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転装

誤字あったら教えてーー

 何度も「そろそろ帰る」「そろそろ出ていく」と言いつつも一向に部屋から出ることはなかった。結局、部屋の隅のあったソファーで夜を過ごした。


「んぁーー」


 寝返りを打つ。


 その拍子にソファーから落ちた。「ゴン」と大きな音を立てて、朝が始まった。


「うがっ!」


 間抜けな声を上げて目が覚める。髪はボサボサで、口からは涎を垂らしている。


「ここは……」


 怠けた思考を巡らさて、昨日のことをなんとか思い出す。


「はぁ!ここ、あのガキの部屋!」


 体を勢いよく起こした。昨日の痺れは嘘のように消えていた。

 近所迷惑になるほどの大声で叫んだが、返ってきた返事は、隣の部屋からの壁ドンだけだった。(あき)の気配はない。


「この部屋、何かあんのかな?」


 昨日はあまり意識して部屋を見ていなかったが、とても整頓されていて無駄なものが無かった。


「ガキのくせに、私より部屋きれいじゃない。なんかめっちゃムカつく。」


 燈米(ひより)は再度見渡すが面白いものは何もなかった。その時、お腹が「ぐー」となったのでキッチンに向かう。


「勝手に使っていいわよね?」


 食材を手に取り、迷う素振りを見せながらも、手捌きに一切の迷いはなかった。食材は揃っており簡単なチャーハンを作ることができた。


「いただきます」


そう言ってチャーハンを食べる。絵面的には、成人女性が未成年の少年の家で勝手に料理を作り、勝手に食べている。これは普通なのだろうか?さも当然かのように、子供の金で飯を食べているこの女は普通ではないだろう。


「あいつ、どこ行ったんだろ?勝手に出て行っちゃっていいの?」


そう言ってみただけで、もう靴を履き始めている。


外へ出ると、昨日の戦いが嘘のように、人の活気が溢れていた。転生者達が暴れれば非転生者達は文明ごと滅びただろうがそれは起こらなかった。


しばらく歩き河川敷についた。道の傍に腰を降ろす。


転生者達は暗黙の了解として、「非転生者に転生者であることを伝えない」「非転生者の生活を脅かしてはならない」という風に、二つの決まり事がある。だが絶対ではない、それは転生者の自主性によって、守られているものだ。守らないのが悪ではない、守ることが善でもない。


「早く来いよーー」


「待ってよー」


男の子が道を走り抜けてそれを少女が追いかける。


この子供達の声も気分次第で簡単に壊せる。燈米は自分の手を見つめる。燈米は今まで守る側に常に立ってきた。それは「見捨てたら寝付きが悪くなる」といったなんともいえない理由だが、悪いことではない。


