第一話:お隣の同級生が僕の読者だった件
◇マンションの一室にて◇
ファンタジー世界の中。
自分が足手まといになると卑屈になって去ろうとするヒロインに対し、主人公が放つ熱い一言がコレだ。
『悲劇の主人公ぶって、ひとりで綺麗な完結を迎えるな。君が手放した痛みの片割れは、俺が背負う』――そう言って、彼は彼女の手を強く握った。
「……よーし。このセリフと地の文は熱いだろ……!」
PCからネットで小説を書き上げる僕、高校1年生・高槻。
又の名を『ドラセナ』。ネットのペンネームだ。
取り敢えず2時間掛けて、書き上げた3000文字を推敲した後。
カクヨムでは予定投稿を、今日は20時8分にセットして……。
なろうでは……。今は20時ぴったりだからちょっとずらして……。
…………。20時1分になったな。投稿!
よし。少しでもPVを稼ぐための工夫は終わった。
後はプロットの整理を軽くやって、学生の本分である勉強に励んだあと、眠ろう。
◇次の日の朝。登校準備。◇
僕はいつも絶対に8時前には家を出るようにしている。
何故ならお隣の部屋に住む、クラスメイト・白雪さんと鉢合わせてしまう可能性があるからだ。
顔は整っているけれど、雰囲気は怖い。
そんな彼女と、登校までの道のりが一緒になったって仲良くなれるわけがない。
さあ。取り敢えず準備をして、学校に行こう。
◇1時限目の終わり◇
僕の席は最後列の窓際。白雪さんは、その隣。
チラと横目で彼女を見る。
……クラスの一軍の素質はあるのに、ひたすら黙々とスマホを弄る彼女。
何を見ているのかは知らない。
だって話したこともないし。
何者も寄せ付けないって感じだし。
なんだろうな?
彼氏とメッセージとか? 意外となろうとか読んでたりする?
……いやいやいやいや。そんなわけないか。
白雪さんがカクヨムとか、なろうとか知ってる訳がない。
いやどっちにも失礼な発言だけど。でも、彼女は本当に住む世界が違いそうだ。
ちょこんと、可愛らしく席に座る彼女。
背は普通だけど、頭身のバランスがモデルみたい。
彼女はハーフらしく、遺伝的に髪が金色に染まっている故、校則を合法的にくぐり抜けている。
瞳の色は碧の色。カラコンいらずの天然物。
そんな超絶クール系美人なんて、インスタグラムとかをやってるイメージしか沸かない……。
でもよくよく考えたら、女の子が読むような、悪役令嬢ものとかあるし、そっち系の可能性はあるよな。
スローライフ物もありうる。……いやどうだろう……。分からない……。
なんかそんな事考えてたら、僕は僕でなろうのアクセスのほうが気になってきた。
スマホをポッケから取り出して、確認。
最新話のPV数は……。1か……。はあ……。1日で1……。しかも10時台。今さっきやっと付いたんだな。
1は1でもコメント付き。この人は……。いつも見てくれている人『Wa』さんだね。
『最新話見ました! ヤハリ渾身のセリフは熱量が凄まじいですね……。ここってお気に入りのセリフだったりしますか?』
うん。正解。凄いな! そこまで僕の作品のパターンが脳に刻み込まれてるなんて……。申し訳ないよ……。逆に。
とか言いつつ内心とても嬉しいので、早速返信返信。……。これでよし。
平日の10時台かー。平日休みの美容師さんとか、シフト制の看護師さんとか見てくれているのかもな。求職中の方だってあり得る。ありがたい。
ブクマを見ると、1が付いてる。これはWaさんがつけてくれていた奴だな。
そんな大事な1だから、僕は楽しく作品を書き続けることができる。
…………お。Waさんも更新してる。
彼(彼女?)は、元々は純文学を書いていたが、今ではボーイミーツガール要素のあるハイ・ファンタジーを中心に活動中。
ほんっっっとうにたまたま僕が、Waさんの作品を読んでいた頃から、彼も僕の作品を読んでいたらしく、その時に僕が連載していた作品に初めてコメントしてくれた。
唯一の読者さんがWaさんだ。
(元々純文学を書いていたからか、文章力がファンタジー系なのに図抜けてるんだよなー)
特に好きな一文がこちら。
主人公とヒロインが二人きり、雪原世界にて。
『彼女が端と吐く、白い吐息は約束を運ぶ。風下に流れていく約束が天を伝い、呼吸する僕の一部になる』
……イイ!
