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六十六話 調達

 

「……ぶえッ! ゲホゲホッ、なにこれまっず!」



「「よ、よかったぁ~!」」



 衰弱した僕を何とかする為山賊の一人が無理やり口に何かを詰め込んできた。

 その苦味は強烈そのものであり、口の中全体に広がる邪悪な味が僕を眠らせる事を許さない。

 薬草の類らしいが僕の知ってる薬草じゃない。これは何か、ショック療法に近い物ではないだろうか。



「おええ……気持ちわりぃ~」


『効能速すぎやろ』


「竜族の里周辺でとれる魔草さ。地竜のエサ用にいつも持ち歩いてんだ」


『こいつ草食やったんか……』




――――グオオオオオオ!




 緊急事態とはいえ地竜のエサを横取りしてしまった事に少し罪悪感が芽生えたが、その咆哮は僕の回復を祝ってくれているように見えたのでまぁよしとする。

 口に広がる苦味を中和するように水玉にかじりつく。

 思い切り噛んでしまったわけなのだが、もしかしてこれは水で飲むタイプの薬なのでは?



「あっつい……なにこれ!? 体がめちゃめちゃ熱い!」


『いや、そらここ火の海やし』


「はは、違う違う。これは竜のようなどでかい生き物でもちゃんと効能が回る強力な”滋養作用”があるんでさ」


「逆に言うと人間には効きすぎるから、薬草にする場合は粉末にして水で薄めるんですけど……」


『丸々一枚食わしよったな……』


「ウォオオオオオ! なんか、なんか滾ってくる!」


「ま、非常時でしたからねぃ」



 やはり水を使うタイプだったか。まぁ、原料を直に食らったおかげで効能は速く出たからよしとするか。

 しかしこれ……本当に薬草か? 

 痛みも疲れも完全に吹き飛んでいるわけだが、この効果は別の意味でもよく目にする。

 何もかもを吹き飛ばしただただひたすら精神を高揚させる”白い粉”的なアレ。

 滾る気分が抑えられない。審議を確かめるべく、ただちに血液検査がしたい所だ。



「フォォォォォ! ファーーーー! ふあーーーーー!」



『完全にヤクやん』


「ええ、薬草ですけど?」


『意味が……まぁ、元気になったっぽいしええけど』



 良くも悪くも目覚ましい回復を見せた僕は、ふと頭上を見上げた。

 地面に広がる影がの原因となるものがいるからだ。

 いかつい見た目に反して柴わんこ並みの従順さとメンタリティを持つ”巨大トカゲ”がそこにはいた。 

 こいつのおかげでどれだけ道中助けられた事か……今までの事も相混じって、感謝を述べる気持ちが抑えられない。



「地竜よくきてくれた……マジナイスタイミング!」




――――グオッ!



 滾ったテンションに任せ地竜の背中に乗り、首根っこにしがみつきながら切れ長の目がある所までよじ登る。

 どうやら、崩れる高層ビルは地竜が受け止めてくれたようだ。

 地竜と目線が合わさった僕の視線の先には、なにやら巨大で細長い火だるまが出来上がっている。

 頑丈が売りのこいつだがよもやここまでとはな。

 火の付いた棍棒を思い切り振り下ろされて、それでちょっとたんこぶができる程度で収まっているから恐ろしい。



――――グオッ!? オオオ!



「あっごめん痛かった? たんこぶ触っちゃった」




「――――ほんとひどいよねあにさん。俺ら忘れて王宮で寝泊まりしちゃうなんてさ」




「あっ」



 地竜の頭上には、一人の先客がいた。地竜が頭に登る事を許すくらいだから山賊の一人なのはわかる。

 だがその先客は他の山賊とは何かが違う。

 連中と同じ小汚い防具に身を包んでいるはすなのに、なにやら妙にさわやかかつ落ち着き払ったオーラを放っている。

 まるでMMORPGの初期主人公みたいな”デフォ”な容姿の彼。

 一瞬どちらさんでと言いそうになったが――――問いかけを発する寸前で、彼が誰だったのかを思い出した。




あにさん、後であの女に言っといてよ。もうすぐメシの仕度ができるからってさ)




