外伝 双羅と森の因縁。その1。
これはまだ、トルナロ達と旅をしていた最後の二ヶ月の間に起こったことだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。あの子、なんかこっちを見てる・・・・」
「ん?」
サイギ町に着いて商売エリアに足を運ぶと、店と店の間の通路に子供が居る。たぶん少女で合っているだろう。歳は9、10歳位と言ったところか。みずぼらしい格好をしていて、ぼさぼさの黒髪と赤目。その目つきは死んだ魚のような目をしていた。その視線の先に俺たちは居た。
・・・俺は、あの目を知っている。孤児院に流れて来る、親が居ない悲しい目。
あんな子供は孤児院に沢山居た。心を開くのに、かなり苦戦する。それほど親に捨てられたことがショックなんだろう。俺は覚えていないから、よくわからないが・・・・。
・・・・ああいう子を見てきたからだろうか?自然と足があの子の方向に行く。
「な・・・っ、何!」
あの子は俺が側に行くことを拒否してくる。しかし俺は歩を止めない。
「・・・ないで、こないで!」
「・・・・お前、親は?なんでこんなところに居るんだ?」
「関係ない!」
この子はやはり拒否してくる。しかし、すぐに俺の後ろに隠れた。通路の奥から、二つの人影が近づいてきたからだ。
一人は男。太った体に妙な帽子。そこらの商人とは違い、すこし目立った格好をしている。腰から沢山の鍵がぶら下がっていた。
もう一人も男。対象的にやせ細っている。同じような格好をしており、腰には鞭がぶら下がっていた。
やせ細った男が、先ほどの子供を見てから、俺に向かった。
「おい、そこの黒髪。そのチビは孤児だろう?我々は奴隷商だ。そこのチビの受け取りに来た。そのチビをよこせ」
どうやら、奴隷商らしい。そして奴隷云々なんだが、この国は孤児などを隷属することを公式に認められている。それを利用して法に引っかかることをする馬鹿が居るのだが。
しかし、この子が孤児と言うのはおそらく本当だと思う。こんな時間にこんな通路で座っている子供は孤児だろう。他に、どうしても家に帰りたくないということもありうるが・・・・。
まあ、俺が孤児を見て、そんな奴隷商に渡すわけもなく。
「そこの子は俺が預からせてもらうことにしたんで」
と言った。
それを聞いてさっきの子がこちらを見、奴隷商は顔をしかめて、しかしなにも言わず通路の奥へと戻っていった。奴隷商的にこういう子供は儲けになるが、無理やり保護者から引き剥がしたりすると犯罪になる。俺が保護すると宣言したところでもう手出しはできなくなったわけである。
「どうして・・・・」
「ん?」
二人の奴隷商の姿が見えなくなった途端、その子は聞いてきた。
「どうして、私なんか・・・・」
この子は自分を保護したことを不思議に思っているらしい。保護するとこんな街中で言ってしまったので、途中でやっぱやめる、と言うことはできないのである。
そもそも、孤児を助けるメリットがない。あるとしたら心の癒しか・・・・・虐待的なモノだろう。
その事を理解してるらしく、いつでも逃げれる体制になっている。
孤児を保護するのは当たり前。俺はそう告げた。
「もともと、俺も孤児だったし」
言葉を続けると、その子とキクがかなり驚いた。キクは話してなかったか。
◇◇◇
「で、問題はこれからだ」
現在、今日泊まる宿の部屋。
ここに俺、トルナロ、キク、さっきの子、キプムと言うらしい。が、集まっていた。
「私・・・・だよね?」
「ん、そうだ」
キプムはまだ少し警戒しているのか、俺から離れている。
しかしキクには寄り添っているんだがな。キクは顔を赤くしてるし。やはり人には慣れてないか?いや、慣れるとかそれ以前の問題だなアレ。訂正、女の子が密着すると恥ずかしいらしい。
「んー・・・・、とりあえず、髪切るか」
「えっ」
それを聞くとキプムはさらに警戒を強めたようだ。まあ、髪を知らない人に切られるのは嫌だよな。しかも一応女の子だし。
しかし、今のキプムの黒髪は腰まで不自然に伸びていて、変なのだ。
「いや、大丈夫だって。今の方が変だし」
「・・・・ソーラ、さんは優しそうだけど・・・・・・」
ゆっくりとこちらにやってきた。俺に背中を向けるとそこにあったイスに座った。
手グシで多少整えていると、不安そうにこっちを見てくる。
「大丈夫だって。どんな髪型がいい?」
少しだけ黙って、こう言ってきた。少し体が固まっているが・・・
「肩より、下。後ろ髪は長くしてほしい」
「ん、わかった」
手グシで整え終わると、手元にあった小さいナイフで髪を切っていく。
さっき固まったのはおそらく、髪に孤児になる原因か何らかのコンプレックスだろう。前髪を切るときに顔が強張っていて、目には涙のしずくがたまっていた
「・・・・ん、これでいいだろ」
髪を切り終わると、不安そうにおそるおそる自分の髪を触っていた。あちこち触って、おかしい所は無いかを確認しているようだ。まだ不安そうな表情してるし。
「ソーラって、ほんと何でもできるよね。手先が器用って言うか・・・・」
「お兄ちゃん、万能だからね。髪も切れたんだ。うまいし」
さっきから見てた二人が、それぞれの感想を言ってきた。
まあ、孤児院に居るとほんと何でもするしな。ナイフでするのは初めてだが。
キプムは確認を終えたのか、俺のほうへ振り向いた。
「一応、お礼。・・・・・ありがと」
「ん、どういたしまして」
お礼を言ってくれた。そう言ってくれるとこちらもありがたい。
そして安心したようで、すこし笑っていた。目はすこしだけ和らいだ。
「すごい綺麗に切れてる・・・・・お母さんみたい」
「そっか・・・・。いつもお母さんに切ってもらってたんだな」
「うん」
それでさっき固まったのか。
「で、またこれなんだが。どうする?」
今、キプムについてなんだが。
1.キプムを連れて行く。
しかし野宿とかあるし、この子の心身ともに持ちそうにない。なにより、危険だ。そして王都などで暮らすにもそう簡単にいくものか?
