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第25話 烈風の会議

アルテミス一行が町を目指して移動している頃――、

とある寂れた町の、とある酒場にて、敵対勢力の会議がなされようとしていた。

第25話 烈風の会議



*** ??? ***


 アルテミス一行が魔王城を後にし、それから数日が経過したとある日のこと――。

 ブルーメルという小さな町の、小さな商店が密集して立ち並ぶ大通りを抜け、その先にポツンと一軒だけ取り残されたような寂れた酒場での出来事である――。




 円卓を囲んで六席の椅子が並べられたテーブルが八つ程ある店内に、男女含めて二十名程の人数が疎らに腰掛け、各々に酒や談笑を楽しんでいた。


「――グッ、――グッ、プハァー!今日の酒は一段とまずいな。こんな酒でも金をとるとか信じられるか?」

「ろくにうまいもんを知らないくせに、まずいとかわかるのかよ。マスター!俺にも酒と何かあてをくれ。」


 文句と皮肉をぶつけ合う、体格の良い大男二人のテーブル。


「俺は降りる。」

「クソッ!俺も降りだ。」

「俺は勝負するぜ。」

「お前が勝負なら俺も勝負だ!」


 トランプのような一から九までの数字が書かれたカードを使った、賭博カードゲームを楽しむ六人のテーブル。


 「ちょっと聞いてよ!この前あたしに仕事を依頼してきた馬鹿な男がさ、報酬値切ろうとしてきたんだよね。」

「いるいる!女だからって甘く見てるやつ。」

「私も経験あるわ。大事なもの切り落とす手前まで詰め倒して、報酬二倍にしてやったけどね。」

「なにそれ、まじうける!」


 仕事での面白いエピソードを話し合う、女性四人のテーブル等、少ないながらも各々に盛り上がりを見せていた。

 そんなガヤガヤと賑わう店内をかき分け、酒を運ぶウェイターの女性はテキパキとした身のこなしで目的のテーブルへと酒を運び届ける。

 マスターらしき男性は、様々な客の注文に対応しつつも店内全体の様子を観察していた。


 そんないつも通りの酒場の風景に、バタンッと突如として響き渡るドアの音――。

 そして、酒場にいる全員に対して掛けられる気の良い挨拶の声が、一瞬にして注目を集めることになる。


「よう、野郎ども!パーティーの招待状だ!」


 急に店に入ってきた――、濃紺のような深みのある青の髪色に、釣り目で獲物を狙う肉食獣のような鋭い瞳とその下の切り傷が特徴的な、如何にも盗賊のリーダーを思わせる風格の男――。

 その彼の一言で――、その場にいた皆が更に活気立ち、喜びを最大限に表すかのように歓声を上げた。


「その知らせを待ってたぜ!」

「オーケーリーダー!俺はいつでもいけるぜ。」

「ターゲットはイケメンかしら?私が獲ったら好きにしていいよね?」

「相手が女なら俺が頂いていくぜ。」


 酒が回っている所為か、各々に最高潮の歓声で盛り上がり、好き勝手に言う始末である。

 そんな馬鹿騒ぎをするテーブルの合間を、入ってきた男はすり抜けるように進み、騒がしい中で唯一と言っていいだろう、静かな三人が腰かける一番奥のテーブルまで進み、空いている席に腰を下ろした。


