第9話(1)40階層のボス
巨大なゴーレムが地面を拳で打ちつける。
その直前、俺は壁を蹴って跳び、空中で前方に回転しながら、ゴーレムの頭に双剣を打ちつけていた。
刀が跳ね返される勢いで後方に回転しながら、俺は固く閉じた大扉に足をつけ、そのまま再びゴーレムへむかって跳躍した。
シンは地表で、振り下ろされるゴーレムの拳を避けながら、ゴーレムの足を槍で突いている。
俺達は、かれこれ30分くらい戦闘を続けている。
ここはダンジョン40階層の終点にある大広間だ。
ダンジョンでは、10階層ごとにボスが出る。
ボスの間の大扉の手前には、外にでるためのワープ装置がある。
でも、ボスとの戦いの場に入ると、入り口の大扉は勝手に閉まって、敵を倒すまであかなくなる。
つまり、ここに入れば、勝つか死ぬか。そのどちらかしかない。
このダンジョンで40階層のボスの間に突入したのは、俺たちが初めてだ。
ボスの情報は何もなかった。
だから、準備は万端にした。
ここ何週間か、ダンジョン料理をたくさん試して効果を確認してきた。ジャンヌに食材入手特性付きのナイフをもらうまで全然知らなかったけど、ダンジョン料理の効果はかなりつかえる。
今日は37階層にあった休憩室で、確実に攻撃力と防御力があがる料理を食べてきた。
ポーション類も種類と数を十分そろえた。
ゴーレムが地団太を踏んだ。地面が激しく揺れ動く。
もしも俺が地表にいたら、この地団太で動きをとめられ、そこをゴーレムの拳で襲われ、致命傷を負っていただろう。
だから、俺は地表にいない。
最初の地団太の時に、これは危険だと思ってジャンプしてから、俺はもっぱら壁を走り空中にとどまりつづけている。
シンは壁をのぼることはできないからずっと地表にいて、たまにしっかりゴーレムの攻撃をくらっているけど、バカみたいな防御力特化型で盾も持っているので、致命傷にはならない。
ゴーレムの動きは遅いから、隙を見て回復することもちゃんとできる。
だから、戦っていて危ない感じはない。
だけど、問題は、このボスのかたさだ。
普通に攻撃しても、ゴーレムはほとんどダメージをくらわない。
俺は再び壁を蹴り、ゴーレムの背中に斬りこんだ。
ゴーレムはちょうど地表のシンに向かってなぐりかかっているところだった。
双剣の刃が偶然ゴーレムの岩と岩の間に入った。
妙な手ごたえがあった。
俺はゴーレムの背中から跳びのきながら、マスクの中でニヤリと笑った。
弱点が見えた気がする。
俺は壁を走りながら、タイミングを見計らった。
ゴーレムが再びシンに向かって拳を振り下ろした瞬間、俺はゴーレムの肩に飛び移り、そして、首の後ろの岩と岩のつなぎ目に思いっきり刃を突き通した。
ゴーレムの唸り声がとどろいた。
「弱点は岩と岩のつなぎ目だ! 首の下にあった!」
ゴーレムが腕を前にだすように動いた時、首の下の岩と岩の間に、普段は見えない黒く光る部分が見える。これがこいつの弱点だ。
「僕もずっと狙ってるんだけどなぁ。膝裏の割れ目にそれっぽいのがあるんだ。でも、なかなかタイミングがあわなくて」
そうぼやきながら、シンがゴーレムの足を青白く光る槍でついた。
シンのしつこい攻撃で、ゴーレムの足の岩はいくらか砕けている。ダメージはろくに与えていないけど、あのまま続ければ、岩が崩れて弱点が露出するかもしれない。
それからさらに5分くらい、俺は上からゴーレムの背中の弱点を狙い、シンはゴーレムの膝裏を攻撃、を繰り返していた。
「よし!」
シンの声が聞こえた。ついにシンがゴーレムの膝裏の弱点を突いたらしい。
そのとたん、ゴーレムががくっと膝をつき、地面に手をつき、そして、ゴーレムの両肩の間にある割れ目の奥の黒い弱点がはっきりと露呈した。
俺はゴーレムの背中にとびのり、ゴーレムの弱点に全速力で連撃をたたきこんだ。
3発目をあてたところで、早くもゴーレムの断末魔の声が響いた。