「守らなきゃな」


子供達を目で追いかけながら、決意を固める。その時、後ろから足袋の音がした。


「お主さんは、このようなところで何をしておいでなんし?」


振り返るとそこには、着物姿の場に似つかわしくない小刀を腰に刺した、女が立っていた。


「あんた、誰?」


燈米は警戒した。決意を固めた途端に、銃刀法違反の女が、目の前に現れたのだから当然だ。


「わっちは瞳次 久(めなみ さき)と申す者でありんす。以後、お見知り置きなんし。」


瞳次は胸に手を当てて言う。風が止んだ。


「瞳次っね。私は―」


「知っておいででありんす。燈米さんでございましょう?」


瞳次が口元を裾で隠し、食い気味に答えた。


燈米が怪訝な顔を浮かべる。知らない人間に、名前を知られていたのが嫌だったのか。危険人物に認知されているのが嫌だったのか。恐らく両方だろう。


「なんで知ってのよ。」


ジト目になりながら聞く。


「それはドンスカドンスカと、どえらい音を立てておいででありんしたゆえ、気にかかるのも当たり前でございんしょう?」


「グサ」っと燈米の心に刺さる何か。「うぐ」っと声を出したがすぐに立ち直る。


「それがどうしたのよ!転生者同士の戦いなんだから当然でしょバカ!」


「立ち直り」ではなく「開き直り」だった。


「誠に、おかしな御仁でありんすな。」


瞳次がクスクスと笑う。それを抑えるように口元を隠すが、一切の抑えれない。


「なんか!あんた!めっちゃ嫌い!」


燈米は顔を真っ赤にしなが指を刺す。


「あらあら、もう嫌われてしまいんしたかえ?」


そう言いながらも未だにクスクスと笑い続ける。改善する気はないようだ。


「ところで主さん、いかようにして逃げ延びなさんした?」


先程までの穏やかな雰囲気が凍りついた。

「それは」と燈米が口に出すが実際どうやった煌が燈米のことを助けたのか分からない。


「不思議でなりんせんでした。わっちが探しても、動いたかどうかさえ分かりんせんでしたのに、その場に主さんはいらっしゃいませんでしたゆえ。」


数秒の沈黙が流れる。


燈米は悩んでいた。どう答えても怪しい。正解を知らない燈米は、煌のことを言うべきなのだろうが、恩人を売ることなんてできない。


「走って逃げた。」


嘘だ。それも、わかりやすい嘘だ。


「嘘でありんすな。わかりやすいことでございんす。」


燈米が動揺する。なんでバレたのかわかっていない様子だ。


「な、なんで!?」


瞳次が呆れた目を向ける。そして、腰に刺した小刀に手を持っていく。


「主さんとは(ねんご)ろにできると思うておりんしたのに、心残りでなりんせん。」


腰の小刀をゆっくり抜く。その刃は半透明の何かで、刃の先の空間は歪んで見えた。


「なにそれ?」


燈米は口をぱっくりと開ける。それもそうだろう。武器が世界観に合ってなさすぎる。


「ご存知りんせんのかえ?これは『転装(てんぐ)』と申して、転生者ならではの武器でありんす。」


燈米は今まで拳一つ、身一つで戦ってきた。知ってるはずもない。


「あたしそんなの持ってない!そういうかっこいいの欲しい!」


成人女性が地団駄を踏む。絵面が酷すぎる。幸い人気は少ないので誰かに見られることはない。


「主さんは、お幾つになられんすか!? えぇ大人が面妖な、恥ずかしいことでありんす!」


見たくない物を見てしまったと。両手で顔を覆い隠す。


「これは(能力)に合わせて分け与えられんす。主さんの持てる力は、いかようなものでありんすか?」


迷いながら口をパクパクする。言ってしまえば転生者として戦いで不利になる。だが転装がどんなものか知りたい。しばらく考えてから、意を決して口を開く。


「あたしの能力は、『転生回数分の身体能力上昇』。例えば、二回転生したら元の身体能力の二倍で動ける、みたいな。」


瞳次は目を細める。


「主さんは今、何回目のお命を歩んでおいででありんすか?」


燈米は手をもじもじしながら恥ずかしそうに言う。


「十回目」


瞳次がほおける。思ったより少なかったのだろう。転生者であれば千回ほどがザラにいる。しばらくしてから短く息を吐いて、考え込む。


「十というからには、十倍の速さで動けるのでありんすな。」


燈米は目を光らせる。転装が使えるのか使えないのか気になるのだろう。


「おそらく使りんせん。」


燈米が固まる。期待していたのに使えないと言われたのだ。


「な、なんで?」


萎れた声で瞳次に問う。


その声を聞いて、瞳次はため息を吐く。


「それはそうでございんしょう。からだの力を強める御仁に、特別な武器を渡すにしても、何を渡せばよいのでありんすか?」


瞳次は刃を燈米に向ける。戦闘が始まりそうだったのをすっかり忘れていた二人は、気を取り直す。


「この小刀は『八ヱ具叉(やえぐさ)』、わっちの相棒でありんす。」


瞳次は透明な刃を撫でる。大切に大切に撫でる。


「八ヱ具叉は肉を断たず(くう)を断つものでありんす。」


「だから」と続けて。


「わっちは近間(ちかま)不得手(ふえて)でありんすよ。」


燈米が目を見開く。自分の弱点を今から戦う相手にいったのだ。


「なんでそんなこといったの?」


純粋な疑問だ。燈米にとって相手が自分から弱点をを言ってくることはなかった。だから不思議でたまらないのだ。


瞳次は「ふっ」と笑ってから答える。


「そのようなこと、わっちだけが主さんの事を知っているのが、不公平だと思うただけでありんすよ。」


燈米も応えるように微笑む。それ以降言葉はなかった。


先に動いたのは瞳次だった。八ヱ具叉振りかぶり、振るう。燈米との距離は離れている。明らかに当たることはない。


だが―


八ヱ具叉が振り下ろされたと同時に、何かが燈米の肩から腰辺りまで斜めに切り裂く。


「は?」


傷口から血が流れ道に血が滴る。案外傷口は浅かったが、さっきの攻撃を全く理解できなかった。


燈米は冷静に分析する。


(認識されていなかったら攻撃されない?)