「やっ」


「”影の薄い”リーダー!」


「影のうす……あにさん、一言余計だよ」



 異なる雰囲気を持ったこの山賊は、元竜騎士傭兵団の”団長”その人である。

 山賊に身を落とした後も引き続き集団のかしらを継続し、団員を食わせるべく日々奮闘していた苦労人だ。

 彼にとって最も苦労な事はオーマと出会ってしまったことであろう。

 長年引っ張ってきた自分の団体が、突然やってきたポッと出”自称魔王”に団長の座を譲る事になってしまったのだから。


『ごめん、わい後から来たからずっと雑用係の人やと思ってた』


「雑用……まぁ、あの姉さんが来てからはそうだね」


「ほんとすいません……」


「いいさいいさ。あの人に引っ張ってもらった方が、俺なんかよりずっと団員の……」


「俺なんかより……あの魔女の方が……」


(鬱るなよ!)



 心中の雨模様はすごぶるお察しする。

 彼の整った顔立ちを包むちょっと汚めの恰好は一言で言うとワイルド系イケメンだ。

 見るからに頼りになりそうで優しそうで、かつ突如舞い降りた不幸にも愚痴一つこぼさない姿は、こっちの世界なら女共が放っておかない事だろう。

 だが残念。彼の唯一の欠点は「欠点がない事」と言える。

 尖りのない内面であるが故今まで出会ったトゲだらけの連中により、プスプスとハリネズミのように埋まってしまうのだから――――



「大丈夫、傭兵団の団長はあなたしかないんだから!」


「そう言ってくれるとうれしいね……」


(なんとか機嫌取り戻したか)



 すっかり忘れていた身分で言えた事ではないのだが、山賊の開放に手続きだなんだと無駄に待ちが長かったのもどうかと思う。

 別に悪い事はしてないし、ただ人数の都合であの留置場に押し込めただけなのだから、さっさと済ませて開放すればよかったのに……

 しかもその直後、変なガキに財布をスられてしまったとあれば記憶から吹き飛んでしまうのも当然と言う物だ。



「にしてもさ……随分大事になったね。でかい音がして飛び出たと思ったら、外はすでに火の海ときた」


「”ヤツラ”が……来たんだね?」



 そんな吹けば飛ぶような記憶しかなかった僕とは違って彼らはそうはいかない。

 そもそも彼ら傭兵団が山賊に身を落とす原因となったのが、今この帝都に襲撃を仕掛けている連中と同じなのだから。忘れたくともそれは無理と言う物だろう。

 団長の顔が一気に険しくなった。

 込みあがる思いが漏れるように、口調が山賊のそれっぽくなっている事を本人は気づいているのだろうか。


「あ、そういえば前に戦ったんだっけ……」


「あんまり思い出したくないけどね。でもこうして、屈辱を返すチャンスが巡ってきた……」


「そう思えば……ある意味願ったりだ……!」


(こわ)



 団長はそう言うと整った顔立ちをしわが浮くまで捻じ曲げた。

 その歪み具合からいかに”ヤツラ”に一物持っているかがわかる。

――――辺りには、未だゴウゴウと火が燃え盛る。

 この昇る火柱同様、山賊の心情もまさに”頭に来てる”といった所か。



『でも連中未だ姿見せへんらしいで』


「さっきここに来る途中狙撃手スナイパーに襲われた……唯一それがテロリストとのエンカウントだけど」


『姿は見てへん。なんせ”狙撃”やからな』


「……多分そいつだね。あの姉さんが言ってた”妨害野郎”って」


「えっ」


『会ったん?』


「ついさっきまで一緒にいたよ。途中まで一緒に救出作業手伝ってたんだけどね」


「曰く……”こちらに向かってる兵”と”現地に到着した兵”の数が釣り合ってないそうな」



 そういえば昨晩オーマは、王から逃れるべく行方を眩ませたっけ……

 逃げた所でどこに潜伏するつもりだと思っていたが、そうか。彼らがいたか。

 すっかり忘れて寝る事しか考えてなかった僕の代わりに、オーマが迎えに行ったんだ。

 合流した後、全員が寝泊まりできる宿でも探していたのだろう。

 爆発が起こったのはおそらくその直後……



「そうか……アイツが撃ち落としてたのか!」


「で、そいつを見つけ出して”ぶっとばしてくる”っつって、また置き去りにされちゃってさ……」


『捕まえるの間違いちゃうんかい』


(どっちにしろぶっ飛ばすと思う)


