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『異世界のゴミ召喚士〜元自衛隊工作員、重機と野戦メシで限界集落を最強要塞にする〜』  作者: 月神世一


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第一章 異世界転移と限界集落ポポロ村の現場仕事

召喚とハズレスキル判定、そして一服の紫煙

 視界を埋め尽くしていた閃光が収まると、冷やりとした大理石の感触が足裏から伝わってきた。

 鼻を突くのは、古びた教会特有の白檀に似た香の匂い。

 そして――何百人もの人間が息を呑む、異様な湿り気を帯びた気配だった。

「おお……! 成功だ! 召喚の儀は成功したぞ!」

「異界より来たりし救世の勇者様だ!」

 豪奢な金糸の法衣をまとった老人たちが、歓喜に震えながら両手を天に掲げている。

 天井を見上げれば、見上げるほど高いドーム状の天蓋。ステンドグラスから差し込む光が、床一面に刻まれた幾何学模様の魔法陣を青白く照らしていた。

 その中心に立っていたのは、一人の男だ。

 赤城(あかぎ) 鷹人(たかと)、二十五歳。

 無精髭の残る引き締まった顎、日に焼けた頑強な面構え。

 身にまとっているのは、勇者に相応しい銀の鎧などではなく、油と煤でくすんだ無骨なワークジャケットとカーゴパンツ、そして泥を踏み固めるための頑丈な安全靴だ。左腕には、鈍い銀光を放つゴツい金属製の腕時計が巻かれている。

「……ずいぶんと賑やかな現場だな」

 鷹人は低く呟き、首の骨をゴキリと鳴らした。

 工業高校を卒業してから期間工で資金を貯め、世界中の紛争地や僻地を放浪し、最後は陸上自衛隊の工作部隊で少尉として泥に塗れていた男である。

 見知らぬ場所に放り出された程度で、取り乱すようなタマではなかった。

 図面通りにいかない現場など、これまでの人生で嫌というほど経験している。

「さあ勇者様、こちらの鑑定水晶へ手を! 貴方様が神より授かりし、魔王を滅ぼす天与の奇跡を我らにお示しください!」

 興奮で唾を飛ばしながら駆け寄ってきた大神官が、巨大な水晶球を差し出してくる。

 周囲を取り囲む白銀の甲冑を着た近衛兵たちも、固唾を呑んで見守っていた。

「はいはい、段取りがあるなら付き合うぜ」

 鷹人は億劫そうに息を吐き、右の手のひらを冷たい水晶に乗せた。

 瞬間、水晶が眩い光を放ち、空中に古代文字めいた光の文字列が浮かび上がる。

 神官たちが文字を読み解き――そして、その場の空気が急速に凍りついた。

「な……なんだ、これは……?」

「ユニークスキル……『リサイクルマスター』……?」

 大神官の顔から血の気が引いていく。

 ひそひそとしたざわめきが、波のように謁見の間を満たしていった。

「詳細鑑定を出せ! 攻撃力は!? 聖剣の召喚能力はあるのか!?」

「あ、ありません! 能力の詳細……『他者が不要とした物品、廃棄された物質、遺棄品および押収品を、善行によって得た対価を消費して召喚・修繕・再利用する能力』……と!」

