1.転生しました
何でもないある日の日常の中、一人の人間が死んだ。よくあるありふれた交通事故だった。
しかし、その魂は異質だった、しばらく現世をさ迷ったのち、異世界に飛ばされる。通常の輪廻から外れたその魂には、前世の記憶が記録されたままだった。
異世界に飛ばされた影響で、魂が変質してしまった。そうして人間として産まれる予定だった一人が、一匹として産まれた。
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ぼんやりとした意識の中で自分が自分でなくなっていく。
ひどく体がだるい。思考が曖昧で、まるで夢の中をさ迷っているようだ。
とても長い時間が過ぎたある時、唐突に意識が途切れていく。
そして、その意思に逆らわずに意識が途切れるのを待った、少しの期待と共に。
目が覚めた時に、真っ先に感じたものは、固い壁だった。
壁は全身を覆っていて、とても出られそうではなかった。
壁の中を探っていると、ヒビの入った場所を見つけたので、ヒビを内側から押し広げて行く。
しばらく続けると、ようやく外の光が入ってきた。
外に出て、自分が入っていた場所を見ると。
そこには、どう見ても割れた卵の殼があった。
その卵は、全体的に赤くオレンジ色のきれいな模様が入った地球には、存在しないであろう代物だった。
「冷静になって落ち着こう」
うん。全然冷静じゃない。今、しゃべったつもりだけど、ガウーって声がでた。少なくとも人間じゃないのはわかった。怖い。
ふう。少し落ち着いてきた。少し取り乱したけど、大丈夫だ。
とりあえず自分の体を見てみる。
赤い鱗に鋭い鉤爪、長いしっぽ背中に意識を向ければ小さな羽がピコピコ動いている。
ドラゴンになってしまったのだ?
地球にドラゴンはいなかったはずだ。
記憶は曖昧だが、それは間違いない。だとしたら、ここは異世界なのだろうか。
小説や漫画では、最強の生物だが、この世界でもそうなのだろうか?
調べる方法は・・やっぱりあれか・・・「すっステータス」・・・何も起こらない。 またガウーって言った。 怖い。
少し恥ずかくなってふと思った。
自分の性別はどっちだろう、と。前世の記憶は曖昧で自分に関係する情報は、ほとんど覚えていなかった。ゆえに自分の性別がさっぱりわからなかった。
ドラゴンの雌雄判別はできないし、とりあえず、雌雄どっちでもいいように、「僕」と言う一人称を使おう。ガウーってなるけど・・・
そろそろ周囲を見渡そう。
近くに親の姿はない、それどころか草木一本ない。
クレーターのようになった中心に僕の産まれた卵がある。
他に見えるのは、藁をしいた大きな寝床と綺麗な卵の群れだけだ。見える空の景色からして、もしかしたら山の山頂なのかもしれない。
卵を見てみよう。
僕が産まれた卵のほかに10個ほど卵がある。嫌な予感がする。少し考えてみよう。
一つ目は産まれたばっかりの幼竜どうしで戦って生き残った個体を育てるパターンこれは地球上でも少なからず存在した。
ドラゴンと言う強い種族ならば、より強くあるために、この方法は、あり得なくはないだろう。
もしそうだったら、一番最初に産まれた僕が有利だけど、同族を倒すのは悲しいし。そうじゃないといいな。
二つ目は、ドラゴンと言う種族がそこまで強くない可能性。
生き物は強ければ強いほど産まれる子供は少なくなる。
百獣の王であるライオンで、1~4頭程度であるから、11匹は、最強種ならば、かなり多いと言えるだろう。ぶっちゃけこの説が一番有力である。
こんなクレーターのような場所に巣を作っているのは、他の生物に追いやられたからかもしれない。
無論この環境が巣を作るのに適しているだけの可能性もあるが・・・これは早急にドラゴンの生体に詳しくならないといけない。
三つ目は、卵の孵化する確率が低い可能性。
これが一番平和だ。これは、他の卵が孵ればわかるだろう。
これが今考えられる可能性だ。僕はあまり頭が良くないけど、二つ目だと思ってる。
生き残るためには、ある程度鍛えておいた方がいいだろう。
どうやって鍛えよう、走り込みだろうか?
まあ、今は卵を観察していよう。
二匹目が孵った瞬間戦闘が始まる可能性があるし。
卵を観察しはじめて15分ぐらい経った時、不意にパキッと音がなった。
緩んでいた緊張が高まる。
そこからさらに5分程度で完璧に卵から這い出てきた。
どうやら産まれた瞬間に戦闘が始まることは無いようだ。
緊張から解放されて一息つくと、別の所から、卵が割れる音がした。
三つ目が産まれるようだ。
「今度は早かったな」・・またガウーって言った。もう怖くない・・・たぶん。
僕は今二番目に生まれてきた子を観察している。
まだまだ幼い顔立ちだが、立派なドラゴンだ。自分では気づかなかったが、かわいい角が生えている。
大きくなったらかっこよくなるのかな?
ある程度観察し終わったとき、卵の方を見てみると、二匹も増えていた。
集中していて気づかなかった。
これで僕を含めて五匹目だ、こうなってくると三つ目の説は間違いだったのだろう。つまり、ドラゴンより強い生物がいる可能性が高い。
強くならねば。
大人しく親の帰りを待っていると、じゃれあっていた二匹に巻き込まれてしまった。
そこから、僕も混ざってじゃれあった。
なんだかとっても楽しい。前世の記録を持っているだけで、僕の根本は、幼竜なのだろう。
少し疲れたので幼竜達のじゃれ合いから何とか離脱する。
「なかなかにはしゃいだな」
ガウーって言ったもう突っ込まない。
結局あのあと産まれていた全員をまきこんでじゃれあった。
そして、その内にさらに二匹生まれて七匹になっていた。
やっぱりじゃれあいに巻き込まれていた。
最初に考えていたのは杞憂だった。
こんなに楽しいのに命がけの戦闘なんてするわけない。
まあ、ある意味戦闘だったけど……
休憩を続けていると、遠くから風を裂くような飛行音が聞こえてくる。
一瞬びっくりしたけどなぜだか警戒心が続かない。
そうして近づいてくる風切り音に顔をあげるとそこには、一頭のドラゴンがいた。
それはあまりに美しく、強大でこの世に勝てる者がいないと思わせるに十分な風格だった。
「天空の王者」思わず声が漏れる。
しかし、それが気にならないほどに目の前の存在は美しかった。
不思議と恐怖心はわかない。本能で理解していた、あれが僕の親だと。
僕の親は、四本の腕を持っている熊のような生き物を咥えていた。生まれて初めての食事は熊のようだ。
そして僕はこの後思い知ることになる。
世界は残酷で、この平和が長く続かないことを。
だけど平和を享受している僕は、まだ知らない。
初投稿です。思いつきでの投稿ですので、マイペースに投稿していきます。良ければブックマーク宜しくお願いします
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