2.孤児院に預ける。
コレを提案したらキプムが「あそこは嫌だ」と言いながらこっちを見てきた。若干泣きそうになっていたのでボツ。
3.親戚を探す。
しかしキプムによると、どの親戚も裕福ではない為、自分を養っていけないとのこと。なにより不可。
「どれもダメか?」
「一緒に行きたい。・・・・ダメ?」
「んん~・・・・」
できればそれはオススメできない。この子の精神が、いやそれより体が持たないと思う。
まあ、そんな事を言っても首を横に振るだろうから無駄だ。
「孤児院は?」
「ヤダ・・・・。知らない子、居るんだもん」
「それはいつでもそうだが・・・・」
自分がずっと居たところは、知らない子沢山居たんだがなぁ。いつも明るかったから、何であそこが嫌かイマイチわからん。
◇◇◇
次の日の朝。
「結局、こうなるのか・・・・」
「ソーラ、さん。どこ行くの?」
結局キプムは連れて行くことになった。
最終的に、正面から目をうるうるにして、「ダメ?」とか聞いてくるので、ついに折れてしまった。
「ソーラ、どうしよっか?」
「お兄ちゃん。次はどこ?」
この二人も反対しないし、むしろ歓迎している。危険ってことをわかってるのか?魔術すら使えない子を一緒に連れて行くのに危機感がないというかなんというか。
魔物以外にも危険が結構あるぞ?精神面で。
しかしコレを言っても「大丈夫」と意地を張るので、無意味。
「ああ、うん・・・・。このまま行こう」
もう、コレでいいのか?この子、大丈夫か?
◇◇◇
「さむい・・・・・」
「だから言ったんだ、ついて来ない方がいいって」
現在、夜。野宿中だ。
そんな中、キプムは「さむい」と言い始めた。町は暖かくても、風を阻む壁がなかったらかなり違う。すごいさむいのだ。それの心配もして「来ないほうがいい」と言ったのに・・・・・。
「すぅ・・・・すぅ・・・・・」
「ん、」
しばらくすると寝てしまった。おそらく慣れない事があって疲れたんだろう。
「あ、寝ちゃったの?」
「ん、そうみたいだ」
トルナロがこっちに近づいてきた。
「あ、土と水の香り・・・・葉っぱの匂いもするね。この子、森の匂いがする」
「え、そんなのわかるのか!?」
トルナロによると・・・・
キクから魔力コントロールを教えてもらい、押さえること以外はすべてできた。その時に『強化魔術』という物を教えてもらったらしい。
トルナロの使う強化魔術は、魔力で肉体を活性化する物らしい。そして、鼻を強化すると匂いが正確にわかる、というものだ。しかもトルナロは魔力の量が膨大なのでその魔力の分強化が強まり、普通の強化ではわからないほどの微かな匂いもわかってしまうのだ。
で、キプムにわずかに残っていた森の匂いが嗅げたと。
「ていうか、また森か・・・・。そしてトルナロ、なんで鼻強化してるんだ」
「え?魔物が近づいてくることに気づくのに、匂いは便利だよ?」
ああそう。
しかし、また森か・・・・吉か凶か、どっちだ?