「は……? 廃棄品……? ゴミ……!?」

 静寂のあと、爆発的な罵声と嘲笑がフロアを満たした。

「ゴミ拾いスキルだと!?」

「ふざけるな! 国庫の半分を投じた国家召喚の儀だぞ!」

「魔導の才能もゼロ! 聖剣も喚べぬただの廃品回収業者ではないか!」

「ハズレだ! とんでもない粗大ゴミを引かされたぞ!」

 神官たちは手のひらを返し、唾棄すべき汚物を見るような目を鷹人へ向けた。

 近衛兵たちの槍先が、威嚇するように一斉に鷹人へと向けられる。

「おい貴様! この無能めが! 言い訳があるなら聞いてやるぞ!」

「恥を知れ! 我が国の貴重なマナを浪費させおって!」

 四方八方から浴びせられる罵詈雑言。

 だが、鷹人は眉ひとつ動かさなかった。怒りも動揺も、そこにはない。

 ただ呆れたように肩をすくめると、ジャケットの内ポケットへ無造作に手を差し入れた。

 取り出したのは、少し潰れた紙巻きタバコの箱と、地球の百円均一ショップで買った安物のプラスチック製ライターだ。

 タバコを一本くわえ、指先でヤスリを弾く。

 ――シュカッ、カチッ、ボッ。

 静かなホールに、硬質な着火音が小さく響いた。

 揺れる小さな橙色の炎を先端に吸い付け、鷹人は深く息を吸い込む。

「ふぅーーーー……」

 吐き出された青白い紫煙が、ステンドグラスの光を遮ってゆらりと棚引いた。

 ツンとしたタバコの煙の匂いが、神聖な大聖堂の空気を容赦なく塗りつぶしていく。

「き、貴様ッ!? 神聖なる大聖堂で何を吸っている! 無礼者めが!」

「ゴホッ、ゴホッ! 煙い! 衛兵、その不届き者を直ちに捕らえよ!」

 狼狽する大神官たちを見つめ、鷹人は灰を床に落とさないよう指先で弾きながら、静かに紫煙の奥から視線を投げた。

「おいおい、ジジイども。朝っぱらからピーチクパーチクと騒ぐなよ。頭に血が昇ると血圧に悪いぜ」

「な、何だと……!?」

「文句があるなら、呼び出す前の仕様書をしっかり確認しとくこったな。図面と違う資材が届いたからって、現場で職人に八つ当たりするのは一番みっともねぇぞ」

 鷹人は説教じみた長話が大嫌いだった。

 悪党ならぶん殴るが、頭の固い発注元の老害を相手に口論するほど暇ではない。

「言葉が通じねぇなら別にいいさ。俺にとっても、こんな息苦しい現場はお断りだ。……出口はあっちで合ってるか?」

 鷹人は背を向け、安全靴の硬い足音を響かせながら、大聖堂の巨大な扉へと歩き出した。

 衛兵たちが槍を構え直すが、男の背中から漂う歴戦の獣めいた気迫に圧され、誰一人として間合いを詰めることができない。

「お、おい! 待て! 追放だ! 貴様のような無能は国外追放処分にしてやる!」

「へいへい。お達者でな」

 背広組の負け惜しみを背中で受け流し、鷹人は重い両開きの大扉を片手で押し開けた。

 外に出ると、強烈な日差しと乾いた熱風が全身を包み込んだ。

 見渡す限りの赤茶けた大地。

 遠くに連なる険しい岩山と、どこまでも青く澄み渡った異世界の空。

 大聖堂は、どうやら国境近くの荒野に築かれた巨大要塞の中にあったらしい。鷹人は砦の跳ね橋を悠々と渡り、誰に引き止められることもなく、乾いた荒野の街道へと踏み出していた。

「ふぅ……。静かでいい場所じゃねぇか」

 鷹人はくわえタバコを携帯灰皿に押し込み、大きく伸びをした。

 風が吹き抜けるたび、遠くの大地が低く唸るような音を立てる。

 その轟きは、かつて自衛隊の演習場や海外の土木現場で毎日のように耳にしていた、大型油圧ショベルや大型ダンプの重厚なディーゼルエンジン音をどこか思い出させた。

 胸の奥で、カチリと何かが噛み合う感覚がある。

「さてと……まずは現状把握だな」

 鷹人は意識を集中させ、頭の中に浮かび上がるスキルの情報画面を展開した。

――――――――――――――――――――

【ユニークスキル:リサイクルマスター】

・所持スクラップPt:0 Pt

・機能:地球で廃棄・遺棄・押収された資材・機器の召喚

※人助け、インフラ整備、社会貢献等の『善行』を行うことでポイントが蓄積されます。

――――――――――――――――――――

「なるほどな」

 鷹人はニヤリと口元を歪めた。

 神官どもは「ゴミしか出せない」と吐き捨てたが、とんでもない。

 期間工や自衛隊工作部隊で様々な機材に触れてきた鷹人にとって、「廃棄品」や「押収品」がどれほどの宝の山であるかは常識だった。

 警察に押収された新品同然の工具、工場で寸法を間違えただけの超高強度特殊合金、戦場に遺棄された大型重機や発電機――。

 ポイントさえ貯めれば、この世界に存在しない地球の近代技術を丸ごと現場に投入できるということだ。

「ま、要するに『真面目に人助けして現場を回せ』ってことだろ。分かりやすくて上等じゃねぇか」

 ぐうぅぅ――と、情けない音が腹の底から響いた。

 流石に腹が減った。召喚騒ぎで昼飯時を完全に逃している。

 ポケットを探ると、転移直前に作業着の胸ポケットへ突っ込んであったサバイバル用のアルミ小袋が出てきた。中に入っているのは、地球の乾燥ニンニクのスライスだ。

「よし、景気づけにいくか」

 道端の手頃な平たい岩の上に腰掛け、鷹人は再び100円ライターを取り出した。

 小石の上に乾燥ニンニクを一片乗せ、親指でライターの火を灯す。

 ――ボッ、チリチリチリ……。

 小さな炎で炙られたニンニクが、パチパチと音を立てて脂を滲ませる。

 立ち上る、焦げたニンニクの猛烈に香ばしい匂い。

 ガツンと鼻腔を殴りつけるようなスタミナの香気は、世界中どこの現場へ行っても男たちの活力を呼び覚ます最高のアロマだ。

「あむっ……ん、うめぇな」

 カリカリに焦げた破片を指でつまんで口へ放り込む。

 濃厚な旨味と刺激的な苦味が舌の上に広がり、胃袋が熱く脈動した。

「言葉が通じなくても、拳と美味いメシ、あとはエンジン音があれば世界中どこでも生きていける」

 それが、赤城鷹人が世界を放浪して叩き込んだ唯一にして最大の信条だった。

 空を見上げれば、地平線の彼方に乾いた砂煙が上がっているのが見えた。

 馬車の轍が続く街道の先だ。

「仕事のない現場なんざ、この世にねぇよ。道がねぇなら、作ればいいだけだ」

 立ち上がり、安全靴の紐をキュッと締め直す。

 左腕のゴツい金属製腕時計の重みを確かめながら、現場の兄ちゃん・赤城鷹人は、異世界の大地を力強く踏みしめて歩き出した。

読んでいただきありがとうございます。

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