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第23話 スメイシカ

ヨヅキに訪れる、英霊の加護。

その英霊の正体は――、創生期末期から創造期前半、戦国時代と呼ばれる時代で活躍した、かの人物であった――。

第23話 スメイシカ


*** ヨヅキの視点 ***


〝――ようやく、私の出番の様だ――″


 意識的に聞こえてくる。

 いや、囁くと言った方があっている気がするが、その僅かな違いが分からない。


〝――そして、久々のこの世界――″


 耳に伝わるのではなく、脳裏に直接言葉が並べられるかのように、意識的に――、認識していくように聞こえてくるのだ。

 音を聴覚で感知するのとは違って、文字の羅列を認識し、イメージのような感覚で声色も認識しているといった所だろう。

 それなら聞こえているのかと言われると、やはり聴覚で聞こえているというよりは、文字、声、その意味を意識の中で認識していると表現したほうが適切だ。

 いや、それが適切と表現することすらどうかと疑わしい限りであるが、一応の解釈として、そう表現することにする。

 うん、そうしないと理解がしにくい。


〝――体は――、どうやら自分に肉体はないらしい――″


 その意識――、と言うか囁きの如く伝わってくる声は、自身の存在を確かめるかのように、認識を深めて行く。

 認識、或いは認知なのだろう、元々は肉体を持って存在していたのだと主張するように、それは、意識をすることで確認を進めていた。

 手があったのだろうが今は手がない。

 足もあったのだろうが今は足もない。

 そういった当たり前の事を確かめるように、囁きかける意識は順に確認をしている様で、触覚があるのかは不明だが、手当たり次第に確認している様子が想像できた。


〝――視覚も眼で見て認識するというよりは、連想するような、思い浮かべると言った感じで見えているようだ――″


 次は見ると言う行為を確かめようとしているのだろう、自身が見ている光景を、この囁きかける意識も見ている様子である。

 視界の共有――、又は自分の視界を閲覧しているのだろう、それは、触覚に続いて見ると言う事を何度も試していた。


〝――声は――、言葉を発している感覚はあるものの、思ったことがそのまま、この宿主に伝わっているのだろう――″


 見ると言う事の実験を終え、今度はどうやら声を発しようと試みている。

 それが発する言葉――、正確には音になっていない為、文字列と表現する方が自然ではあるが、その文面の内容は自分の意識や思想とは全く別物で、その内容を操作しようにも全く制御が効かない。

 つまり、この囁きかける意識は自身のものではなく、独立して自我を持った何かであることが分かった。


〝――そう、この宿主――、たしかヨヅキと呼ばれていた――″


 自我を持つ何かが自身の中に存在している感覚に、恐怖と違和感と焦りを覚えつつも、自身の名を呼ばれたことで対話できるのではないかと言う好奇心が生まれる。

 否、恐怖から解放されるために、交渉を持ち掛けることができるかもしれないという、防衛的な解釈から出たものであるが故に、好奇心と言うのは正しくないのかもしれない。

 しかし、このまま乗っ取られてしまうのではないかという、芽生えた恐怖を払拭するには他に方法が思いつかなかった。

 ならば――、語り掛けるのも恐ろしい事であるが、何もしないよりはいい。

 そう思い、語り掛けようと決意するのだが――、


〝――今はまだ、私の力を全て使いこなせるだけの力量に達してはいないようだが、伸びしろは十分にあるようだ――″


と言った感じで、この囁きかける意識は私の思惑など意にも介さない様子で、自身の感想を淡々と述べていく。

 ちゃっかり私の評価もしてくれている有様だ。

 ただ、伸びしろがあると評価する辺りは、この意識はいい奴なのかもしれない。

 きっとそうだ。

 そうだと言ってほしい、お願いします。


〝――鬼才と謳われたメルクトと渡り合う私の力を、どのように揮うのか楽しみでもある――″


 お願いはしてみたものの、やはり私の思いは無視され続けているようであった。

 どうやらこの囁きかける意識は、凄く昔の――、戦国時代の英雄の一人、メルクト将軍と戦った間柄の様であったようで――、あれ?、戦国時代の将軍の名が出てくると言う事は、過去の偉人か何かだろう。

 私はふと、そう言う考えに及んだ。


〝――さあ、始めよう――″


 つまり、この囁きかける意識は、その時代に活躍した大国、メノウ国の将軍であるメルクト将軍を知っていて、そのメルクト将軍と渡り合うだけの力を有していたと言う事なのだ。

 そして、この囁きかける意識から発せられたメルクト将軍と言うのは、戦国時代に詳しくなくても知らない人は少ない。

 それほど有名で、尚且つ、鬼才と称されるほどの武勇を誇る人物である。

 そのメルクト将軍と渡り合う存在など、数人しか存在しない。

 否、軍として渡り合う将軍は数人覚えているが、個人で渡り合えた人物は、歴史の勉強で習った限り唯一無二であったと記憶している。

 そう――、たった一人だけ、メルクト将軍の無双を防ぎ、ネウス軍に完全勝利をもたらした英雄がいたのだ。


 そして、私は思い出した。


〝――新たに始まる、この者と共に立ち向かう戦いを――″


 かつて異世界に転移する前に、歴史の授業で習った戦国時代の話を――。


〝――古に潰えた私の戦いを――″


 メノウ軍とネウス軍の大戦で活躍した、メルクト将軍との戦いで功績を上げた当時の若き部隊長の名を――。


〝――我はネウス軍南方将軍、スメイシカである――″


 それは、私にとって不幸にして幸運なことであった――。


 それは、私にとって新たな力を得る機会となった――。


 それは、私にとって勇者としての始まりを示す――、英霊の加護を授かった出来事であった――。

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