悪党の末路
*残酷な描写があります。
「さてと。まずは、あの粗悪な医薬品の取引について話してもらおうかな」
粗末な木の椅子に腰掛け、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌な様子でアグリーに問いかけたのは、その場に相応しくない優し気な雰囲気を纏った美青年だった。
ここは王宮の地下牢。重罪人を取り調べるための監獄だ。ここに連れて来られるのは、よほどの大罪を犯した者だけで、一度入れば生きて出られることはないと言われている。
アグリーの取り調べには、尋問のプロ中のプロである特務部隊の副隊長、キンバリー伯爵家嫡男のセベールがあたっていた。
エラリーよりもジャンの兄と言われた方が納得しそうなほど、線が細く、優し気な雰囲気で、とても厳しい尋問をしそうな人物には見えない。だからだろう、最初は誰もがセベールを侮って後悔するのだ。
「ふん。俺は何も知らん」
アグリーもセベールの穏やかな問いかけに、強気な態度を崩さなかった。
「何も知らないなら、どうして移送中に逃げ出したのかな」
セベールの態度は変わらない。
「捕まったら逃げ出したくなるのは当たり前だ」
「じゃあ、どうしてあの違法薬物を?」
「俺は知らん。違法薬物だなんて知らなくて、睡眠薬だと聞いて買ったんだ」
「睡眠薬ねえ。じゃあ、騎士達にその薬を使った理由は?」
「眠らせておいて逃げようと思ったんだ」
「ふーん。ちなみに騎士二人はまだ目が覚めないよ。御者は目を覚ましたようだけど、体にひどい麻痺が残っていて、ろくに動けないらしい。それを聞いてどう思う?」
「はっ、俺の知ったことか」
「君がやったことの結果なのに?」
「俺を捕まえる方が悪い!」
「そうかあ。じゃあ、君が人質にした貸し馬車屋の女の子のことは覚えてるかな」
「ふん。ガキのことなど、どうでもいい」
「あの子は可哀想に、君から解放された後、高熱を出して寝込んでしまってね。しばらくしたら熱は下がったんだが、これまでの記憶を全て失くしてしまって、両親の顔もわからないらしい」
「それは俺のせいじゃない」
「そう?私は君のせいだと思うけど」
「俺はあのガキには手を出してない!」
「手を出していない?あんなまだ学園にも通っていないような小さな子の首にナイフを突きつけておいて?」
「ケガをさせたわけじゃないし、熱を出したのは俺とは関係ないね」
「あくまで反省なしかあ」
何を言っても自分の罪を認めようとしないアグリーの態度にセベールが呆れたように呟いた。
「わかったら俺をここから出せ!俺は無実だ!」
「無実?君を無実だと言うのは、空の月を懐に入れるのと同じぐらい無理があるよ」
セベールがいよいよ呆れる。
「じゃあ聞くけど、あのクラリスという少女に君は何をしようとした?」
「ふん。あれは俺の女だ。おとなしくしないから言うことを聞かせようとしただけだ」
「君の女?首にナイフを突きつけて、ケガまでさせておいて?」
「あれはもともと俺が手に入れようとしていたんだ!なのに、いつも邪魔が入って……」
「ふーん。つまり君は未成年略取を企んでいたわけか」
セベールの笑顔がさらに深くなる。
「ところで、父親を殺したのはどうしてかな?」
「父親?誰の父親だ」
「もちろん君の父親のコモノー男爵だよ」
「俺は知らん。馬車から逃げる途中ではぐれたんだ。死んだのか?」
「死んだよ。首を切られてね。そばに血のついたハンカチ……違法薬物がたっぷり染み込んだハンカチが落ちていたよ」
「それがなぜ俺の仕業になるんだ」
「状況から見て、君しかいないからだよ」
「証拠はない」
「あるさ。君がクラリス嬢の首に突きつけていたナイフ、あのナイフの切り口と男爵の首の傷口が一致したからね。それにハンカチは君のものだ」
「違う」
「違わないよ。ねえ、いい加減諦めて、全部認めた方がいいと思うけどなあ。その方が私も手間が省けるし」
「俺はやってない!」
「やれやれ。少しは泣いて反省すれば、手加減してあげたんだけどね」
全く自分の罪を認めようとしないアグリーに、セベールは呆れたように首を横に振ると、後ろに控えている男に指示を出す。
「お、おい、何をする」
「何って、拷問だよ」
男から何かを受け取ったセベールは、楽しそうに先の尖った細い金属製の串のような物を、アグリーの目の前の机に並べていく。
「やっぱり爪を責めるのは拷問の基本だよね~。知ってる?爪には痛点はないんだよ。でも、爪を剥がされるとめちゃくちゃ痛いみたいなんだよね。まあ、私は剥がしたことはあっても剥がされたことはないから、どのぐらいの痛さなのかはわからないんだけどね」
セベールを優男と侮っていたアグリーの顔がみるみる青くなる。
「ま、待て、こんなやり方、違法だろ……」
「ははっ、違法って。散々その法律を破ってきた君が言ってもね。法律はね、それを遵守する者を守るためにあるんだよ。君のように法を犯して平気な人間を守るための法律なんて存在しない。そんなことも知らなかったのかい?」
ニコニコと優しく諭すように言いながら、セベールはアグリーの右手の人差し指の爪の隙間に金属の串を突き刺した。
「ぎ、ぎゃあーーー!」
途端に聞くに耐えない汚い悲鳴があがる。アグリーは逃げ出そうとするが、椅子に身体を縛り付けられ、屈強な男達に身体を押さえられているため、ただ首を振ることしかできない。
「まだ一本目だよー」
フンフンと鼻歌を歌いながら、セベールは次々と串を刺していく。右手の全ての爪から金属製の串が生えているような状態になった頃、アグリーは痛みに耐えられず気絶した。
「起こしてあげて」
セベールの指示に、周囲にいた男達がアグリーの顔を上に向けると、口に水の入った瓶を押し付けた。
「っごっほっ、ごほっ!」
一気に大量の水を流し込まれて、アグリーはたまらず咳込み、意識を取り戻した。
「あ、起きた?まだ何もしゃべっていないのに、休めると思わないでね」
目の前で美しく微笑むセベールに、アグリーは生まれて初めて絶望を知った。




