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第24話 英霊の力

突如として目覚めた力。

その性能は目を見張るものであった。

第24話 英霊の力


 ヨヅキ曰く、その力は何の前触れもなく授かったという。

 自らが力を欲したためか、或いは努力を評価されたのか――、それは本人にもわかりかねるとの事だ。

 ただ、自身に対して囁きかけるような――、脳裏に直接言葉が伝わってくる感覚が生じ、その囁きに意識を委ねることで、強大な力を引き出せたのだと彼女は語る。


「これが勇者のみに授けられる英霊の力か。」


 目の前に広がる多くの魔物の残骸を目の当たりにし、俺は言葉を零した。

 オーヴィの放った雷爪隼の威力も確かに強力であったが、ヨヅキが英霊の力を行使して放った水波陣すいはじんの性能は、近距離ならまず回避は不可能なほどに素早く、威力も申し分ない。

 近付いて来た者を一瞬で刈り取る、正に攻防一体の必殺技だ。


「俺の雷爪と違い、勇者の嬢ちゃんの剣筋は波紋のように広がる。予測で避けようにも逃げ場がねぇな。」


 精霊を纏う剣技、コーティングの師であるオーヴィからも、絶賛の評価が下る。


「同じく剣で受けるか、遠距離を保つ以外に避けようがないなんて反則級ね。」


 どう対処するべきかを分析しつつ、ソアからも性能の高さを評価する言葉が贈られた。


「そんなことないわ。一回放つだけで体中のエネルギーがほとんど持っていかれるのだもの。何度も放てないのが難点だわ。」


 謙遜と言うより、精霊術にまだ不慣れなヨヅキにしてみれば、本当に難しいのだろう。

 持って生まれた体質によって多少の違いはあるのかもしれないが、精霊術も鍛えなければ持続ができない。

 長距離走を走り切る体力と同じように、精霊術も保有量や持続力を鍛えなければ備わらないみたいだ。


「それでもいざという時の切り札として、その力は有効だと思う。精霊力はこれから増やしていけば問題ない。」


 過剰に謙遜しているようなヨヅキに、俺はそう返答する。

 周りも頷いて同意を示しており、それを確認したヨヅキは少し自信を持てたようだ。


「これから向かう先に精霊術に詳しい人物がいるから、そこでアドバイスをもらおう。彼女の知識があれば、短時間で能力を上げることもできるかもしれない。」


 記憶を無くした自分に、精霊術の使い方をレクチャーしてくれたシンシアを思い出し、俺はヨヅキを励ますように提案する。


「寧ろ記憶さえ取り戻せば、精霊学者であった貴方の知識も相当なものよ。あの女神に頼らずとも、十分ヨヅキの力になれると思うのだけれど。」


 ソアの言う通り、俺に記憶が戻ればそれに越したことは無い。

 元々全ての属性に対応できていたみたいだし、ヨヅキの属性に合わせてコツを教えることもできるだろう。

 しかし、記憶が戻る保証は今の所ない。

 あくまでも可能性として、火の大精霊と地の大精霊を探す旅なのだ。

 記憶が戻るより先に、シンシアに会うことができるのであれば彼女に頼る方が効率がいいだろう。


「そうかもしれないけど、彼女の協力があればより精度は上がるはずだ。俺の記憶が戻るかどうかは不確定だし、彼女に聞いた方が早いと思うけど。」


 ソアだからこそ、効率を優先してシンシアに尋ねると言う提案が出そうなものだ。

 予想が外れたためか、単に同意を得られなかったからか、少しムキになるような反論をしてしまう。


「あら、随分と信用しているのね。それだけご執心なら女神様もさぞお喜びになると思うわ。」


 大人げない発言だったかと思ったが、意外にも嫌味で返ってきた。

 そっちがその気ならこちらも引くことはできない。

 それからしばらく、俺とソアの言い合いがしばし続く事となる。


 こちらの方が効率がいい――。

 効率よりも確率が高い方がいいだろう――。

 その両方を踏まえて――。

 全部が全部予想通りにいくとは限らない――。


 そんな言い合いの最中、延々続くと思われた言い合いに、オーヴィの脈絡のない質問が飛び込んでくる。


「そういや言い忘れてたが、今日は近くの町で宿を取る予定だ。部屋割りは男女で別れて二部屋でいいか?」


 その内容はヨヅキの英霊に関するものでもなく、二人の争点となっている女神の存在に関するものでもなかった。

 突然取り上げられた話題に、論争を繰り広げていた俺達も、それをどうすることもできずにただ見守っていたヨヅキも、その場全ての思考が一時的に止まる。

 今確か――、今日の宿について何か言っていただろうか。

 オーヴィの言った言葉の内容を頭の中で再度確認する。

