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外伝:神様とポンコツの、気まずすぎる反省会(※莉音のベッド上にて)



 第一章の最終話『不器用な守護者』をサイトにアップした。

 その後自室で再度確認。

 深夜の自室。ノートパソコンの画面に『公開』の文字が表示されている。


「…………ふぅ」


 喫茶店での激しい執筆会議バトルから数時間。

 夏目さんが組んでくれた完璧なロジックを、私のパッション(情熱)で、これ以上ないほどエモい文章へと昇華させた。

 文句なし。最高の第一章完結だ。


 私は大きく深呼吸をして、ノートパソコンを閉じた。

 そして、その勢いのまま、自分のベッドへと倒れ込んだ。


 ……静寂。

 外の雨音も止み、部屋は不気味なほど静かだ。

 その静寂が、私の心の奥底に封印していた『ある記憶』の扉を、容赦なく抉じ開けた。


「…………っ、ドガッ!!」


 私は、抱き枕を渾身の力で殴り、その中に顔を押し付けた。

 心の中で、絶叫がこだまする。


(なんで、なんで黙ってたのぉぉぉぉぉぉっ!!)


 喫茶店で夏目さんの胸ぐら(ネクタイ)を掴んで絶叫したツッコミを、自宅で再演。


(私の、私の神様! 私が毎日サイトを開いて、聖典バイブルのようにボロボロになるまで読み込んでいた『文月ソウ』先生が……っ! なんで、私の隣に座って、欠伸を噛み殺しながら私のガバガバなプロットを赤ペンで添削してたのよぉぉぉぉっ!!)


 ドガッ! ドガッ!


「やめろ、やめてくれ……俺だって死にたいんだよ……」


 喫茶店で頭を抱えて呻いていた夏目さんの顔が、フラッシュバックする。

 違うわよ、夏目さん! あなたは恥ずかしくない! あなたは神様だもの!

 死にたいのは私よ! 原作者本人に向かって「見る目がない」って説教した、私の方よ!


(ああっ、もう! あの日、本屋で出会った時! 私が『文月先生の文章はすべてが完璧に計算された芸術作品なのよ!』って、目を輝かせてドヤ顔で語った時! 夏目さん、どんな顔して聞いてたのよぉぉっ!)


「回収し忘れの伏線を無理やり繋げただけだ……」


(神様の口から、そんな夢を壊すような真実、聞きたくなかった! うわぁぁぁぁぁん、もう一生お嫁に行けない!)


 私はベッドの上で、のたうち回った。

 恥ずかしさで取調室の壁を素手で破壊できるどころじゃない。今の私なら、羞恥心で新しい密室トリック(ロジック)を一つ構築できる自信がある。


「…………はぁ」


 ひとしきりベッドでのたうち回った後、私はようやく静かになった。

 顔はまだ、茹でダコのように真っ赤だ。


 枕から顔を離し、天井を仰ぎ見る。

 羞恥の波が引いた後、喫茶店での最後の会話が、今度は優しく、甘い熱を持って、心に染み渡っていく。


「売れなかったから、打ち切られた」


「俺は、その幻想を壊したくなかったんだよ」


 夏目さんは、自分の過去を「幻滅する残酷な現実」だと言った。

 でも、私は……。


「誇らしい気持ちよ」


 あの日。

 私をテロリストの疑いから救うために。

 大人たちと、生徒会役員たちが並ぶあの厳粛な会議室で。

 夏目さんは、自分が隠し続けてきた『文月ソウ』というプロの誇りを、自ら暴いてみせた。


 自分の黒歴史(打ち切り)を、私の尊厳を守るために、躊躇なく犠牲にしたのだ。

 「自分の担当作家が、筆を折らされそうになってんのに、黙って見過ごす編集者がどこにいるんだよ」


「……バカみたい」


 私は、自分の鞄から、あの『創作ノート(絶対に見るな!!)』を取り出し、胸に抱きしめた。


「夏目さん、本当にバカね。……打ち切られたとか、売れなかったとか、そんなこと、どうでもいいのに」


 あなたが自信を失っていても、筆を折っていても。

 あなたの紡いだ物語が、私の心を震わせた。その真実は、絶対に消えない。


 ……そして。

 私の『神様』が、私の紡ぐ物語を、私の隣で、私のために見てくれている。


 それは、底辺WEB作家だった少女にとって。

 あるいは、完璧な令嬢という仮面に疲れていた生徒会長にとって。

 この世のどんなサクセスストーリーよりも、どんな日間1位の数字よりも、甘くて、特別な幸福感だった。


(……夏目さん。いつか必ず、あなたを超える『神作家』になってみせる)


 喫茶店での宣戦布告。

 それは、私の憧れの神様への敬意であり、そして対等の『共犯者』としての決意だ。


(だから、これからも私の『担当編集』として、隣にいてよね。……私がトップランカーになるまで、絶対に逃がさないわよ?)


「読者の度肝を抜く、完璧な絶望を作ってみせろ」


 そう言って苦笑いした、私の『担当編集』さんの顔を思い浮かべながら。


 私はもう一度、ノートを広げた。

 「完璧な生徒会長」の仮面を外し、ただの「一人の作家」として。

 私の神様の、その期待に応えるために。


 雨上がりの夜空に向かって、私は密やかに、最高の笑顔でキーボードに指を乗せた。

 

これで1部完結です

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


本作を応援してくださる方は、ぜひブックマークや下の評価【★★★★★】をいただけますと幸いです。


次回お楽しみに。

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