相談を受ける者は時として相談者よりも深刻な悩みを持つことがある――後編
一昨日、昨日と衝撃的な告白を聞いたせいで眠ることが出来なかった。
おまけにお隣の家の複雑な事情を知ってしまったせいで家から出るのも億劫だ。
高校に登校する時お隣の家の旦那さんに出会ったが、挨拶してくる旦那さんに軽蔑の目を向けて「近親相姦ロリペド野郎!」と罵倒しておいた。
その際旦那さんが否定の言葉も吐かず、僕に怒るまでもなくただただ慌てていたのが僕が聞いた話が真実だということを示していた。
今後お隣の家との近所付き合いを辞めるよう家族全員に警告しておく必要があるだろう。
そんな事を考えながら自宅に帰り自室の前まで行く。
扉をほんの少しだけ開けて恐る恐る中を覗き混むが誰もいない!!
良かった!!さすがに今日も誰かがいたら僕は二度と立ち直れない所だった。
夕飯まで眠ろう。もしかしたら一昨日、昨日の出来事も目覚めたら無かったことになるかもしれない。
ベッドに入り眠気に身を任せるとウトウトと心地のいい感触が僕を襲う。
だけど僕が大人しく眠ることは出来なかった。
「ねえー?ちょっと相談したいことがあるんだけどいい?」
「何だよ姉ちゃん?僕今スッゴク眠いんだけど……」
「いいじゃない少しくらい。たまにはお姉ちゃんの相談に乗ってよ。お願い!」
姉ちゃんも弟、妹同様にヒト科美形目美女種に属する人間だ。
姉ちゃんは明るくて社交的で面倒見もよく、僕も幼い頃から姉ちゃんの世話になっている。
だから高校生になった今でも姉ちゃんに強く出ることは出来なかった。
「はぁ~。わかったよ。ちょっとだけだからね?」
実は言うと『相談』という単語を聞いた時点で全力で逃げ出したかったが普段から世話になっている姉にそんなことは出来ない。
それに姉には彼氏がいるのだ。間違っても近親ヤンデレ野郎や近親相姦上等変態小学生のようなディープな相談内容ではあるまい。
というか弟と妹のせいで僕のハードルが大分下がった。何を聞かされても驚かない自信がある。
「実はさー、お隣の光ちゃんに告白されたんだよね……」
「驚愕のあまり腰が抜けちゃったよ!!もう何なの!?お隣の光ちゃんはどうしちゃったの!?僕には彼女のことが欠片も理解出来ないよ!!」
「まああたしも満更でもないんだけど、一応彼氏いるし?」
「満更でもないのかよ!!知らないかもしれないけど光ちゃんは女の子だよ!?」
「知っているわよ、そんなこと。あたし"バイ"だから女の子もウェルカムなの」
兄弟の中で唯一まともだと思っていた姉の知りたくもない異常性癖を知ってしまった……
いや、まてまて。同性愛者が認められている日本社会だ。男も女も好きってだけで異常と言うのは行きすぎだよな。
広義的に見れば人間愛みたいな?
弟や妹のように近親者を好きにならないだけマシか。
「まあ光ちゃんの告白は断るつもりだけどね。それよりあたしは妹のほうが好みだし。たまに見せるあの子の無防備な姿を見ると襲いたくなるのよね」
「あんたもかよ!!もう僕の兄弟は何なの!?近親愛者の一族なの!?それとも美形になると血が繋がった人しか好きになれなくなるの!?だったら平凡な容姿に生まれて良かったよ!!」
「こら!お姉ちゃんに向かってあんたとか言うんじゃありません!」
「そう言う問題じゃないからね!?」
ここ3日間は衝撃の連発だ。今までは理想とすら思っていた僕の兄弟達が変態の集まりだった。
これで僕がひきこもりになったら絶対に姉ちゃん達のせいだ。
「ま、まあ姉ちゃんの性癖はともかく……無視したいのに無視出来ないほど強大な事実だけど渾身の力でスルーするとして……姉ちゃんには彼氏がいるんだから妹を襲うようなことはないよね?」
「……………正直自信がないわ」
「嫌ー!!おまわりさーん!!このインセスト&バイロリコンを早く刑務所にぶちこんでー!!」
「待ちなさいよ。そろそろ我慢が出来なくなりそうだからあんたの所に相談に来たんじゃない。あんたから妹にあたしの前で無防備な姿を見せないように然り気無く忠告してよ」
「うん、わかった。妹には姉ちゃんと絶対に二人きりにならないように言っておく。というか僕が命をかけても二人きりにはさせない」
薬物を使って弟を逆レイプしようとする変態でもあいつは僕の可愛い妹だ。
兄として守ってやらないといかん!………その敵が尊敬する姉だというのが悲しいところだが。
「姉ちゃんには彼氏がいるんだからさ、妹のことは忘れて彼氏と仲良くしてなよ」
むしろ妹のことは忘れろ。もう彼氏と同棲しちゃえばいいじゃん。
「ええーでもー、彼氏よりは妹の方が好きかな。あの幼い体が魅力的よね」
ああーこのロリコンマジでどうしよっかなー?
いっそ弟をけしかけてマジで監禁させるか?
こいつがいなくなれば少しは世の中も良くなるんじゃないかな。
「あたしだって我慢しているのよ?でも気が付けばついつい妹のことを目で負っていることがあるの。ほら、このボールペン型小型カメラもネットで注文したの。これでいつでも隠し撮りが出来るのよ?」
「今すぐそのカメラを僕に渡せや!このロリコン盗撮バイ女が!!」
その後、抵抗する姉から無理矢理ボールペン型小型カメラを取り上げ部屋から追い出した。
勿論、カメラは二度と使えないようにガムテープでグルグル巻きにしておいたのは言うまでもない。
×××
一昨昨日、一昨日、昨日の出来事で今まで僕が家族に抱いていたイメージが激変した。
今日、高校から帰宅した時にお隣の光ちゃんと会ったが僕はそっと目を逸らすことしか出来なかった。
今僕の目の前にはガムテープでグルグル巻きのナイフ・ガムテープでグルグル巻きのバイアグラ及び睡眠薬・ガムテープでグルグル巻きのボールペン型小型カメラの3つがある。
これらをいずれもネットで注文したというのだからネットは恐ろしい。暫らくあの変態兄弟共がネットを使えないように何らかの対処をすべきだろう。
それにしても取り上げたはいいがこれらの品をどうやって処分しよう?
もし親に僕が捨てている場面を見られたら僕こそが変態だと勘違いされかねない。
何せあの変態兄弟全員の本性を知っているのは多分僕しかいないのだ。これからのことを思うと頭痛がしてくる。
気分を変えるためにリビングに行くとそこには僕の頭痛の原因が勢ぞろいしていた。
妹を膝に乗せてテレビを見ている姉・姉の膝に乗りながら一生懸命弟に話しかける妹・そんな二人を微笑ましげに眺める弟。
3人の整った容姿も相まってその光景は絵画になってもおかしくないほどの美しい光景だった。
でも僕はこいつらの本性を知っている。
僕の視点から見ればこの光景は
幼女を膝に乗せて興奮しているロリコン盗撮バイ・隙あらば兄の貞操を狙っている性欲過多小学生・姉を監禁するほど愛しているヤンデレ男
の3人が互いに互いを狙っている光景に過ぎない。
僕は今後どういう風に兄弟達と接していけばいいのだろうか?
誰か僕の悩みを聞いてください!!