相談を受ける者は時として相談者よりも深刻な悩みを持つことがある――中編
昨日は出来れば一生知りたくなかった弟の本性を知ってしまったせいで寝不足だ。
目を瞑れば弟が姉ちゃんを監禁してその彼氏をナイフで刺し殺すシーンが浮かんでくるのだ。
おかげで家でも学校でも悪夢のせいで眠ることが出来なかった。せめて今日はグッスリ眠りたい。
大あくびを連発しながら自宅に帰り自室の前までたどり着くと中に誰かがいるのがわかった。
嫌な予感がして全力で逃げ出したかったが、あのヤンデレ野郎の『姉さんを監禁したんだけどどうしよう?』とかいう相談内容だったら一刻も早く色々な対処をしなければならないから逃げ出す訳にはいくまい。
急激に重くなった足をえっちらおっちらと動かしながら部屋に入ると、僕の予想に反してそこにヤンデレ近親愛者はいなかった。
「あ、大お兄ちゃんおかえり!!待ってたんだよ!」
そこにいたのは小学6年生の妹だった。
以前に言ったかもしれないが、弟と同様に妹はヒト科美形目美少女種に属する人間だ。
小学生ながらもそこらのアイドルが裸足で逃げ出す程の美少女であり、色気付いてきた同級生のエロガキや社会的に許されないロリコン共にとてもよくモテる。
ちなみに先程妹が僕のことを『大お兄ちゃん』と呼んでいたが、それは僕の名前に『大』の字が付くという訳ではない。
大きい方のお兄ちゃん、略して大お兄ちゃんとなっただけだ。だから妹は弟のことは小お兄ちゃんと呼ぶ。
身長で言えば弟より僕の方が小さいんだけどね……
それにしても妹が僕の部屋に来るとは珍しい。
妹は僕や姉にも懐いてくれているが、家族の中で一番懐いているのは弟なのだ。
妹は予定がなくて暇な時は大抵弟の部屋にいくはずなのに、僕の部屋にいるなんてどうしたのだろうか?
「おう、ただいま。今日はどうしたんだ?お前が僕の部屋にいるなんて珍しいじゃないか」
「うん。ちょっと大お兄ちゃんに相談したいことがあるの」
デジャヴを感じたが所詮は小学生の悩み事だ。せいぜい友達と喧嘩したとかその程度のことだろう。
間違っても昨日のような衝撃的な内容ではあるまい。
「相談したいことって何だ?友達と喧嘩したのか?」
「違うよ~!友達とは超仲良しだよ!!あのね、小お兄ちゃんを逆レイプしようと思うんだけど大お兄ちゃんに協力して欲しいの」
…………………………………………!?
今逆レイプって…… き、聞き違いだよな!小学生の女の子からそんな単語が出るはずないもんな!!そういえば最近耳掃除をしていなかったし!
右耳をほじほじ。左耳もほじほじ。よし!よく聞こえるようになった!
「ごめん。相談内容をもう一回言ってくれるか?兄ちゃん、最後の方が聞き取れなかったよ」
「もう~!ちゃんとワタシの話しを聞いてよね!!だから~、小お兄ちゃんを逆レイプするから協力して!」
「聞き間違いじゃなかった!!むしろ聞き間違いであって欲しかったよ!!だ、だいたいお前は意味わかって言っているのか!?」
「そんなの知っているに決まってんじゃん!今時常識だよ?」
何!?今の小学生ってそんなに進んでいるの!?僕が小学生だった時と大分違うよ!?
「お、お前そういう性関連の話は小学生にはまだ早いだろう!!ましてや女の子が『レイプ』なんて言葉を気安く口にしてはいけません!!」
僕の説教を妹は華麗にスルーして僕に嘲りの笑みを向ける。
「大お兄ちゃんださ~い!!今の小学生なんてセックスとかレイプとか普通に使っているよ?あたしのクラスにも童貞や処女を卒業した子だって普通にいるし」
な、何~!?高校生の僕だって童貞なのに小学生の分際で僕より先に大人になった奴もいるの!?
もう最近の小学生が怖い!!何なの!?最近の小学生はセックスやドラッグのことで頭の中が一杯なの!?村上春樹に感化されちゃったの!?