「それでリーダー、今回のターゲットはどんな奴なんだ。」


 リーダーと呼ばれた、如何にも悪党のボスを彷彿させるこの男、名をアブルード・グレイセルと言う。

 魔王グループとは異なり、誘拐や暗殺など悪逆非道も辞さない傭兵業を生業とするグループ、烈風の剣のリーダーだ。


「焦るなよフレディ。とりあえず大物であることだけは保障してやる。」


 血気盛んなのであろう、今からでもすぐに事を起こそうと言わんばかりの勢いで、フレディと呼ばれた黒髪の青年はアブルードの返答に期待を向けていた。

 しかし、返ってきた答えは期待していたものではなく、フレディはつまらなそうに口をすぼめる。


「そう拗ねるなよ。アブルードが勿体ぶると言う事は、それ相応の相手だと言う事だろう。仕事のし甲斐があるってもんじゃないか。」


 アブルードの向かいに座る長い茶髪の大男、アズンはフレディの態度を見て、咄嗟に助言を加えた。

 だが、その助言も的を射てはおらず、アブルードは言葉に詰まりながら説明を続ける。


「それ相応……、というか規格外かもしれない。それくらいやばい奴の素性と能力を探るのが今回の依頼だ。」

「マジかよ……。」

「相応ではなく不相応と言う事か。」


 アブルードから告げられた内容に、フレディとアズンは各々に言葉を零した。

 膨れ上がっていた期待は一体どこに消えたのかと思わせる様に霧散し、代わりに不安の気持ちが芽生える。

 達成困難な依頼ではなく、これは既に不可能な問題だ。

 パーティーを告げられ、馬鹿騒ぎに拍車のかかった周囲のテーブルとは真逆に、一番奥のこのテーブルにだけ沈黙が訪れる。

 そんなやり取りを静かに見守っていた、アブルードから見て右隣の金髪の男、スレイが、息が詰まるような空気を断ち切る様に、言葉を発した。


「あくまでも探りが今回の依頼なのだろ?狩るのは難しくても、仕向けて力を見るだけなら楽な仕事じゃないか。」


 スレイの言うように、規格外の力に打ち勝つのではなく、その力量の測定が今回の依頼である。

 つまりは、勝つ必要性がなく、相手の力を見定めるだけでいいという条件なのだ。

 そのことに気付いたフレディとアズンは、なるほどと頷いて見せ、スレイに向けていた視線をアブルードへと戻す。


「まぁ、確かにそうなんだが……、誰が手合いをするのか――、その一番厄介な仕事を誰が受け持つのかが重要なんだ。」


 二人の視線に応えるように、アブルードは今回の依頼の肝となる部分、測定の為の戦闘相手の決定――、言い換えるなら生贄とでも言おう、その人選についての躊躇いを言葉にした。

 規格外の相手と対峙すると言う事は、犠牲が出ることを覚悟しなければならない。

 その任命を行うと言う事は、当人に死んでくれとお願いするようなものである。


「これまでも危険な狩はやってきたが、今回の指揮官選任は正直行いたくない。お前達は俺の大事な仕事仲間であり友人だ。指揮官なしで成功する見込みは立たないが……。そうだな、今回の報酬は返納して、断りの連絡を入れるようにするよ。」


 旧知の友人を、危険な場所に送り込むことなどできないと、アブルードは吹っ切れた様に自己解決し、顔の前で掌を合わせて謝罪の意を示した。

 リーダーであるアブルードがここまでするのは珍しい。

 その様子を見ていた三人の内、右隣のスレイはタイミングを見計らったように再び言葉を発した。


「おいおい、冗談はそれくらいでいいだろ。俺達はあんたの剣そのものだぜ。規格外であろうが何であろうが、勝てないと決まったわけじゃない。」


 先程と同じように、重くなった空気を払いのけるような希望を含めた言葉に、フレディとアズンも触発される。


「そうだぜリーダー。俺達なら、案外さっくりと勝ってしまうかもしれないぜ。」

「俺も同じ意見だ。烈風の剣の三剣士と謳われる俺達に任せてくれ。」


 フレディとアズンはその勢いのまま立ち上がり、意気込みを現すかのように拳と拳を重ね合った。

 それは、やってやるという意志を示すかのように、固く、熱く、そして強く重なり合う。


「勇敢な親友を持って俺は幸せだよ。フレディを指揮官に任命し、アズンは副官として補佐を頼む。スレイには、更に後方からのサポートを任せる。」


 それを見届けたアブルードは、その勢い――、その流れを止めないよう、即座に指揮官と副官を任命した。

 それは、重大な任を任されたという誇りと信頼に火をくべるようなものである。

 厚い信頼による任命を承り、フレディとアズンは共に席から離れ、馬鹿騒ぎの渦の中へと向かっていった。


「野郎ども、今回は俺が指揮官だ!相手の力量を計る詰まらねぇ仕事だが、そんな約束に構うことはねぇ。」


 渦の中心に立ち、フレディは自身を鼓舞する為に――、仲間を奮い立たせるために、堂々たる啖呵を切る。


「狩られる程弱い相手だったと報告してやろうじゃねぇか。俺達のパーティをおっ始めようぜ!」


「「うぉぉぉおおお!!」」


 フレディの啖呵に後押しされ、各々に馬鹿騒ぎをしていた連中も、一糸乱れぬ纏まりを見せつけるように、心にまで響き渡る程の雄叫びを上げた――。


 誰しもが狩の前祝いだと疑うことなく、祝杯と報酬の期待を胸に灯す――。


 そう――、その場にいる誰しもが、狩の獲物となる相手を憐れむように燥ぎ立て、どのように狩るのかを想像して酒を飲み、ハンティングパーティーへの参加に心を躍らせていた―――。




 その熱気を増す群衆の渦から離れた奥の席で――、アブルードとスレイの二人はほくそ笑むような、思惑通りに事が進んだと云わんばかりの笑みを浮かべて、更に先の話を進める。


「この結果をもとに、依頼主は指針を決めるとのことだ。」


 アブルードは小声でスレイに伝えると、マスターに手で合図を示し自身にも酒を用意させた。


「これから忙しくなる。夜盗への報復もしばらくはお預けだ。」


 マスターは自ら酒をテーブルまで届けると、アブルードからこっそりと小さな紙を受け取る。

 それをポケットにそっと仕舞い、そのままバーカウンターを抜けて、控室の方に姿を消していった。

 それを見届けて、アブルードは届けられたグラスに手をかける。

 その様子を見て、スレイは同じようにグラスを持つと、その話に待ったをかけるように、アブルードの目の前にグラスを運んだ。


「そんなことより、一先ずあんたの作戦はうまくいったんだ。俺達は俺達で祝杯といかないとな。」


 そう言って、スレイはアブルードと乾杯を交わす。

 そして、二人は一気にグラスの中身を飲み干した―――。

会議とは、酒を酌み交わして信を育み、言葉を交えて友となる。

信を分かち合った友となら、どんな過酷にも挑める。

よって我々の会議とは、目的を語るのではなく、信を深めることにある。

つまり、俺達は強ぇってことだ!

byアブルード・グレイセル

え!?( ゜д゜)

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