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二話 伝承について

 ——私の実家、黒桐家は大昔に桐ヶ山村の長をしていて、山の神様を祀ったことがあるらしい。


 今回の帰省の目的は桐ヶ山の神様について調べることだ。

 オカルト好きな先輩が、調べたい知りたいレポートが欲しいと学食をひと月分おごることを条件に依頼されたのだ。私は正直興味がなくてよく知らなかったから、ちょうどいい。


 いきなりおばあちゃんに聞くわけにもいかず、とりあえず弟の悠斗に聞くことにした。


「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」

「帰って来て早々どうしたんだよ」


 弟の悠斗は高校生。比較的周りの子に比べると地味というか模範的というか、真面目できっちりした性格だ。染めたことのないちょっと色素の薄い髪、帰宅部のせいか日焼けのない白い肌、今も勉強机に向かっていたようだ。夏休み初日から勉強するとは、我が弟ながら真面目で偉い子だ。あとで、夜食の共犯者になってもらおう。


「桐ヶ山の神様について調べててさ」

「あんなにおばあちゃんに教えられたのに忘れたのか!?」

「え、だってあんな、伝承とか聞かされてもピンとこないし」


 心底呆れた目で見てくる悠斗。


「じゃあ悠斗はわかってるの?」

「当たり前だ、山神様のことだぞ。俺たちの先祖が祀った神様なんだから、失礼のないように相手のことを知っておくのは大切だろ」


 そう言うと、悠斗は適当な紙にサラサラとメモを書き出した。


「まず、元々は悪い蛟が桐ヶ山の上の方にある湖に住み着いたのが始まりで……」

「ミズチってなんだっけ……?」

「蛇みたいな姿の神様だか……なんかそういうやつだよ」


 悠斗が蛟の文字の上に、蛇の絵を描いてくれる。

 けっこうかわいいな。絵のせいかツチノコみたい。


「えっと、確かその蛟がご飯とかどんどん奪ってきて、めっちゃ困ってたとか聞いた気がする!」

「そうそう、んでしまいには村を洪水で沈めてやる、嫌なら村長の娘をよこせって言ってくるんだ」

「え~~、なにそれ最低!」


 悪い蛟へ最低、ほんとそれみたいな盛り上がり方をしていると、部屋の扉を叩く音がした。


「悠斗くん、お茶淹れたけど飲む――」


 ひょいっと部屋を覗くのは、怜司だ。


「——あ、涼香ちゃんもいた。オレンジのゼリー作ったんだけど食べる? 向かいの上野さんからオレンジもらってね」

「食べる食べる」

「僕もお願いします」

「じゃあ、はいこれ」


 二人分の紅茶と冷えたゼリーがお盆にのっている。


「怜司さんが食べるつもりだったんじゃ……」

「いいのいいの、俺のはまだ冷蔵庫にあるから」

 と、ひらひら手を振って去っていくのを悠斗と見送って時計を見ればちょうどおやつの時間だった。


「怜司さんって本当すごいよね……お菓子も作れてご飯も作れて優しくて頼りになって……ほんと、すごいなぁ」

「あいかわらず姉ちゃんは、怜司さんのこと好きだよな。大学で彼氏とか作らないの?」

「怜司おに……怜司さん以上にいい人がいるわけないでしょ~~。なんだっけ、いとこなら結婚できるんだっけ」

「あのなぁ、怜司さんはそもそも親戚じゃないから」

「え?」


 そこからかよ、と悠斗の目が更に冷たくなる。


「血縁関係とかなくて、ただ黒桐と縁があって居候してるだけ」

「あれ、そうだっけ……?」

「姉ちゃん大丈夫? なんか怜司さん絡みのことだけ恋のせいで吹っ飛んでない?」

「う~~ん、そうかも」


 なんせ小さい頃に、川に落ちた時に助けてもらったのが始まりで、自分より年上のお兄さんなんて親戚にいなかったから、顔合わせの時は目も合わせられなかった。

 そのあと、一人で鳥を追いかけて近くの川に行って、水底がキラキラしているのを見ていたら足を滑らせて川へ真っ逆さま。でも、すぐに怜司が引き上げてくれた。

 体感としては一分くらいの出来事だと思うんだけど。

 そこで姫抱きされて、初めてしっかり見た顔に一目ぼれしてそこからべったり。


 悠斗が生まれても変わらず、大学生になって独り暮らしをするまで、怜司お兄ちゃんと呼んでは構ってもらっているという感じで。

 悠斗から見れば、物心ついた時から姉が家にいる大きいお兄さんにべったり甘えているという状況だったせいか、慣れたものだ。


「はぁ、このゼリーおいしい」

「うん、さわやかで食べやすい」


 すごいな、と言いながら悠斗はゼリーを完食。

 店とかやらないのかなと言いながら私もしっかり残さず食べる。

 そして、さっきの絵を指さして悠斗に続きを促した。


「でさ、話の続きなんだけど、その蛟って倒したんだよね」

「ああ、うん。行き倒れの男がいて、そいつが自分は神様なんだって名乗って退治したらしいよ」

「なるほど、その自称神様がうちの山神様ってわけね」


 そりゃあそれだけ困っていたところに現れたんだから、村で神様として祀ろうという気にもなる。それだけ強い存在と仲良くできなければ、あっという間に小さな村なんてすぐに無くなるだろう。

 強くて頼りがいのある存在がいなければ、安心して暮らせない時代だ。

 私が村長だったら、何がなんでもいてもらう。


「あーあ、神様山神様……怜司さんと付き合わせてくださぁ~~い」

「欲望丸出しすぎ」

「こういうのは、素直に正直に願うもんなの」

「で、参考になった?」

「う~~ん、おばあちゃんにも聞いてみようかな」

「怒られるぞ……マジで」


 とは言ったものの、聞いたら長い説教をされそうなので、あとで怜司お兄ちゃんにきいてみよう。黒桐の居候とはいえ、さすがに私よりは知っているだろう。



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