 そう――、確かに彼は、脈絡も何もなく今日の宿についての質問をしていた。


「部屋はそれでいいわ。ただ、話題を逸らせて言い合いを止めるのなら、もう少し関連性が欲しい所ね。」


 律義に回答するソアに同意。

 話題を変えるにしても、もう少し何かあるだろう。


「別に止めるつもりはねぇぞ。別件も別件、今夜の釣りの話だ。まぁ、分からなければ後のお楽しみってやつだな。」


 しかし、オーヴィからは全く予想と違う回答が返ってきたであった。

 急に話題を変えたと思えば、全く意味が分からない。

 同様に、ヨヅキもポカーンとした表情で、頭の上にクエスチョンマークが出ているかのようだ。


「……夜に、釣り……ね。なるほど。それなら今すぐにでも構わないわよ?」


 あれだけの言葉で何が分かったのだろう。

 呆気に取られている俺とヨヅキを置いて、ソアだけがオーヴィの意図に気付き、適切な回答を述べていた。


「小物を数匹よりは、大物を含んだ群れごと釣る方がいいじゃねぇか。待つのも楽しみの一つだぜ。」

「それもそうね。期待して待つことにするわ。」

「おう、任せときな!」


 意図を理解した二人の会話は盛り上がり、俺とヨヅキは取り残される。


「どういう話なのか俺達にも……。」


 話しの意図を聞こうとしたが、ソアがそれを制止した。

 つまり、隠さなくてはいけないような話なのだろう。

 そう言う事なら、これ以上の詮索はやめた方がいい。


「部屋の話も決まった事だし、町に急ぎましょう。」


 ソアはそう告げ、やはり町への進行を促す。

 何かが起きるのだろうと察しつつ、俺達は進行の足を速めた――。




*** ??? ***


 アルテミス一行を遥か地上に見下ろす――、雲を超えたその先の上空にて、二つの影が会話を弾ませていた。


「貴方が書いたどの物語りよりも、貴方を綴ったこの手記はとても面白いですわ。」


 一頁――、また一頁と、ただ起きた出来事を綴った手記を読み進めながら、女性の影は称賛を述べる。


「私の手記など、美食家の貴方にすれば前菜にも成り得ませんよ。」


 受けた称賛に対し、もう片方――、男の影は謙遜を返した。


「ノンフィクションの自伝など、ありふれた粗悪品です。脚色も少なく常に自分視点。面白味など無いと思いますが。」


 謙遜と言うよりは自虐に等しい。

 失敗談を語るのは、単に自身の浅はかさを晒すに同じで、成功を語るは傲慢の至りに他ならない。

 このような含みを匂わせながらも、男の声は至って正常――、怒ることなく、悲しむ素振りもなく、只々一定の調子であった。


「そうね。貴方の言うように、数多の儚い物語はつまらないものですわ。でもそれは、たった一つの物語を彩る為の装飾と、メインディッシュの味を引き立てるソースやスパイスではないかしら?」


 女の声は、人の人生を料理に例えて男へと言葉を綴る。


「そして、私が食しているのは貴方のノンフィクション。ソースやスパイスが少なくても、しっかりと素材の味が引き立っていますわ。客観の飾り付けなど不要だと私は思います。」


 女性の声は踊る様に嬉々としていた。


「そうですか。お口に合ったのであれば何よりです。」


 称賛に心を動かされると言った様子はなく、男は淡白に返答を返した。


「一先ず私の手記の話は置いておきましょう。それよりも、今はこの物語の装飾に関することが最優先です。」


 男はパンッと手を叩いて話を区切り、本題へと話を移行させる。


「この場はグレイがうまくやってくれると思いますが、もしもの時はレイラにも動いてもらわなければいけないですね。」


 男は緋色の光を右手に集束させ、天空へと光を広げた。原稿用紙のように区切られた升目に、緋色の筆で綺麗な文字を並べて行く。


「フリエとカイルにはヴィルムの手伝いをお願いしましょう。」

「でしたらデイズとマイリー、チャックとエリオンの四人には別件を補佐していただきましょう。私から指示を出しておきますわ。」


 男の声に続き女の声も作戦に加わり、緋色の原稿用紙は次第に文字を埋めていった。


「残るはリアン、ベックス、アイビーですね。彼らには難攻不落に挑んで頂く事になりそうです。」


 原稿用紙が一枚、二枚と埋め尽くされて行き、そのリズムに乗って、正に踊るような筆捌きで文字が記されていく。

 滑らせる筆の心地よさを感じながら、男の影は鼻歌交じりで物語を構築していくのであった―――。

執筆中のまま投稿を忘れてました(;'∀')


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