◇◇◇
あれから、一週間。
トイル街という街にやってきた。そして、相変わらず・・・・
「ふぁっ・・・・人が・・・」
「ビクビクしてたらキリがないな・・・・」
相変わらず、キクは人ごみが苦手である。
「キクは大丈夫なの?」
「ん、問題は・・・・無い。それはそうと、お前は随分野宿になれてたな」
「始めのほうは通路で野宿だったからね。慣れるのは楽だった」
「慣れに楽も苦も無いと思うけどな・・・・」
キプムも着いてきたままだ。慣れたらしい。戦闘に弓で参戦していたこともあったな。
そして、キプムから色々話を聞いた。元々、森の小屋に両親と住んでいたらしい。動物を狩ったり、薪を売ったりして生活していたらしい。そんな生活の中、デカイ魔物に襲われた挙句、冒険者などに捕まりそうになったらしい。気づいたら町の中に逃げ込んでいて、両親はどうなったかわからないらしい。
二週間が経ちそうな時、俺達に会って着いてきたということだ。本人は口にしないが、おそらく両親は無事ではないと察しているようだった。
「あそこ行ってみよキク君。人が少なそうだし、その服、そろそろ変えたほうがいいよ」
「うん・・・・」
ここでトルナロ、キクと分かれる。さて、どこへ行こうか。
うろうろしていると、キプムが歩みを止める。鍛冶屋の前だった。『鍛冶屋エイク』という名前だ。
「鍛冶か・・・・。最近してないな」
「ソーラさんは、鍛冶屋なの?」
「ん。それに魔術工業者でもある」
「へぇ。ソーラさんは、作る側の人なんだね」
「興味あるか?なにか作る事に」
「うん。いままで、ただ売るだけだったから・・・・」
なにか作ることに興味があると。なんか、教えてやってもいいかな。
「入ってみるか?」
「え・・・でも、冷やかししたら怒られるかも・・・・」
「いや、ちょっと欲しい物もあるし」
そう言って店の中に入っていった。台が置いてあり、その上に鉈、鋏の他にナイフなどさまざま生活用刃物がある。壁には数本の剣が掛けられていて、その下の籠には剣が詰められていた。奥にはカウンターらしき物があり、そこのイスに40、いや50歳だろうか。大柄なオヤジが座っていた。短髪の白髪で、厳つい顔をしている。黒い目には強い光が宿っており、それでいて優しそうな目つきだ。
そのオヤジは、俺達が店に入ってきたら「いらっしゃい」と言った。ちらっとこっちを見て、「なんか探してるか?」と聞いてきた。
「ん、ちょっと探してるものがあって。すこしうろうろします」
「そうか。気が向いたら買ってくれ、兄ちゃん」
そういって、俺は探しているものを探し始めた。キプムはそこらで生活刃物を見ている。鉈などを見て、「すごい・・・」と呟いている。・・・・すごいって、あの子、わかるのか?
「嬢ちゃん、わかるか?」
「えっ・・・、なんとなく」
「どんな風に?手に持ってもかまわん」
「・・・・なんだか、他のよりずっしりとしてて、しっかりとこう、なんていうか・・・・」
「「ふむ・・・・」」
俺とオヤジで感心した。直感で、しかもほぼ素人だろう。しかし、すごいとわかっているのだ。
俺達鍛冶屋から見ると、キプムの手にある鉈はとてもいい品だ。見ただけでわかる。かなり安定した形になっていて、重量感はあるだろうが薪など木を断つにはちょうどよい。おそらく、他にも工夫などがあるだろう。
「・・・・嬢ちゃん、鍛冶に興味はあるか?」
俺が感心していると、オヤジが口を開いた。
しかも、オヤジの意図がこの一言でわかった。
「・・・・あります」
「そうか。嬢ちゃん、俺のところで鍛冶屋の修行をせんか?」
「えっ!」
やはり。オヤジは弟子にするつもりだ。
「おい、そこの兄ちゃん。アンタ保護者だろう?どうか、この子を預からせてはくれんか?」
「キプムがいいなら」
俺は即答した。
その事に驚いたのか、オヤジは目を見開いてこちらを見てきた。
「・・・・随分と、あっさり言うな」
「キプムに才能があるのは、さっきの鉈でわかった。他の鉈とあまり変わらないのに、あの子は安定した形をしていると見抜いたんだ。その天然の才能を使わないのはおしい。キプムも興味が強いらしいし」
「なるほど・・・・。同業者か」
そう言って、親父はキプムに振り向いた。
「キプム、って呼ばれてたな。どうする」
キプムは、こちらをちらりと見た後、少しうつむいて、
「弟子に、なります」
と言った。
「よし、弟子確保だ。ありがとな、兄ちゃんとキプム」
「え、どう致しまして・・・・?」
「はっはっは!礼儀がある子だな。しかし、いいのか?兄ちゃん。今の時代は鍛冶が廃れつつある。あの魔術工業でな。弟子は確保したほうがいいんじゃないか?この子、自分で鍛えればよかったってえのに」
「俺はその魔術工業もやっているんだがな。副職だが」
「どういうことだ?」
「俺は、魔術鍛冶屋だってことだ、オヤジ」
「む、なるほど」と呟いて、オヤジは顔をあげた。
「とりあえず、預からせてもらう。俺の名前はエイクだ」
「双羅だ。その子をよろしく頼む」
「ああ、まかせとけソウラ」
む、このオヤジ少し発音がうまいぞ。俺の名前を伸ばさず言ったな。
「あ、えっと・・・・・次に会う時は、私、鍛冶屋だから」
「ああ、がんばれキプム。次に会う時は、鍛冶屋だからな。約束したぞ」
「うん!私、がんばる!」
今まであまり見れなかった笑顔、しかも、心からの笑みだ。
部活が忙しくなっていく・・・!
ということで、更新が遅れるかも。