「だから多分、ちょっと遅れたけどこれから人員は増えるよ。あの姉さんがしくじるとは思えないしね」


『まぁ確かになぁ』



 何故狙撃手があんな所にいたのか、これで合点がいった。

 スナイパーの役割は主に突入組の”支援”。味方の進軍を妨げる障害を、持ち前の長距離射程で無力化する事が主な仕事だ。

 あの王宮から見たすざましい数の魔導車。

 あれらが自軍の味方に一斉に襲い掛かったなら、少数集団のテロリストは大打撃必須である。

 


「突スナ……」


「トツスナ? なにそれ」



 おそらく狙撃手はあらかじめある程度先行しておき、時間が来るまで狙撃点を探していたんだ。

 それがあの大通りのビル群の一角。

 無事自分のテリトリーを確保できた狙撃手は、そこからが職業としての本領発揮。

 獲物が射線を通る時まで、ただひたすらに待つ――――爆発を、開始の合図に変えて。



『スナイパーって待ち伏せが基本やねんな』


「でも照準にさえ自信があるなら突撃兵としてもいける。狙撃銃は貫通性が高いから火力としても十分役立つ」


「妙に詳しいね……あにさん」


『上級兵やからな』



 この突スナの有効性は僕が身を持って証明している。

 ゲームの場合、ステージにはそれぞれ”絶好の狙撃場所”と言う地点がある。

 両陣営がその情報を知っている場合、”以下に相手より先にその地点にたどり着くか”が勝利のカギになる。

……知れば思わず「ああ」と漏らしてしまう程、入念かつ無駄のない作戦だ。

 あの映像を見てからと言う物のトチ狂った獣とばかり思っていたが、さすが本職のテロリスト。

 ゲーマーの僕と違い野生の勘でも発揮しているのだろうか。

 そして悔しい事に”芽衣子と同じ容姿”と言うのも少し納得できた……もう間違いない。

 ”英騎は切れる”――――これはもはや疑いようのない事実である。



「ってー事は……爆弾の話聞いた?」


「ああ聞いたよ。俺らはみんなを救助しつつその爆弾の回収作業も並行してやってるんだけどね」


「全然、見つからないんだよ。今もその辺でドンドン鳴ってるのにさ」


あにさんその辺、なんか知らないかい? 異界のジュウとか言う武器みたいにさ」



 団長の言う通りだ。

 さっきからドンドンと爆音が鳴り続けているにも関わらず、爆弾そのものは一行に見つかる気配がない。

 王子は爆弾の存在をいち早く認知していた。だったらそろそろ一発くらいは見つかってもよさそうな物だ。

 なのに……



(爆弾……)



 僕は指を鼻の下に置きながら、記憶の引き出しを片っ端から開き続けた。

 爆弾はわかるけど”見えない”って言うのはなんだ……そんな爆弾、あったっけか。



――――



 見つからない爆弾。高威力。そして「銃みたいな異界の武器」

 これら三つのワードが重なる事により――――見えない爆弾が、見えた気がした。



(あ……)


