第8話 赤い実。(最終話)
暖炉の前で娘の手袋を編んでいた私に、夫が手紙を持ってきた。
「ポーラさんから手紙が来てたよ」
娘は夫におぶわれてご機嫌のようだ。暑苦しく見える夫も、冬には重宝だわ。実際温かいし。
「あら。ありがとう」
レナルドの領地に引っ込んでからもう2年になる。12月。もうすぐクリスマス。
北国のここは11月ぐらいからもう、雪の中だ。
編み棒を置いて、ジャクリーヌはポーラの手紙を開いた。
【元気そうで何よりだわ。もうすぐクリスマスね】
そんな書き出しだった。
ポーラの夫になった人はあの、ロマーヌと言う子の従兄だったらしい。世の中は意外と狭い。
…秋の終わりにエミールとロマーヌの結婚式があった。そこに、10歳になると同時に、エミールと入れ替わりに全寮制のお嬢さま学校に入っていたアラベルも休暇を取って戻ってきた。真っ赤な、緩やかなウェーブの長い髪。すらりと伸びた手足。11歳になったアラベルは真っ赤なドレスを着て、真っ赤なバラの花束を抱えて会場に現れた。白い頬に赤い唇。ゾッとするほどの美しさだった。
式の時間になっても戻ってこない新郎を部屋まで迎えに行った新婦は、見てしまったらしい。エミールは膝にアラベルを抱いて、キスをしていた。それは…兄妹同士のキスの範疇を超えていた。二人は夢中過ぎて、ロマーヌが部屋の入り口でウエディングドレス姿で立ち尽くしているのも見えなかったようだ。
「エミー、おかえりなさい。待っていたわ」
「ベル…私のベル…」
ロマーヌは…エミールの机の上のハサミを手に取って…。
使用人が部屋に探しに来たときには、何もかも、赤く染まっていたらしい。
……
ジャクリーヌはその手紙を、よく燃えている暖炉に放り込んだ。パチパチと音を立てて、あっという間に灰になった。
「リーヌ?雪は払っておいたから、お散歩に行こう」
レナルドが娘の手を引いて誘いに来たので、笑って席を立った。
さっきまで雪がちらついていたのに、外はいつの間にか晴れ渡っていた。雪に反射して眩しいぐらいだ。ジャクリーヌは目を細めて、高い青空を眺める。
3人で手をつないで、雪道を歩く。
「あら、ヒイラギ?」
「ああ、クリスマスホーリーだね」
真っ白な世界に、真っ赤な実が鮮やかにうつる。
「ほんの少し毒があるからね、触らないようにしてね」
手を伸ばしかけた私に、夫が優しく声をかけてくれた。
「まあ…そうなの?こんなに美しいのにね」




