た堪れずにいた。

クレメンから発せられる不機嫌さを、全身に受けていたからだ。


(あら?私が悪いのかしら?)


イザベルは腑に落ちないが、黙ってクレメンの機嫌が戻るのを待つしかなかった。

機嫌を自力で何とか戻したクレメンだが。行き場のない嫉妬をどうして良いか解らず、イザベルを構い倒すことで発散したのだった。


イザベルへの想いがようやく通じたクレメンと、愛される事を受け入れたイザベルは帝国で婚約をし仲睦まじく過ごした。


時折キースリルが宮を訪れ、王国の動きをクレメンに相談していた。


クレメンと対面する中で、クレメンの妹である第一皇女ティリアがキースリルに惚れ込み、押せ押せで婚約まで持って行ったのだ。

キースリルの婚約は宰相と大臣には知らされたが、機密扱いとなった。


アーネスとオリビアとの婚約披露の夜会まで、クレメンとイザベル、キースリルとティリアはお互いの気持ちをきちんと確かめあったのだった……。




イザベルは今日までの出来事を思い出し、これからは帝国と王国の為に尽くして行く決心をする。


大波乱の夜会から両陛下達の処罰が民に公表され、少しの混乱があった。


キースリルの立太子と、帝国の第一皇女ティリアとの婚約が公表されると民達は落ち着きを取り戻して行った。

目出度い事だと、国をあげてのお祭り騒ぎとなった。



陛下の位の空位。

と、前代未聞の事になるが、帝国の後ろ盾もあり暫くの間キースリルは王太子のまま執務を執り行なう事になった。


キースリルが陛下として民の前に立つのは二年後。

ティリア皇女との結婚式の日と決定された。




クレメンとイザベルとの結婚式はキースリルとティリアも揃って参列してくれた。


よく晴れた春の日の二人の結婚式は、多くの国民に祝福された。

民達への顔見せの馬車の移動では、クレメンのイザベルへの愛情深さが終始見られ、民達からのからかいの声が飛び交った。


クレメンの幸せな笑顔を見るのは珍しいと、貴族達もこぞって顔見せに参列していた程だった。


イザベルはクレメンとの婚約の前に、皇后の生家である公爵家の養女となっていた。


クレメンが最初に伝えた通り、イザベルを気に入った大勢の貴族が養女にしたいとの申し出をする。皇帝も皇后も喜ばしい申し出だが、頭を悩ませる事になった。


クレメンとイザベルの仲睦まじさは王国にも伝わり、キースリルを始めイザベルを支えていた者達の心を癒して行った。


冷遇されても公爵令嬢として、王太子の婚約者として公務と執務を必死に熟し、凛と前を向く美しく悲しき少女。


イザベルを陰ながら支え続けた者達の心に住み着いていたその少女が、やっと幸せになったのだ。

嬉しいに決まっている。






イザベルを支えていた宰相や大臣達は、結婚式の参列から帰国したキースリルを直ぐ様捕まえた。

酒宴のつまみとして、イザベルの幸せな様子を強請りキースリルに結婚式の様子を語って貰う。


王宮でのイザベルを思い出した大臣の数人は涙を流しながら聞いていた。


(イザベル様。貴女は沢山の方に愛されていました。私達がもっと上手く立ち回れたら、貴女の幸せは王国にもあったかもしれない……)


キースリルは後悔をするも、両陛下を相手にするには力がなさ過ぎたのだ。


「イザベル様のような悲しき令嬢を二度と出したくはない。私が出来る限りではあるが、民が幸せである国にしたい。皆もそのつもりでいてくれ」



キースリルの決意に、宰相や大臣達は賛同してくれた。

帝国の後ろ盾もあり、国を繁栄させたキースリルも歴史に名を残す事になる。


帝国も同様にクレメン皇帝陛下の治世は、長い歴史の中で一番の繁栄を極めた。

いつも隣に寄り添う美しい笑みの皇后を深く愛し、共に長い治世を治めたのである。



笑わない令嬢。



そう言われ虐げられた令嬢は、笑顔を取り戻し皇后として愛するクレメン皇帝陛下を支え続けた。



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