「……C4的な奴?」


『ああっあれか! あれなら確かに少量でも十分な……』


「シーフォ?」


「C4だよ。えっと、確か粘土みたいな奴で……」


『プラスチック爆弾言うてな。普通のと違ってちぎって数増やしたり細長くして狭い所とかに設置できるねん』


「ちぎる……? 爆弾を?」


『なんていったらええかな……こう、見た目はバターかホワイトチョコに近い。だから知らんかったら絶対わからん』


「粘土状だから自在に形を変えれるのが利点なんだ。水玉みたいにな」


「コポ!」


 一番いいのは現物を見る事だが、それができないからこうして苦労させられている。

 こちらの発想はやや自身がないが、脳内で絞込検索を掛けた結果出てきた物だ。

 多分……合っているはずと思いたい。今の三つの条件に合う爆弾なんて、もうそれしか残されていないのだから。



「そんな物が……どおりで、見つからないはずだよ」


「でもC4ならただそこら中に貼り付けるだけだから……この量も納得できる!」


『ほんまどっから引っ張り出してきたんだかな』



 本当にその通りだ。銃もそうだが、連中がどこからそんなものを”調達”してきたのかも非常に気になる。

 しかもここは魔法至上主義国家。殺傷も制圧も全て魔法に頼っており、銃どころか銀玉鉄砲すら生まれてこなさそうなのに。

……おそらくこれも、例の”英騎の謎”に含まれているのだろう。

 魔法国家に似合わない現実の武器。もしかしたら英騎が自ら持ち運んでいるのか……

 僕がここに、スマホを持ち込んだように。



「ただ、そんな画期的な爆薬だからこそ弱点もある」


『誤爆せんように樹脂と混ぜて感度を落とすんやけど……それ故に”起爆装置”がないと絶対爆発せんねや』


「”雷管”がないと爆破できないんだよ。火をつけても普通に燃えるだけらしいし」


「ええっ!? 火ついてるのに爆発しないの!?」


『それほんまやで。燃やすもんないからってC4でカップ麺作った兵士がおったらしい』


(それは僕も知らなかった……)


「てーことは、爆発させるには直接ポチっとやるしかないって事かい?」


「考えられるのは二つの手段だ。時限式か遠隔操作式って事」


『自動と手動とも言う』



 多分最初の”一発目”は時限式だったんだと思う。一斉に爆破したって事は、その時間にセットしてたって事だ

 ただテロリストの目的は王宮だから、無論道中の攻略に備えて遠隔操作式のもあるはずだ。

 向こうも全てが思い通りに動くなんて思っちゃいないはず。

 不足の事態が考えられる限り、零分刻みのスケジュール通りってわけにもいかないだろう。



「遠隔操作……マドーワみたいなもんかい?」


「そう、このスマホみたいな起爆スイッチをポチっと押して離れた所からドカン」


『ただあれは電波を飛ばすだけのシンプルなもんや。ケータイっつか無線に近い』


「爆弾のおもはあくまで本体――――って事は!」



 思わず、キョロキョロと視線を泳がしてしまった。

 未だ残っている爆弾を全て起爆するには、今言ったように手動でボタンを押す必要がある。

 そして、世界に届くスマホの電波と違って無線機の距離なぞたかが知れている。

 となれば、必然として――――

 

 


「この近くに……いる…………!」





――――光治の予想はまさに的中していた。




……




「なんかでっかいトカゲさんがいたです」


「今のはドラゴンじゃな……やれやれ。精霊、魔女ときてお次はドラゴンときたか。なんでも出てきよるの」


「ほんと、どこから発注してきたんだかです」


「ん? でもドナちゃんや……おんしは確かアレと会った事があるのでは?」


「えっ? あー……会ったようななかったような……」


「……忘れたのじゃな」


「ドナちゃんは過去を振り返らないのです! 技術は日に日に進歩してるのですぅ!」


「はいはい、そういう事にしておくわい。そんな事より……見つけてしまったのだから先に”駆除”しておくのが、正解と思わぬか……?」


「ドナちゃんも同じ事考えてました! ちょうどよいのです!」


「うむ。けつは決まったな」


「じゃあと言うわけで~……”二発目”いっきま~す!」


「ほいさ。我らを守れよ”ヒーちゃん”」



「――――ゴォウ!」





 二人の女はそっと耳を塞いだ





「商業区ルートを進んでると”思わせる”です!」





 





 カ チ









―――― ド ン ッ !






                           つづく 


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