新たな出会い3
タクローの姿を見るやいなや、狼の少女は身構える。
「に、人間!?」
手に持ったボロボロのナイフを構えて、数歩下がる。その立ち回りは、トリスが唸り声を上げる程であった。
「おいおい、待ちなって! この人は俺達を助けてくれたんだ。森の奥に居たモンスター達を倒してくれたんだよ」
警戒と、攻撃性を孕んだニオイを発する狼の少女に向かって、トリスはなだめに掛かる。
「あなた!? あなたも、人間の手先ね!!」
「手先じゃねぇ、俺と彼等は『仲間』だ!」
「……可哀想に、そう言って丸め込まれて居るのね……。ならっ――――」
狼の少女は、タクローに向かって駆け出す。
「わっ!? 馬鹿!!」
トリスが制止する間すら無いほどに、彼女は素早かった。
二本の剣閃がタクローに襲い掛かる。だが、タクローは全く動こうとしない。
「人間憎し……か。イツキ達も、こうなっていたのかもな……」
只ため息を吐いて、ボソリと思った事を口から吐き出す。
何の音もなく、少女のナイフは見えない壁に阻まれる。強く押し込もうとする一本と、切り裂かんとする一本のナイフはどちらも鎧を傷つけることさえ出来なかった。
「嘘!?」
少女はタクローから飛び引くと、身構えて睨みつける。
タクローは両手を開いて、武器を持っていないということをアピールするが、最初の攻撃を防いでしまった事で、彼女は警戒を一切解こうとしなかった。
「いい加減にしろ!!」
トリスの怒声が少女に向けられる。
トリスは、少女とタクローの間に立った。神槍・雷音を構えて、少女を睨みつける。
「受けた恩を仇で返すってんなら、俺が相手になってやる!!」
トリスを睨みつける少女、二人の間にしばしの静寂が包む。
「タクローさん、ちょっと良い?」
「ん? 何?」
「近場でモンスターの反応数体が、一定方向を目指してるみたい……。彼女みたいに追われている人が居るのかも……」
「ん、了解。位置を教えてくれ」
「助けるの?」
「当たり前だろ?」
「……ふふふっ、そだね。了解、データ、転送するよ」
上機嫌なヒカルの声の後に、HUDにレーダー情報が表示される。
タクローは背部エアロスラスターを展開させ、飛び立つ。
眼下には、驚愕の眼差しを向ける狼の少女が居た。
「トリス、そっちは任せる!」
「あいよ!」
トリスは眼の前の少女に不敵な笑みを向ける。
「驚いたか?」
「い、今の鎧は、空を飛べるの!?」
「ああ、あの人だけだがな」
「もしかして、シルフィアーナの援軍!?」
「シルフィアーナ? いや、俺達は言うなれば冒険者だが?」
「この時代で『冒険者』なんて、今時居ないわよ」
トリスは構えていた槍を下げて、頭をかく。
「つってもよぉ、他に言いようが無いんだよなぁ……」
トリスの困った表情を受けて、ようやく少女は武器を下げる。
「はぁ、あなた、話が下手でしょ?」
「ああ?」
「良いわ、私の負け。どっちみち、あなたに勝てそうにないし、まして、空飛ぶ全身鎧に勝てそうにも無いわ……」
「お、おぅ……」
少女の態度に、トリスが戸惑う。
それがおかしかったのか、少女がクスクスと笑った。
トリスの近くに一式トランスポーターが停車する。
中からアリーシャが現れると、狼の少女はまたしても身構えた。
アリーシャは、少女を見つめて首を傾げる。
「やっぱり、トリスの体型はおかしい。彼女みたいのが、本当の『狼』の姿ね……」
「うるせぇよ! 鍛えた肉体をとやかく言われる筋合いはねぇ!」
「だからって、バカでかくなり過ぎ……」
アリーシャがため息を吐くと、最初は身構えていた少女がいつしかキョトンとした顔になっていた。
トリスをひとしきりからかった後、アリーシャは少女に近づく。
「アリーシャ・ドロセルよ。あなたは?」
急な自己紹介に、少女はまたしてもキョトンとした顔に成る。
「俺は、トリス・ライナだ」
「わ、私は、リアナ・オーコネル……」
トリスはニカッと笑った。
「よし、リアナ、事情を説明してくれないか?」
タクローが目標ポイントとなる森のなかに着地する。
着地ポイントには、今まさにモンスターに襲われれんとしていたドワーフが居た。
「アームズ展開!!」
左右の太もものホルダーが開放され、二丁の魔導拳銃が出現する。
手に取ると、直ぐ様ドワーフに襲い掛かる巨大な蟻のモンスター、ジャイアント・アントに向けてトリガーを引いた。
タンタンタン
警戒な発砲音が森に響くと、ドワーフの目の前で巨大な蟻が崩れ落ちる。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ……」
怯えたような返事を聞くと、タクローはHUDに表示された情報を元に移動を開始する。
数名の獣人達と一人のエルフが無数の昆虫やらトレントなどの植物系のモンスターに囲まれている。
「助けて……」
「い、いやだ……、死にたくないよ……」
「お母さん……」
悲痛で消え入りそうな声がシンと静まり返る、森に吸い込まれていく。
一体の昆虫モンスターが先陣を切って飛び出す。
パァン
一発の銃声が森にこだますると、昆虫の複眼と複眼の間に穴が開く。
自らの体液を穴から吹き出させ、昆虫のモンスターが崩れ落ちる。
「ファイヤーボール、追加、ショット、ラビットファイヤ」
炎弾を放ちつつ、銃弾を同時連射。
亜人達を取り囲む、モンスター達を薙ぎ払う。
その光景は、亜人達にとってはまるで救世主の如き姿でその眼に映った。
銀色に輝く鎧が、火の玉と爆発音でモンスターを一掃していく。
剣で斬りつけている訳ではない、ましてや武器を持っているようには全く見えない。
只、両手に握った何かが爆発音を響かせると、モンスターが体液を撒き散らせて動かなく成る。炎弾は強力で、植物モンスターを火柱から炭へと変えていく。
「凄い……、銀の救世主……」
一人の亜人が言葉を漏らした。