ゴーレムの岩石でできた巨体が崩れてバラバラになって落ちていく。
「やった! 倒した!」
シンの声が響き、ゴーレムの巨体が徐々に消えていく中、大扉のロックが解除される音が聞こえた。
大扉がゆっくりと開いていく。
俺は双剣を握りしめ、今まで以上の集中力で待ち構えた。
このダンジョンじゃ、ボスを倒したからといって油断するわけにはいかない。
思った通り、開いた扉の隙間を猛スピードで駆け抜けてくる奴がいる。
俺は全速力で走り、双剣を振った。
俺の双剣が盾にぶつかり、激しい音をたてた。
奴はすぐにとびのき、進路を変える。そこをふたたび俺が双剣で斬りかかる。
そこで、奴は文句を言った。
「ちょっとー。本気で斬りかかるとか、ひどくない?」
そもそも、こいつは俺が斬りかかるのをわかっているから、盾を装備しているんだけど。
それに俺は本気で攻撃してはいない。あえて盾を狙っている。
俺はシンに叫んだ。
「シン! こいつは俺がとめるから、早く宝を確保しろ! 横取りされてたまるか!」
「うん。わかった」
イライラするくらいのゆっくりさで、シンは金印の宝箱へ移動していく。シンは、宝を横取りされても別にいい、くらいの気分でいるから。
金印の宝箱の争奪戦はどの階層でも起こる。でも、ボス戦の後は特に熾烈だ。
ボス戦の後に出る金印の宝箱は、他の階層よりいいアイテムがでるから。
ボスが倒された後、大扉は自働的に開くようになる。
その瞬間に中に入りこめば、ボスと戦うことなく、その先に進める。
しかも、先に金印の宝箱に到達できれば、宝を横取りすることが可能。
ダンジョンじゃ、宝の横取は日常茶飯事。奪われるまぬけが悪いとみんな思っている。
だから、ボス戦が行われている時は、大扉の前に横取を狙う探索者がたくさん待っている、なんてことがよくあるらしい。
でも、この40階層で俺たちの宝を横取りしようって奴は、ひとりしかいない。
「俺たちが苦労してボスを倒したのに横取りしようなんて卑怯だぞ! ジャンヌ!」
俺はファイヤーボールをよけつつ、宝箱へ突進しようとするジャンルをせき止めた。
「苦労したのは弱いからでしょ~? 宝くれたら、次の階層、一緒にまわってあげる」
「横どり野郎なんかといっしょにまわるもんか!」
そこでようやく、シンののんびりした声が響いた。
「はいはい、宝はもらっといたよ。僕はいらないから、あとでキョウにあげるね」
「シン、そういうことはこいつの前で言っちゃだめだ。受け渡しのところを狙われるぞ」
ジョンヌは目当ての物がなくなったので戦闘態勢を解いて言った。
「あんたね~。あたしを強盗かなんかとでも思ってんの?」
「おまえは強盗以外の何者でもないだろ!」
シンはのんびり俺にたずねた。……俺とジャンヌの小競り合いはいつものことだから、シンは完全にスルーだ。
「どうする? 今日はこれで帰る?」
「ああ。あのボスにあれだけ苦戦したから、まだ41階層は無理だろ」
慎重派の俺とシンは、ボスを楽に倒せるようになってからしか、次の階層に行かない。
ま、攻略法はわかったから、次は楽に倒せると思うけど。
残り時間もあまりないし、俺としては今日はもう帰るか、40階層でトレーニングをするか、の選択肢しかない。
そこで、ジャンヌが変な声をあげた。
「あれ?」
ジャンヌが見ている方向を見て、俺も気が付いた。
「あ? なんだ、あの扉?」
次の階層にむかうワープ装置の向こうに薄暗い廊下があって、そこに扉があった。
「扉……まさか、他のダンジョンにつながってんのか?」
「40階層で? それはないでしょ。でも、なんか気になる~。よし、開けてみよー」
ジャンヌがすたすたと扉のほうに歩いて行く。
「おい。トラップだったらどうすんだよ」
慎重な俺はそう言ったけど。
「さてさて。あけちゃうよー」
ジャンヌは、ためらいもなく怪しい扉を開いた。




