スレイブ・オプナへ
タクローが助けた亜人達と共に、仲間達と合流する。
亜人達代表で、狼の獣人であるリアナ・オーコネルが事の顛末を話した。
タクロー達は、神妙な面持ちで話を聞いていた。
「ドラゴンか……、都市程の大きさねぇ……」
「はい、火を吐く事からフレイムドラゴンかと思いましたが、あんな大きいのを見た事がありません……」
リアナが言う『フレイムドラゴン』は、火山、ケオ・ヴノ近くに生息するモンスターだ。
大きさは戸建ての家一軒に相当する。炎のブレスを使い、周囲を焼く。
また、魔法攻撃も少ないながらも使ってくる。
鱗は固く、魔法武器でなければ歯が立たない。炎耐性を有しているが、反対の氷耐性は低く、退けることはこの世界の住人でも可能であった。
しかし、好んで相対しようとはしない。何故なら、ドラゴンはこの世界で最強の存在だ。
弱点の有るフレイムドラゴンを退けるのですら、数名の命が犠牲に成る事も多々あるからである。
「でかいフレイムドラゴン……」
タクローは、兜の下で苦笑いを浮かべた。
「タクローくんが前に言ったアレ、当たりなんじゃない?」
「炎竜帝……」
炎竜帝ヴァン・フロガは、ゲーム上では最強の存在である。
他には『氷竜帝』『風竜帝』『土竜帝』の三体のドラゴンが居た。俗に言う『四大竜帝』である。
どれもこれも、炎竜帝に匹敵する力を持ち、ゲーム上では倒す事の出来ない存在であった。
タクローは腕を組んで、考える素振りを見せる。
「逃げ遅れた人達も居ます。兄達にこの事を知らせなければ……」
神妙な面持ちで、うなだれるリアナを見たトリスがとんでもない事を言い出す。
「タクローさん、何とか出来ないか?」
トリスの言葉に、タクローは思わず「はぁ!!?」と驚いた声を上げる。
「相手は巨大とは言え、フレイムドラゴンみたいな奴なんだろう? なら、タクローさんの強力な氷魔法で何とか出来ないか?」
タクローは無言になる。
「無理だよ! 相手が炎竜帝であれば、倒せっこないよ!!」
タクローの代わりにヒカルがトリスに反論する。
「しかし、タクローさんの力なら……」
隣りにいたアリーシャも無言では有るが、タクローに期待の眼差しを向ける。
リアナ以外の亜人達は、タクローの力の一端を見ている。その為、彼等もまた、タクローに哀願するすような眼差しを向けた。
「倒せるかは定かじゃない……。なら、まずは逃げ遅れた人達の救出が先だろう」
「なるほどね、確かに一理あるか」
タクローの言葉に、ミーナは一人納得する。
「ちょ!? 正気!? 相手の力量も解らないのに……」
ヒカルは驚いてタクローを見るが、兜で顔を覆っているので、その表情は読み取ることが出来ない。だが、彼女にはタクローの考えている事が何となく理解して、ため息を吐いた。
「眼の前で困っている人が居る。今の俺には力がある。なら、答えは決まってる」
タクローはキッパリと言い放った。
パンッ
渇いた破裂音が響く。それは、ミーナが強く手を叩いた音だった。
「決まりだね! まずは亜人さん達の救出だ。聞いた話では、リアナちゃんが出てきた森を北東方向へ行けばいいみたいだから、一式は置いていって、陸路でその『スレイブ・オプナ』まで向かおうか」
ミーナが話をまとめる。
タクローは彼を見て、頷いた。
ヒカルは疲れた表情で、ため息を吐く。
トリスもアリーシャも覚悟を決めた表情で頷いた。
「皆さん……」
リアナを筆頭に亜人達が目に涙を浮かべた。
「マスターに任せておけば、大丈夫」
いつの間にか、イツキ達少女達がその輪に加わっていた。
かくして、タクロー達はスレイブ・オプナへ向かうことになった。
一同が、森を行くために一式トランスポーターから降りようとすると、リアナが声を掛け、全員を呼び止める。
「この魔導車でも、森を抜ける方法はあります!」
リアナは語りだす。
一同は足を停めて、彼女の話を聞いた。
スレイブ・オプナに行くには、森や山を越えねばならない。
本来は険しい道程であるが、一部の者は比較的楽に行き来出来る道が有ることを知っている。リアナもその一人だ。
兄のおかげで、彼女もまた秘密を知ってたのである。
リアナが駆け抜けた森の一部には、大きな荷馬車を通すための隠された道がある。
それは、各街や都市から救出したり保護した亜人達を乗せた大型荷馬車をスレイブ・オプナまで安全に往来できるように作られている。
そして、それが偶々偶然にも一式トランスポーター近くに有るという。
リアナの案内で、森への入り口にやって来る。
見た目は木々が生え、深い茂みが森への侵入を拒んでいるようにすら見える。
しかし、タクローは話を聞いて眼の前の光景の違和感を直ぐ様見つけ。
大型の荷馬車が通るのであれば、木々を切って道を作らねばならない。しかし、そう言う感じには見えなかった。
だが、確実に整地が済んでいると確信する。
「なるほどね、茂みで道を隠し、木の切り取り方で錯覚を起こして、道を解らなくしているのか……」
「えっと、タクロー様……でしたね。タクロー様は、鋭いですね……。その通りです」
リアナの言葉を聞いて、兜の下ではドヤ顔となる。
茂みは魔法によるフェイクだと解ったのは、国立公園未開地区にあるエルフの集落に至る道で何度か似たような光景を目にしていたからである。
木々はジグザグに見えるように切られており、真正面から見れば隙間なく木が生えている様に見えるよう計算されている。
目線を外してみれば、なんてこと無い事だが周囲に広がる森のと言う光景が、そんな事すら気が付けないようにしてしまっていた。
後からリアナが言う話では、木々の数本はフェイクということで、道の隠蔽を徹底しているのだとタクロー達は理解した。
タクロー達が森の中へ進む一方で、シンジとリリーアはため息混じりで遠方の光景を見ていた。
セレス兵と亜人達が激しくぶつかり合っている。
魔法の応酬かと思われたが、亜人達は強力な魔法を撃つと身一つでセレス兵へと襲い掛かる。
一方のセレス兵達は、マジックアクティベーターを使って、魔法攻撃から支援魔法、回復魔法と多種多様に使い分けられいた。
「数は亜人が上、だけど魔法攻撃バリエーションが多く、セレス兵達は数の不利を何とかしてしまっている」
シンジの的確な分析を受けて、リリーアは持っていた双眼鏡で戦闘風景を食い入るように眺めていた。
「この戦い、どっちが勝ちます?」
「ん~……、それは何とも言えないけど……、一つ言えることは、長期化しそうだなって事だね」




