4 侍女の嫌がらせ
「奥様、何をしていらっしゃるのですか?」
「もうすぐ旦那様の誕生日でしょう?ハンカチをプレゼントしようと思っているんです」
数日後、フルールは自室でハンカチに刺繍を施していた。
伯爵邸にある彼女の部屋は、ルースが与えた代々伯爵夫人が使う大きな部屋だった。
当主であるルースの自室の隣に位置しており、中はアンティーク調の豪華な家具で埋め尽くされていた。
初めてここへ来たとき、彼女は感動してしまった。
こんなにも素敵な部屋をこの私に与えてくれるのかと。
フルールが実家で使っていた部屋は、伯爵邸の一番隅にある使用人の部屋だった。
彼女の両親がお前にはここがお似合いだと言って与えた場所だった。
そこはベッドとテーブル以外は何も無いような殺風景な部屋で、長い間誰にも使われていなかったのか、埃が舞っていた。
フルールの実家での扱いは、まさに使用人以下だった。
懸命に刺繍に励むフルールを見た侍女が嘲笑うように口角を上げた。
「奥様ったら。そんなもの、旦那様が受け取ると思いますか?旦那様の工房には奥様よりもずっと刺繍の上手い方がたくさんいるんですよ?」
侍女の嫌味にも、フルールは表情を変えなかった。
「大事なのは気持ちよ。私ほど旦那様を愛している方は他にいないもの。心を込めて作れば、きっと喜んでくださるわ」
「……」
侍女はそんなフルールが気に障ったのか、彼女はわざとフルールの背中に自身の身体をぶつけた。
「キャッ!」
「あら、ごめんなさい」
ぶつけられたフルールは、針で自身の指を刺してしまった。
チクリとした痛みが走り、指から血が出た。
そんな彼女の姿を見た侍女は、笑いを堪えるように口元を手で押さえた。
「わざとじゃないんです、奥様……」
「……」
彼女にとっては、このくらいの嫌がらせは日常茶飯事だった。
実家では頭から水をかけられたり、階段から突き飛ばされたりもしたのだ。
(絆創膏を持ってきてと言っても、どうせ持ってこないでしょうね……)
フルールは席を立ち、侍女の手を借りることなく、自ら応急処置を施した。
実家の伯爵家で過ごしている間、怪我はつきものだった。
彼女は指に絆創膏を貼ると、再び椅子に座って途中だった刺繍を始めた。
侍女のことなどまるで気にしていないようだった。
「な、何なのよ……この女……」
嫌がらせに屈しないフルールに腹が立ったのか、侍女は苛立ったように荒々しく部屋を出て行った。
「頑張って作ればきっと旦那様も喜んでくれるわ……だってとっても優しい人だもの……」
彼女は強がっているのではなく、本当に嫌がらせを気にしていなかった。
実家で受けた壮絶なものに比べたら、これくらいはどうだってことない。
自分は愛されるに値しない人間なのだから、そういう風に言われて当然なのだ。
彼女は生まれ育った環境のせいか、自己肯定感があまりにも低かった。
数時間後、指に傷を作りながらも彼女は薔薇の刺繍を施したハンカチを一枚完成させた。




