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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第41話:新入り研修生と、お母さんの生活指導

 ドォォォォォン!!

 早朝の静寂を切り裂いたのは、落雷でも爆発音でもなかった。それは、拠点の建物全体が悲鳴を上げるような、凄まじい地響きを伴う衝撃音だった。


「……な、何!? 敵襲!? それとも棚卸し中に積載荷重を超えたの!?」


 セナは寝巻きのままベッドから飛び起き、愛用の事務用眼鏡をひったくるようにして居間へと駆け込んだ。

 そこで目にしたのは、無残にも中央からバキリと踏み抜かれたリビングの床板と、その穴に短い足を突っ込んで「きゅう?」と首を傾げている岩石のような塊――昨日加わったばかりの新しい家族、ベヒモスの幼体グーだった。


「ママ、おはよ……。……グー、嬉しくて、ちょっと跳ねちゃったみたい」


 横でパジャマ姿のレイが、申し訳なさそうに頭を掻いている。ハルも隣で「……ママ、床、おせんべいみたいに割れた」と、眠そうな目をこすりながら報告してきた。


「……おはよう、レイくん、ハルくん。……そして、おはよう、グーくん。……事務的に言わせてもらえば、これは『修繕積立金』を一瞬で吹き飛ばすレベルの重大な不備エラーよ……」


 セナは、陥没した床板の下から覗く土台の木材を見て、こめかみを押さえた。

 ベヒモスの幼体。見た目は子熊のように愛くるしいが、その実態は歩く超高密度質量だ。一歩歩けば床が軋み、跳ねれば家が揺れる。このままでは、聖域の拠点が「物理的に」崩壊してしまうのは時間の問題だった。


「よし。……緊急案件よ。……これより、グーくんの『生活指導』および『拠点耐震補強工事』を開始します!」


 セナは、朝食を素早く済ませると、即座に設計図を引き始めた。

 事務職としての彼女の脳内では、既に修繕費の算出と、グーの「歩行ログ」の解析が始まっている。


「メルディさん、ロレッタさん、至急助力を! ……メルディさんは床板の強化魔法陣の設計を。ロレッタさんは、グーくんが家中を歩き回らないように、広場に特製の『神話級対応・ドッグラン』の設営をお願い!」


「了解しました、セナ殿。……荷重を魔力で分散させる『浮力回路』を組み込みましょう」

「はわわ~、了解ですぅ! グーくん、お外でいっぱい遊びましょうねぇ~!」


 聖域は再び、嵐のような活気に包まれた。

 セナは、ドランから仕入れていた頑丈な石材を敷き詰め、グーの足首に「重力を微調整する魔導具」を装着させる案を練り上げる。


 一方で、レイは新調された杖「レガリア・セナ」を手に、広場でグーと向き合っていた。

 お母さんが環境を整えるなら、自分はテイマーとして、相棒の「力」を制御しなければならない。


「……いくよ、グー。……僕の杖の光を見て。……ゆっくり、羽みたいに軽く足を下ろして。……一、二、……そぉっとだよ」


 レイが杖を振り、グーの足元に浮遊の魔力を供給する。

 グーは一生懸命にレイの指示を聞こうと、太い足をプルプルと震わせながら、地面に触れる瞬間の衝撃を殺そうと努力していた。

 ハルも隣で「……グー、……お空に浮く感じ。……ふわふわ、だよ」と、龍の身のこなしを助言する。


 だが、ベヒモスの本能は「大地を踏みしめる」ことにある。

 グーが少しでも集中を切らせば、再びズシン!と大地が揺れる。レイは泥だらけになりながら、何度も何度も魔力を通わせ、相棒の「重み」を自分の一部として受け入れようと奮闘していた。


 セナは、その特訓の様子を窓から見守りながら、王都のバルトからの緊急連絡用魔導具が明滅しているのに気づいた。


「……バルトさん? ……ええ、こちらセナよ。今、新入りの生活指導で忙しいのだけれど……」


『……セナ殿、悠長なことを言っている場合ではありません。……例の北の冷気装置(楔)の失敗を受け、第一王子派の残党が、なりふり構わぬ手段に出たようです』


 バルトの声には、かつてないほどの緊迫感が混じっていた。


『……彼らは禁忌の魔導書を使い、複数の強力な魔獣を合成した「人造魔獣」を完成させたとの情報があります。……その名も「キメラ・イーター」。魔力を吸収し、あらゆる属性を無効化する殺戮兵器です。……既に、数頭がそちらの聖域に向けて放たれた可能性があります』


「……人造魔獣。……在庫の使い回しどころか、生命倫理まで無視した『不良品』を送りつけてくるわけね」


 セナの瞳から、穏やかな母親の光が消え、氷のような管理者の色彩が宿った。

 事務職にとって、契約を無視し、一方的に不備を押し付けてくる相手は、断固として「除却デリート」すべき対象だ。


「バルトさん、情報提供に感謝するわ。……損害賠償の請求書に、今回の『精神的苦痛代』もしっかり上乗せしておくわね。……あぁ、それと。……殿下によろしく伝えて。……宿題(王都の行政改革)が終わるまで、ジャムパンの予約は一切受け付けないって」


 通信を切り、セナは外で特訓に励むレイとハルを見つめた。

 グーは、レイの必死の導きに応えようと、ようやく一歩を「トスン」という程度の軽い音で踏み出すことに成功していた。


(……レイくん。ハルくん。……あなたたちの特訓、少しスピードを上げさせてもらうわよ。……お母さんの管理するこの楽園に、ゴミを投げ込もうとする不届き者を、一掃しなきゃいけないからね)


 セナは、管理日誌の最新ページに、かつてないほど詳細な「戦術防衛ライン」を書き込み始めた。


『第四十一案件:新入りグーの生活指導、および防衛体制のアップデート。

 特記事項:グーの重量制御訓練、初歩段階をクリア。……拠点の床板、三枚破損。修繕費は来月の交易利益から補填。

 ……王都の残党が、人造魔獣という名の『欠陥品』を発送した模様。

 ……受取拒否はできない。ならば、粉々に砕いて返品(送り返)してやるまでよ。

 ……明日は、レイくんとグーの『連携攻撃』のテストランを行う。

 ……在庫:勇気、満タン。……覚悟、完了。』


 夕焼けが、修復を終えた拠点の窓を赤く染める。

 レイの杖、ハルの火、そしてグーがもたらす大地の揺らぎ。

 三つの力が、セナの完璧な事務管理の下で、最強の「防衛システム」として噛み合い始めていた。


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