唐突にトラックに轢かれた時のように挟まれる、読んで出くわす卓越した地の文が特に好き。その後二人がキスをする描写も最高です。
端的に言って、僕は彼のファンだ。更新が楽しみで仕方がない。
そんな彼からの提案で今週の日曜日に、お会いする事になった。
隣駅『◯△☓』の「カフェカフェ」って名前のカフェで。変な名前。
その時の、お誘いの文言はこちら。
『もしよかったら、会ってみませんか? ドラセナ先生の創作論とか……。お互いにお話してみたいです……』
とのこと。秒で返事。行きます。そりゃそうでしょ。
しかも同じ都道府県に住んでいる事が判明。
待ち合わせ場所も都合よく、超近い。
欲しかったんだよ……。創作仲間……。一人で書くのもいいけど、やっぱり直接会って、お互い励まし合ったり褒め合ったりしたいじゃん。
楽しみだ……。怖い人じゃなければ良いんだけど。
◇日曜日。朝九時◇
玄関のドアを開ける。さあ、Waさんに会いに行くぞー。
出ると隣の扉も開く。……白雪さんですね。これは。無視するわけにも行かないよな……。
「こ、こんにちわー。お、お出かけですか?」
「はい。そうですけどなにか?」
『そうですけどなにか?』 だって。まあ仲良くない奴にはこんな対応にもなるよね。
エレベーター内、ご一緒する。行き先は勿論同じ1階。密室は気まずさを凝縮させるな……。はあ……。
端と彼女を見る。彼女は瞬時にスマホをポケットから取り出し、凝視。
気合が入った格好をしているな。彼氏にでも会いに行くのだろうか。
夏ファッション。
タンクトップにカーゴパンツを合わせたヘルシーな肌見せスタイル……。
スタイルが凄まじく良すぎる……。本当に同じ人間か? これ。
……僕にジロジロ見られてる事なんてお構い無しに、ずーっとスマホ見てる……。お気に入りのユーチューバーでも見ているのだろうか……?
イヤホンなしで? 無音で?
エレベーターを降りる。ここで別れるだろ。
と思いきや同じ方向。あれれ?
「……。もしや〇〇駅まで行く予定ですか?」
「あ、はい。そうですけど」
とのこと。なら、駅についた後の乗り場で別れるはず。
……。白雪さん……。
歩きスマホをしないのは良いんだけど、スマホをポッケに入れた途端めっちゃソワソワしているな。
なんだ? スマホ依存症か?
数分歩く。すると駅。さあ。僕は僕の目的を果たすぞー。
◇◇◇
「……電車って揺れますよね……」
「……まあ。確かに揺れますよね……。だって電車ですし」
………………。
——まさか乗る電車まで一緒だったとは……!——
何でだよ。彼女の行く方向も僕の行く方向と一緒だなんて誰が想像できるのか。あれ……。待てよ……。もしや……!?
「あ、あのー」
「……なんでしょう……?」
「も、もしや◯△☓で降りる予定ですか……?」
「…………そうですけど何か……?」
「……何でもありません……」
そう言ってすぐ彼女は、僕を死ぬほど冷徹な目で見たあと、自身のスマホに目を向ける。ごめんなさい邪魔をして……。
だってさ……! 中途半端に知り合ってるって一番気まずいんだもん! そりゃ話しかけるよ!
僕は一人でオタオタする。でも隣り合わせになった以上、逆に離れるってどうなんだ?
