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心配事は続く

 その頃、オストロー公爵家では、公爵夫人のクレアと三男のカイル、アリスの三人が夕食を終え、食後のお茶を飲んでいた。


「お父様達はまだお帰りにならないのかしら?」


 父と上の兄達は朝食の時にも姿を見せなかった。


「お父様とエリックはずっと王宮につめているわ」


「マイク兄さんも騎士団の仕事で朝からいないな」


 母と兄は当然といった顔で、優雅にお茶を飲んでいる。そんな二人に、アリスは少し焦りの混ざった声で尋ねた。


「それは、コモノー男爵親子がまだ見つからないからなんですの?」


 クレアとカイルは黙ってお茶を飲んでいる。それを見たアリスはティーカップを置くと、すくっと立ち上がった。


「お母様、カイル兄様、私、これから行きたい所があります!」


「駄目よ」


「ダメだよ」


 二人はにっこりと笑ったが、その目は笑っていない。


「ウィリアム王太子殿下から、アリスを屋敷から絶対に出さないようにって言われてるんだから」


「へ?」


 思ってもいなかった人の名前に、思わず令嬢らしからぬ声が出た。


「さすがは王太子殿下ね。アリスのことをよくご存知だわ」


「アリスのことだから、友人の家に行きたいって言い出すだろうけど、家に閉じ込めておいてくれって」


「と、閉じ込める?!」


「アリスのことだから、目を離したら勝手に出て行ってしまうだろうからって」


「だから、今日は母上と僕がアリスの見張り番だよ。気づかなかった?」


 カイルが綺麗な笑顔を見せる。


「大丈夫よ。ウィリアム王太子殿下を信じなさい」


「そうそう。アリス、口が開きっぱなしだよ。まあ、そんな顔も可愛いけどね」


 妹大好きな兄の言葉に、アリスは慌てて自分の口を手でふさいだ。


  





 王宮に到着したウィル、アンソニー、ポール、エラリーの四人は謁見の間へと直行した。謁見の間では、国王を始め、アンソニーの父であり宰相であるハートネット公爵やオストロー公爵とその嫡男のエリック、ドットールー侯爵、騎士団長など、事件の関係者が集まっていた。


「国王陛下、ただいま戻りました」


 ウィル、アンソニー、エラリーの三人が国王に臣下の礼をとる横で、さすがのポールも居心地悪そうにひざまづいた。


「ウィル、今はかしこまらなくていい。みんな楽にしてくれ」


「はい、父上」


「だいたいの事情はキンバリー伯爵から聞いた。キンバリー伯爵令息とウィルの友人のそこの男子生徒の活躍で、罪人を捕縛できたとか」


 国王がエラリーとポールに視線を向けた。それを受けてエラリーが発言の許可を願い出る。


「畏れながら陛下、発言をお許しいただけますでしょうか」


「許す」


「ありがとうございます。先ほど私とポールの活躍と仰いましたが、実際に活躍したのはポールです。私はポールの指示に従ったまでです」


「ほう。そうなのか?」


「はい。ポールが隣家の二階から食堂の二階に入り、男爵の息子に気づかれることなく、店内に隠れることができたからこそ、無事に捕縛することができました」


「それを言うなら、お前がしっかり時間稼ぎしてくれたおかげで隠れることができたんだ。お前がいなかったら、間に合わなかったかもしれない」


 いつも通りのポールの遠慮のない話し方に、エラリーが青くなる。


「ポ、ポール、陛下の御前だぞっ」


「よい。ポールとやら、今の話をもう少し詳しく聞かせてくれ」


「はい。俺はクラリス達の家の二階の窓が開いていることを知っていたから、あの男がクラリスを二階の部屋に連れ込む前に先回りしようとしたんです。そこにエラリーが駆けつけてくれて、あの男を足どめしてくれたおかげで、気づかれないように背後に回り込むことができました。だから、今回はエラリーの手柄だ」


「ふむ。ウィル、お前はどう思う?」


「そうですね。私達が店に入った時、罪人を押さえつけていたのはポールとエラリーの二人でした。ですから、やはり二人の手柄だと思います」


「ウィル、俺は平民だからさ、手柄とか関係ないから別にいいんだよ。エラリーは貴族なんだから手柄をあげておいた方が、こいつが騎士団に入る時に有利になるだろう?」


 ポールはウィルにこっそり耳打ちする。もっとも、よく響くポールの声はそこにいる全員に聞こえていたのだが。


「ふっ。二人はライバルなのかと思っていたけど、いつの間にそんなに仲良くなっていたんだい?」


「べ、別に仲良くなったわけじゃない。俺は事実を伝えているだけだ」


 ウィルの言葉に珍しくポールが顔を赤くする。そんなポールをエラリーは信じられないといった顔で見つめていた。


「よし。二人への褒美は後日ゆっくりと検討することとしよう。二人は今日はもう下がっていいぞ」


 国王は満足気に頷くと、ポールとエラリーに退出を促した。


 二人が出て行くと、国王は一転して厳しい表情になる。


「さて、あの悪党の処遇について話し合うこととしよう」







 謁見の間を辞したポールとエラリーは、クラリス達が案内された客間へと向かっていた。


「ポール!俺は手柄を独り占めするような卑怯者ではないからな!」


「何だよ、せっかくの先輩からの好意だぞ。ありがたく受け取っておけよ」


「だから、お前を先輩だとは認めていない!」


「じゃあ何か、クラリスの恋人だとでも思っているのか?」


「なっ!こ、恋人だなどと……!」


 ぎゃあぎゃあとうるさい二人の声を、案内してくれた使用人が遮る。


「こちらのお部屋です。中でお休みになっているようですから、お静かにお願いいたします」


「「はい……」」


 使用人がドアをノックすると、中からフレデリックの声が聞こえ、ドアが開いた。


「ポール!それにエラリー様!」


「フレディ、クラリスの状態は?」


「ああ、医師の診察は終わった。しっかり手当てをしてもらって、今はベッドで休ませてもらっている」


 フレデリックはポールとエラリーを招き入れながら答えた。


「クラリス嬢の様子を見ても構わないだろうか?」


「はい。こちらです」


 クラリスは広い部屋の奥に置いてあるベッドの上で眠っていた。先ほどより少しはましになったとはいえ、まだ顔色は青白いままだ。


「クラリス……」


「クラリス嬢……」


 細い首に巻かれた白い包帯が痛々しい。


「フレディ、医者は何て?」


「今のところは命に別状はないし、傷もじきに塞がるだろうと。ただ、少し出血が多かったようで、しばらくは安静にする必要があるということだ」


「そうか……」


 それを聞いてポールとエラリーはホッとした。


「だが、もしかすると、傷口から悪いものが入っている可能性もあると言われた。症状が出てからじゃないとわからないと」


 フレデリックは顔を強張らせた。


「……今は、祈るしかない……」


 三人は祈るように、クラリスの小さな顔を見つめた。



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