「はっ!お、お前……ま、まさかもう体験しちゃったの…………………………か?」
「あたしはまだだよ!!あたしの初めては小お兄ちゃんて決めているし!!」
「それならいいんだけどよ……いや、良くはないのか?ま、まあ弟の部分はスルーしておくとして……」
さて、この僕の予想を遥かに超えた小学生にどう説教したものか。よし。ここは危険性を訴えることにするか。
「妹よ、逆レイプは止めておけ。相手が弟だろうが誰だろうが強姦は立派な犯罪だ。それにな、友達がやっていようが何だろうが、兄ちゃんは小学生がエッチをするのは反対だ」
「何で~?」
心底不思議そうに首を傾げる妹に僕は淡々と危険性を訴える。
「万が一子供が出来たらどうするんだ?コンドームだって100%避妊出来るって訳ではないんだぞ。もし子供が出来てしまったら小学生だと学校を辞めて働くことすら出来ないだろう。それにな、小学生っていうのは男も女も体がまだ完成していない時期なんだ。体が未完成の内にそういうことをするっていうのは命に関わる危険性もあるんだぞ?」
「え~でも~お隣の光お姉ちゃんは小学5年生の時にお隣のオジさんを相手に光お姉ちゃんがリードして初体験を済ませたって言っていたけど今も健康だよ?」
光ちゃん!!また知りたくもない君の過去を知ってしまったよ……。もう僕は君の顔をまともに見ることが出来ない!!
毎朝挨拶をかわすお隣の旦那さんにもどんな顔をすればいいんだ……。娘に手を出した変態ロリペド野郎と軽蔑の目でしか見られなくなってしまったよ!!
「光ちゃんは例外だ。あの娘は僕にとっても理解出来ない存在だから彼女のことはひとまず忘れようか。それにな、逆レイプするってお前は言うけど、具体的にはどうするつもりなんだ?」
「えっと、小お兄ちゃんを動けないようにロープで縛った後に裸で迫るの!!」
お、おおう……見た目は天使のごとく可愛いのに言っていることがえげつねえ。
「妹よ、そいつは無理だ。……お前、もしかして男は裸を見せれば問答無用で勃起するとか思っていないか?」
「え?違うの?」
「ああ違う。男が勃起するのは精神的な要素が大きいんだ。いくら裸で迫ったとしても相手が好みのタイプや好きな相手でもなければ勃起、つまりは性的興奮はしないと思うぞ。ましてやロープで縛られて恐怖を感じている状況ではな。僕が見た所弟は間違いなく好きな相手じゃないと興奮しないタイプだ」
まあ、その好きな相手が大問題なんだけどな。
「僕は経験がまだないから実体験ではないが、好きな相手でも初体験の時とか緊張で勃たないことも珍しいことではないらしいぞ」
ああ、僕は小学生相手に何を言っているんだろう?冷静に考えると小学生相手に勃起のメカニズムを説明するとか警察に通報されてもおかしくない。
「そうなんだ~。知らなかった……」
「そうなんだ。だから仮に僕が協力して弟を捕獲することに成功しても逆レイプは成功しない。だから諦めろ」
逆レイプも近親愛も法律的にも倫理的にもいけないことだが、小学生はただ禁止するだけでは納得してもらえないだろう。
こうやって淡々と諭して取りあえずは弟との接触を避けさせればいいだろう。
何せ相手はまだ小学生。これからどんどん素敵な出会いがあってその内弟のことも忘れてくれるだろう。
今の妹はいわゆる『ワタシ、パパと結婚する~』という微笑ましい宣言に近い状況のはずだ。
うん!だから大丈夫!!というか、そう思わないと僕の頭がおかしくなりそうだ。
「残念……。うん、わかった。大お兄ちゃんの言う通り小お兄ちゃんを逆レイプするのは取りあえずは諦める。あ~あ、せっかくバイアグラと睡眠薬をネットで買ったのに無駄になっちゃったなー」
「今すぐ部屋に行ってバイアグラと睡眠薬を持ってきなさい!!」
その後、渋る妹からバイアグラと睡眠薬を無理矢理取り上げて二度と使えないようにガムテープでグルグル巻きにした。
取りあえずは今後妹が弟に渡す飲み物や食べ物には注意が必要だろう。
この変態性欲過多小学生がまともな大人に育つことを僕は願うばかりだ。