そう思い。燈米は瞳次の周囲を回る。一般人には捉えることすらできない。


瞳次はめを閉じる。瞼の裏で何かを見ているのか。一切の焦りを見せない。


「空が揺れておりんすよ?」


再び八ヱ具叉を振り下ろす。それは正確に燈米に当たる。燈米の腕が縦に裂けた。燈米の動きが止まる。


「くっ―!」


「空が揺れている」その意味を燈米は理解できない。瞳次の発動条件を燈米は考える。


(いつ発動した?八ヱ具叉を抜いた時?それとも発動条件はない?瞳次は、『肉を断たず空を断つ』と言った。それが本当なら斬撃を飛ばして直接攻撃してきているわけじゃない。じゃあなに?結界術?)


考えていると再び瞳次が八ヱ具叉を振り上げ、振り下ろす。燈瞳は刃の軌道をじっくりと見て、避けた。だが、それは燈米に当たった。もう片方の腕が裂けた。


「何なのよ!?」


両手から血を流し血まみれの状態だ。本当に、そろそろどうにかしないとやばい。


瞳次と出会った時を最初から振り返る。


「風が、止まった……」


瞳次が自己紹介をした時に風が止まった。それは今も続いている。ここはすでに瞳次の領域だった可能性がある。


それに気づくと燈米はバックステップで瞳次からさらに距離を取る。


十メートル以上距離を取ると、風が吹いた。


「やっぱり結界みたいの張ってた!あんた近距離得意じゃない!」


ピシッと指を刺す。その指には怒りしかない。


「はて?」と言いながら首を傾げる。端から見たら可愛らしいものだが、燈米にとっては憎たらしいだけだ。


「あんたほんとに!」


額に青筋が浮かぶ。近くにあった拳ほどの石を拾った。その石を強く握る。割れないか?と心配になるほど強く握る。


「石は刀で切れるの?」


燈米は笑顔で問う。だが目は笑っていない。頭の中は、どう投げたら当たるのかしか考えてなかった。


「これは、ようござりんせん。」


瞳次の顔が引きつる。足を後ろに下げたいのはやまやまだがそれをしたらより不利になってしまう。


「ちょいとお待ちなんし!」


手を前に突き出し停止するようなポーズをとる。


だが燈米は止まらない。野球ボールを投げるような体制になる。


「じっくりとお話し合いをいたしんしょう!」


燈米は止まらない。片足を上げて振りかぶる。石が放たれた。


「死ね!!!」


弾丸のように放たれた石は、正確に瞳次を捉えている。


「ほんの、ちょいとしくじりりんした。」


瞳次の頭に石が直撃した。


頭があった場所からは血が噴水のように出でいる。胴体が生きてるかのようにバランスを取ろうとしてが、失敗して倒れる。



――残りの転生者は三人だ――



「はあはあ」と息が乱れる。傷口からはまだ血が流れ、道に小さな池を作っている。


「帰らなきゃ。」


ふらふらと体を揺らしながら帰ろうとするが視界がボヤけてきた。


「こんな…ところ……で………」


耐えきれずに正面から倒れる。意識はかろうじて残っているが瞼が重たくなってきた。そんな時、聞き覚えのある声がした。


「お姉さんまた無理したんだ。」


その声は少し冷たく、何かを諭すようだった。


意識がさらに細くなる。


「……(なお)……()


振り絞るように声を出すが、とても小さい。聞こえているのかは、分からない。


意識が完全に途切れる前に少しだけ聞こえた。


「…モ……アク…ス」


詳しく聞き取れなかったが恐らく、




煌の能力が、発動された。

花魁口調めっちゃ悩みながら書きました。気に入ってください。一応もうキャラは全部出たんですけど、好きなキャラとかできなした?できてたらすごいですね。キリが良かったのでここら辺で3話は終わらせときます。最初の章はあんまり長く続けるつもりないので次で終わるかも?期待していてください。

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