僕のことなんて気にせず、彼女は凄まじい体幹で吊り革も持たずにスマホを弄り続ける。こりゃ常習犯だな。
……。気まずいし、プロットでも考えるか。目的地につくまで。
◇到着駅◇
『〇△☓駅でーす。お降りの際は……』
電車を降りる。彼女も降りる。
階段を上る。勿論彼女も上る。
改札を出る。僕は右に行く。彼女も右に行く。
『カフェカフェ』の前に立つ。彼女も隣に立つ。
——…………なんで…………?!——
「……白雪さんも、このカフェに用があるのでしょうか……?」
「はい。偶然にも。そういうことになるのでしょうね」
「……なるほど……」
……絶対零度の圧を感じる……。
違います! 僕はストーカーじゃないんです……。信じてください……。
これはまずい。このままだと若くしてストーカー規制法違反で逮捕される。無実である証拠を今のうちに集めたほうが良いのだろうか。
はあ……。
早く来てくれないかな……。Waさん……。
……催促するか。普通に待ち合わせ時間過ぎてるし。
『Waさーん。早く着てください……。このままだとストーカー規制法違反で逮捕されちゃいます……』
隣の彼女がクスリと笑う声が聞こえる。なんですか? そんなに変な顔でもしてましたか? あたい。
と思ったが、スマホ見てる。……。笑ったりするんだな。白雪さん。
返信が来る。
『大丈夫ですよー(笑)私、もう到着してますし。』
ああ、そうなの。
『中にいるんですか? どの席のどの服装の方がWaさんでしょうか?』
『いいえ。私は外で待っています。早くしてくださいよー』
外……? ……。 外?
『……もしやタンクトップを着ていますか?』
『はい。なら私って分かってるんじゃないですか(笑)』
『カーゴパンツ? 青っぽい?』
『……慎重すぎません? もう、早くー。私、楽しみにしてるんですから』
なるほど。そういう事か……。
『……驚かないでください……』
『……急にどうしたんですか……?』
返信を確認したあと、僕は意を決して彼女に話しかけた。
「……おまたせしました。」
「……え? ど、どういうことですか?」
いや本当に申し訳ない。こんなしょうもない男が、あなたの大好きな作品の作者だなんて……。
まあ幻滅されたならしょうがない。ここで正体を明かして、去ろう。
「Waさん。僕です。僕こそが作者のドラセナです」
「……そ、そうだったんですか!?」
「はい。そうなんです。そして申し訳ない」
取り敢えず、激しく清々しい気持ちのまま去ろうとする僕。ありがとう。白雪さん。一時でも、僕のファンでいてくれて。
後ろを振り返り、駅への一歩を踏み出した瞬間、後ろから僕の袖へと引っ張る力が伝わる。
「……白雪さん?」
「ああああわあの! 先生!」
「え? なんぞ? 先生?」
死ぬほど動揺した様子の彼女。しかも敬語だし。頬なんて綺麗に赤く染まってる。口を噤み、次の言葉を探している最中。
「……先生……?」
「……何? 白雪さん?」
「『悲劇の主人公ぶって、ひとりで綺麗な完結を迎えるな。君が手放した痛みの片割れは、俺が背負う』」
え……? それ僕が先日書いたばっかりのセリフ……。一言一句間違ってない……。
さらに続ける白雪さん。
「『――そう言って、彼は彼女の手を強く握った』……今回は、私が先生の片割れを無理やり引き留めていますが……。」
彼女の力は頼りない。振りほどくのは容易だけど、それだと彼女の決死の勇気を無下にしてしまうような気がして。
——それに……。本当はWaさんが君だと知って嬉しかった……——
「し、白雪さん。」
「……はい。なんでしょうか。先生」
「『彼女が端と吐く、白い吐息が約束を運ぶ。風下に流れていく約束が天を伝い、呼吸する僕の一部になる』」
「……それ……! 私のお気に入りのフレーズ……!」
「……ちょっとやり返したくなっちゃった……」
これが、僕たちの関係が、ただのクラスメイトじゃなくなった日。
お互いがお互いの作品を愛しているファンであると、証明された日。
「先生……。行きましょう……」
「……うん!」
書き手の人、読み手の人たちのことが知りたくて書き始めました。
書き手の方はどんなツールを使っているのかとか。環境はスマホか、パソコンかとか。こだわりとか
読み手の方は何を基準に、ネット小説を選んでいるのかとか。流行りのことをどう思っているのかなとか。面白かったと思ったネット小説はなんなのかとか。
それを彼ら二人の物語を通して知っていけたら嬉しいです。
慣れない手前ですが、よろしくお願いします。




